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004 コレクター、方針を決める

 ここまで来るとキレるのも面倒になってくる。うん、俺は女と間違われるのが普通。自分にそう言い聞かせないとおかしくなりそうだ。

 俺、可愛い。よし。よしじゃない。


「おい、レクトはこれでも領主様なんだ。口には気を付けた方がいい」

「うっ、それは……ごめんなさい」


 カリウスが注意し、エリィは頭を下げて謝った。

 そうか、俺はこれでも領主、つまり貴族なんだ。村人が貴族相手に『あんた』だとか言ったら大事件だよね。

 というかこれでもって何。貴族らしさを知らないから演技もできないんだけど。


「俺は気にしないけどね。その口調でもいいよ」

「は、はあ」


 再びエリィは困惑しながらこちらを見てくる。

 領主ということは、他の貴族とも会う機会があるだろう。

 嫌だなぁ、仲良くできる自信がない。


「全く……本当に貴族という感じがしないな」

「他の貴族はどんな感じなの?」

「もっとこう、威張っててムカつく感じというか……あっ、今の無し。絶対言うなよ」


 言っている途中でカリウスは焦りながら肩を掴んできた。

 揺らすな揺らすな。首ががくんがくんしよる。

 しかし予想通り威張っててムカつく感じか。あれか、平民をすっげぇ下に見てるみたいな。それは確かに嫌だね。


「言わない言わない」

「あ、あはは。本当に貴族っぽくないんだ」


 今の今まで疑っていたようで、エリィは冷や汗を掻きながら肩の力を抜いた。


「エリィは貴族が嫌いなの?」

「……正直に言うと、嫌いかも。誰もトワ村を助けてくれない。誰も、見ようともしない。だから私は貴族が嫌い」


 俺の目を真っ直ぐに見つめながらエリィは言った。

 いくら口調はそのままでいいと言っても、よくも貴族相手に正面から嫌いと言えるものだ。

 それほどに、貴族はトワ村に何もしてこなかったのだろう。


「じゃあさ、この村にどうなってほしいと思ってる?」

「どうって……別に私は、飢えたりしないで家族と幸せに暮らせればそれで……」

「そっか」


 なら方針は決まりだな。領地を広げず、村もそこまで大きくはしない。

 作物関係や特産品、交易品などを安定させ、金銭面で村を裕福にする。

 この後も村人たちに確認を取ろうと思っているが、エリィと同じように大きな発展を望んでいないのならそれを尊重するつもりだ。


「うーん」

「何を悩んでるんだ?」

「これからどう運営しようかなって」


 畑は十分大きく、広げることもできるので問題はない。作物も既にある程度安定している。

 しかしそれだけなのだ。普通の作物のみでは税を納める時にほとんど持っていかれてしまう。

 今ある作物はそれでいいとして、後は交易品をどうするか。ぐぬぬ。


「なんだかんだ領主として真面目に取り組もうとしてくれてんだな」

「いや、真面目にやらないと俺が自由に動けなくなるじゃん」


 今すぐにでも領主を辞めて、他のプレイヤーを探したり元の世界に戻る方法を探ることだってできる。

 だが、俺が領主を受け入れたのには理由がある。

 それは、権力だ。

 合法的に権力を手に入れることができる。ついでに、金も手に入る。

 金があればアイテムが買える。もし元の世界に戻る方法が見つからなくても、俺はコレクターとして安定して幸せな日々を送ることができるだろう。


「変な奴……」

「今気づいたか。慣れた方がいいぞ」


 隣で失礼なことを言われている気がするが、今は領地運営のことだけを考える。

 俺のアイテムは、あくまでオンラインゲーム内でのアイテムなのだ。強力な武器や防具はあっても、マジックアイテムなどの特殊なアイテムは限られている。

 なら、作物はどうだろうか。


 『トワイライト』では、畑を作ることができるのだ。もちろん自分の敷地内のみだが。

 そこには、当然特殊な作物も存在する。薬草はもちろん、花の種もあった。

 実装当初、このシステムは多くのプレイヤーに不評だった。薬草なんて店で買えばいいし、花は金策目的だったが狩りの方が効率がいいという始末。

 ぶっちゃけ死にコンテンツだった。使っていたのは俺のようなコレクターや、花が好きで鑑賞したいがためだけに育てていた人くらいだろう。

 なので今の今まで完全に忘れていた。畑で入手できるアイテムは集め終えていたのだから。


 だが今はどうだろうか。異世界だよここ。

 成長速度はまあ、落ちているだろうがそれでも花というものは金になる。

 鑑賞だけではなく、実用性もあったりする。それこそ、薬草のような使い道があるのだ。

 この世界で同じ花が量産されていなければ、花はトワ村の特産品となる。

 勝ったぞ。この戦い、我々の勝利だ。


「ふっ、ふはははははははははははははは!!」

「うわ、壊れた」

「元からじゃないか?」

「それもそうね」

「ちょっと、さっきから好き放題言いすぎじゃない?」


 最初は流してたけど、そろそろ口出すぞ。

 まあ怒ってるわけじゃないからいいんだけどさ、さっき聞いた領主とか貴族のイメージがさらに湧かなくなってくるよ。

 これあれだよね、この二人が思ったよりもフレンドリーだからこうなってるだけで、村人全員こんな感じじゃないよね?


「悪い悪い。それで、なんで笑ってたんだ?」

「夜に村人を集めて説明しようかなって思ってさ。実はね――――」


 俺は珍しい種を持っていること、そしてそれをこれからトワ村の特産品、交易品にしようと考えていることを伝えた。

 何故そんなものを持っているのか。という質問も飛んできたが、貴族として研究していたのがこの花だったという今思いついたにしては上出来な嘘で納得させた。

 話の最後に、夜、村人たちを屋敷の前に集まるよう呼び掛けてほしいと頼んだ。

 ここで一旦お開き。屋敷を後にした二人を後目に、俺はストレージからアイテムを取り出す。


 宴の始まりだ。

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