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038 村娘、国一番の錬金術師になる

 錬金術師は力なく立ち上がると、とぼとぼと部屋を後にした。

 シウニンさんの上司が必死に引き留めようとしていたが、ただその場を離れることだけしか考えられなかったのだろう。無視して商人ギルドを出て行ってしまった。


「なんてことをしてくれたんだシウニン!」

「これが最善策でしたよ」


 吹っ切れたのだろう、シウニンさんは相変わらず落ち着きながらそう言った。

 演技を続けられるのがむしろ怖いまである。


「とにかく、ギルド長の部屋で話をしなければ……」

「俺たちも行っていいですか」

「え、ええ。もちろんいいですよ。是非ともお願いしたいくらいです」


 上司は今回の話を聞いていたのだ。先程の錬金術師と関わりのある俺たちにも参加してほしいと思っている。


「報告は俺がする。少し待っていろ」

「了解しました」


 上司はギルド長の部屋に入り、報告を始めた。

 簡単に何があったのかを話し、改めて俺たちを呼んで話し合いの場を作るつもりなのだろう。

 待っている間暇なので、先程のやり取りについて触れることにした。


「それにしてもシウニンさん、すごい演技でしたね」

「演技……? そこまでしてましたかね?」


 あっけらかんとした表情でシウニンさんは呟く。

 あれが演技でない、というか自然に出てきた言葉、表情なのなら末恐ろしい。もしかしたら俺はとんでもない才能を開花させてしまったのかもしれない。


「え、こわ。それより、なんですかあの情報。知り合いの商人に聞いたって話」

「それ私も気になってました」


 俺の言葉にエリィも同調する。

 あの錬金術師が商人に愚痴を言っていた話、あれが決定打となり錬金術師は折れた。

 突然の爆弾に驚いたが、確かに証拠としては十分すぎる。


「あれはですね、トワ村でエリィさんの話を聞いた時に話を有利に進めるために情報が必要かな? と思いまして。聞いて回ったんですよ。いやぁ運がいい」

「もういなくなったからいいけど、裏でそんなこと言われてたのはショックだわ……」

「入口だとあんなに怯えていたのに、短時間で随分変わりましたね」

「商人モードだと気持ちも切り替わりますからね」

「なるほど」


 演技しているつもりはなくても自然に演技してしまっていた、ということか。

 商人として接することでドライな反応もできる。敵に回さなくて本当に良かった。

 それから少し雑談していると、シウニンさんの上司がギルド長の部屋から出てきて中に入るよう促してくる。

 俺たちはそれに従い、ギルド長の部屋に入った。


「シウニン、なぜ彼を引き留めなかった」


 ギルド長は俺たちのことは二の次で、まずはシウニンさんに話を聞いた。


「彼は信頼に値しません。とある村人を利用し、搾取しようとしたのです」

「しかし彼のポーションは質がいい。話を聞く限り確かに信用はできないが慎重に進めねばこちらの財源が大きく減ってしまうだろう」


 その立場から見れば正論だ。信用ができなくても、自分たちの資金に大ダメージが入らないようにしながら切り捨てるべきだった。


「その心配はありません。確かに彼は質のいいポーションを作ることができます。しかしそれも数は限られていました。高級品なため、取り扱う数も少ないのでいくつか在庫が増えれば解決する話です」

「ふむ……」


 『ポーションL』なんかは、そもそも取り扱いが少ない。エリィが一度に十二個作ってしまえば、それだけで数日、いや、数週間は作らないで済む。

 つまり、あの錬金術師の役割は完全になくなったと考えていい。


「しかも、彼女ならば彼の代わりどころかそれ以上のポーションを作成することができます。一日の作成数も多いです」

「なんと、国一番の錬金術師以上の技術とな……?」


 ん? あれが国一番の錬金術師なら、エリィが国一番の錬金術師になるよね?

 一気に駆け上がりすぎだろう。これが成り上がりってやつか。羨ましい。


「そうです。私が取り扱っている『グリーンポーション』は『ポーションL』以上の回復能力を持っています。まだ誰も開発したことのない上位のポーションです」

「そこまですごいポーションであったか! ううむ、名前は……」

「エ、エリィです……」

「エリィ様と。ふむ、素晴らしい。シウニンよ、よくやったではないか」

「ありがとうございます」


 あ、シウニンさんの上司が目を丸くして固まっている。

 何が起こっているのか分からないといった感じだろうか。

 簡単なこと、シウニンさんが成果を出した。以上。


「ちなみに俺がエリィのいるトワ村の領主であるレクトです」

「領主様までお目見えになられていたのですか。このような才ある者が今まで埋もれていたとは、まだまだ世界は広いと言うべきか。今後ともよろしくお願いいたします」

「よよよ、よろしくお願いしまままま」

「落ち着いて? こちらこそよろしくお願いしますね。契約内容などはシウニンさんに聞いてください。エリィだけでなく、ぜひ我らがトワ村にも目を向けてください」

「エリィ様に、レクト様。そしてトワ村……ええ、覚えましたとも」


 ついでにトワ村の宣伝もしておく。『グリーンクローバー』などの作物はトワ村が原産ということになっているのだ。


「詳しい話は私がします。しかしギルド長、新たなポーションの話を知らなかったのですか。一度資料を渡し確認を取ったはずなんですが……」


 俺も気になっていたことをシウニンさんは聞いた。

 ギルド長なのだから『グリーンポーション』などの情報は把握しているものと思っていたのだが。


「む? そのような話は知らぬが……おい、確か担当はお前だっただろう」


 ギルド長が目を向けた先には、シウニンさんの上司が立っていた。

 上司はビクッと震えると、しどろもどろになりながら言い訳を始める。


「あ、いえ、あの。それほど大事な内容でもないと判断し、報告はしませんでした」

「どこがだ。はぁ、資料には必ず目を通すよう言っておるだろうに」

「す、すみません!」


 俺も同じツッコミを心の中で入れる。どこが大事じゃないんだよ! 自分で言うのもあれだけど錬金術に革命が起こったんだぞ!


 まあとにかく、これでシウニンさんの昇格もほぼ確定しただろう。

 後は俺か。『グリーンポーション』についての話を王様に話し、ロンテギア王国に俺とエリィとトワ村の名を広めるのだ。

 頑張ろう、おー!

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