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041 コレクター、決闘をする

 やれることはやった。魔法も道具も使えないが、ここからはステータスで戦う必要がある。

 剣を二本持ち入場する。

 天井が開いたアリーナは、まるで小規模なサッカー場や野球場のような見た目だった。

 どうやら貴族の剣技大会で使われる場所らしく、観客席も広い。設備の整ったコロシアムだ。


「あれが王子の相手か」

「なんか可愛いな」

「確かに、可愛くね?」


 背後の観客席から何か聞こえてきた。気にしない気にしない。

 戦闘を行う範囲はそこまで広くは無いため、ひたすら逃げ回るのは難しいかな。

 なんて思っていると、向かいの入場口からルディオが歩いてくる。


「よぉ、逃げなかったんだな」

「まあね」

「度胸だけは認めてやるよ。剣技大会優勝者のこの俺様には勝てねぇだろうがな」

「どうかな?」


 剣技大会優勝してたんかい。

 そっか、ってことは貴族の中でもかなりの実力者ってことになるね。これが人間の国じゃなかったら危なかったかもしれない。

 エルフの身体能力は人間の上位互換のようなもの。獣人族の身体能力は……それを遥かに凌駕するほど飛び抜けている。悪魔族も同様だ。

 エルフ辺りなら剣術で勝てるかもしれないが、他は難しいだろう。まあそんな機会が来るのかは分からないけどね。


「双方剣を構えよ」

「……」

「……へっ」


 高台に登った騎士長が合図を送ってくれるらしい。

 カリウスとエリィは観客席から見守ってくれている。

 俺は合図の通りに剣を構え、腰を落としルディオを見据える。


「それでは……始めぇ!」


 開始の合図と同時に一気に駆け出す。

 先手必勝! 速さこそ全て! AGIとSTRに振りまくった俺のステータスが火を噴くぜ!

 一瞬でルディオの前に移動し、剣を振るう。


「な、速いっ!?」

「――っしゅっ!」


 が、ルディオも実力者だ。恐ろしい速さで距離を詰めたはずなのに、俺の剣に対応してきた。

 弾かれながらも、高速で走る。速さが足りない!


「そこだ!」

「しまっ……!?」


 ルディオが俺を見失うほどに周りを走り、隙を突いて胸当てを狙う。

 勝った、そう思った次の瞬間だった。

 突然、背中に衝撃が走る。弓矢? 魔法? 分からない、しかし痛みはある。貫通はしていないが、何かしらの攻撃を受けている。

 俺の隙を見たルディオは、剣を首筋に向けて振り下ろした。本気で殺しに来てる……!?

 それを間一髪で避け、地面に手をついて一回転しながら距離を置く。


「はぁ、はぁ……い、今のは!?」

「ぼさっとすんな!」


 状況を整理する暇もなく、今度はこっちの番だとばかりにルディオが攻めてくる。

 観客も、騎士長も気づいていないのだ。決闘が始まった以上、途中で止めるわけにはいかない。

 剣を受け止め、ひたすら避けて、受けて、避けて、受けて。ルディオの剣の動きを見て、剣の実力では適わないことを実感する。

 そして同時に困ったことがある。身体が重い。どんどん重くなっていく。


「はぁっ……! ぐっ、なんだこれ……!」

「そらそら! そんなもんかよ!」


 息切れも激しい。少し動いただけでこんなに疲れるものだろうか。それにこの身体の重さ。

 過去に体験したことがある。ここまでの不快感はなかったが、身体の動きが遅くなり、同時に体力も削れていく状態。


 “麻痺毒”だ。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 考えろ。考えろ考えろ考えろ。

 犯人は誰だ。ルディオの知り合い? いや、ルディオは俺の実力を知らないし、弱いと思っている。なら誰かに頼むということはしないだろう。

 ルディオは俺の実力が今の状態だと思い込んでいるだけだ。じゃあ、俺を麻痺毒にした犯人は?

 憎まれているとしたら、錬金術師か。しかし多くの視線があるこの場所でバレずに俺に当てられるのか?


「威勢がいいのは最初だけかぁ??? そらぁ! 死ねぇ!」

「……今はとにかく、倒す!!!」


 今できる全ての力を注いで、剣に力を籠める。

 二本の剣で連打を叩き込んでいく。ルディオに構っている余裕なんてない。すぐにでも倒して、犯人探しをしなくてはならない。

 なら、今すぐにでも目の前の敵を蹴散らす必要がある。こんなところで邪魔されてたまるか。死んでたまるか。


「う、おおおおおおお!!!」

「な、なんだ!? なんだよその力!? そんなの知らねぇ! どうなってやがる!!!」


 ルディオは俺の剣を捌きながらも、力と勢いに押されて後退していく。

 先程まで鈍い動きをしていた俺が突然物凄い力を出しながら剣を叩き込んできたのだ、当然だろう。


「まだ約束を守れてないんだ! こんなところで……死ねるかあああああああああああ!!!」


 身体は鉛のように重いが、全力を出せば動かせる。

 『トワイライト』でのPVPのように、ただ勢いに任せて剣を振るう。敏捷性の高いステータスを使った左右のステップと、残りのポイントを振った筋力の攻撃。

 戦った相手は、だいたいみんな「お前こえーよ」と言うような戦闘スタイル。

 このスタイルにした理由は、暴れるだけでいいからだ。

 だから、少しの麻痺毒くらいでダメにはならない!


「うっらああああああああああああ!!!」

「ひぃっ! や、やめろ! 嫌だっ! し、死にたくな――――っ!」


 ルディオはそこまで言いかけたところで、体勢を崩した。

 後退しながら戦っていたからか、足がもつれて、背中を地面につけるように転んでしまった。

 俺はもう抵抗のできないルディオに馬乗りになり、剣を向ける。


「う、嘘だ。こんな、こんなっ……!」

「あっ、気絶しないとダメなんだっけ」


 ルディオの持っていた剣を奪い、遠くに捨てた。これで反撃はできない。

 俺は剣を地面に突き立て、拳を握りルディオの顔面に叩き込む。

 醜い顔がどんどん歪んでいく。


「やめっ! ぐばっ!? ぐがっ!?」

「よっ、ほっ、ほぁっ! っと、しぶといなぁ」


 もう決着がつくというのに、歓声が聞こえてこない。なるほど、みんな完全に決着がつくまで大声は抑えるタイプなのね。

 なら、さっさと終わらせてしまおう。流石に身体がしんどい。


「おりゃあ!」

「ぶぎゃっ!」


 一発強いのを叩き込むと、鼻血を流しながら気絶する。

 ヨシ! 俺の勝ち。なんで負けたか、明日までに考えといてください。ほな、いただきます。(勝利のポーション)


「そこまで! 勝者、レクト!」


 いえーい! ウィナーレクトさん!

 死ぬほど身体が重いけど、歓声を受ければ元気いっぱい!

 あれ? 歓声上がってなくない?


 ていうか、身体、動かな……


「……あ、あんれぇ?」


 どさっと、膝から崩れ落ちる。

 身体が動かない。意識はあるし、目は見えているが身体だけが動かない。

 『解毒ポーション』を使って状態異常を解除したいが、大勢の目がある場所でストレージから取り出すわけにもいかない。

 まあ、一応勝ったのだからあとは他の皆が何とかやってくれるだろう。

 観客席から飛び出してきたカリウスとエリィを見ながらそう思った。

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