035 商人、トワ村に来る
『グリーンポーション』が完成し『ピンクポーション』の開発を進めたエリィ。
一日フラワーポーションの開発をし、なんとか安定して作ることに成功した。それを確認した俺は、シウニンさんを村に呼ぶためカリウスを王都まで行かせた。
実際に村でポーション作りなどを見てもらい、判断をしてもらおうと考えたのだ。
二日後にシウニンさんの予定が空いていたので、その日に村に来ることになった。
それまでの間に、なるべく収穫した『グリーンクローバー』を乾燥させ数を増やした。
そしてついに今日、シウニンさんがトワ村にやってくる。
「エリィ、体力は残ってる?」
「『グリーンポーション』と『ピンクポーション』作るくらいなら余裕よ」
「ならよし」
問題のポーション作りが出来なかったら意味がない。そうなったら俺が代わりに作ることになる。
俺が作ってしまっては意味がないのだ。もし俺がいなくなっても、トワ村として権力を維持できるだけの技術などがなくてはならない。
今後、錬金術ができる人を村に置いておく必要もあるかもしれない。
「それにしても、平和じゃのぉ」
「平和だねぇ」
ドレイクと一緒に日向ぼっこをしながらシウニンさんを待つ。
最近はシャムロットでの冒険者活動をしていないが、まあ平和そうだし大丈夫だろう。
今は領主としての活動が中心なのだ。のんびり行こうじゃないか。
「領主様! 商人様が村においでなすったよぉ!」
村人の一人が慌てたように報告にやってくる。
思ったよりも早くシウニンさんが村に到着したらしい。早起きした甲斐があった。
「すぐ行くよー! よし、行こうかエリィ。あ、ダラカはどうする?」
どうせ村に火竜族の子供が住み着いている話は噂になるのだ今更隠す必要もない。
それはそれとしてドレイクは村に居すぎではないだろうか。たまには家に帰った方がいいんじゃないかな。
「どうせ暇じゃしついていくかの」
「ん、了解」
「なんだか緊張してきたわ……」
エリィは緊張しているが、シャムロットでモンスターと戦うよりは何倍もマシだと思うよ。シウニンさんいい人だし。
なんて声を掛けようかと思ったが、まあちょっと緊張してるくらいがちょうどいいだろうという考えでこのままにしておくことにした。
* * *
場所は変わって村の入口。シウニンさんは馬車から降りた状態で村を眺めていた。
「ようこそトワ村へ。改めまして領主のレクトです。この度はわざわざありがとうございます」
「いえいえそんなっ、こちらこそ村にご招待いただけて光栄です」
お互いに頭を下げまくった後、少し間をおいて笑いがこみ上げてくる。
これで形式上は丁寧にもてなしたことになるだろう。それをシウニンさんも分かっているのか少し笑いながら顔を上げた。
混乱しているのは、エリィとその他の村人たちだけだ。カリウスはやれやれと呆れている。悪ノリしてくれてもいいのよ。
「あ、え、え……?」
「そちらの方は?」
シウニンさんは俺の隣にいるからか、エリィに注目した。
「ああ、これが錬金術師のエリィです」
「これっ!?」
「ほお、この方が。それでその……後ろのお嬢さんは……」
まあ、エリィよりもそっちの方が気になるだろう。
シウニンさんが注目したのは。俺の後ろに隠れているドレイクだ。小さな村に火竜族の子供がいる、その違和感はすさまじい。
「ダラカ、火竜族の子供です。迷子だったので保護しました」
「ふんす。よろしく頼むのじゃ、人間」
「……まあ深くは触れないでおきましょうか」
「助かりますほんと」
シウニンさんは常識的な判断ができる人間なので、こういうややこしいことには頭を突っ込んでこない。
俺が回復魔法を使えることについても深く追求してこなかったので、商売以外のことに関しては極力触れないようにしているのだろう。
「と、いうわけでまずは……畑の紹介から。奥の畑で栽培してるのでどうぞお入りください」
ひとまず、畑でどのように栽培、収穫しているのかを確認してもらうため畑の中に入ってもらう。
畑の端にある小さな小道を通り、奥の畑に向かう。俺の家……屋敷のすぐ隣辺りにあるので少し歩かなくてはならない。
「おおっ、これは素晴らしい……」
それでも遠目から見えているので、シウニンさんは特徴的な『ピンクブロッサム』に反応する。
俺も子供の頃、親に連れられて芝桜の観光名所に行ったなぁ。確かに、あの光景を初めてみる人は感動するかもしれない。
いよいよ畑に到着すると、まずはよく見えていた『ピンクブロッサム』を紹介する。
「これが『ピンクブロッサム』栽培期間は三か月です」
「こんなに綺麗な花が『薬草』以上の回復能力を持ち、強化魔法のような効果を付与できるとは……今でも信じられませんよ」
「この『ピンクブロッサム』、『ピンクポーション』の流通は少なめで、値段も高く設定したいと思ってます。なのでまあ、大量に生産するのは向こうの『グリーンクローバー』ですかね」
俺は隣の『グリーンクローバー』を栽培している畑を指さす。
『ピンクブロッサム』の畑の前を少し歩き、その畑の目の前に来る。
「こんなに沢山……」
「まだまだ、乾燥させた『グリーンクローバー』もありますよ」
薬としての効果を期待するのなら、そのまま使うよりかは乾燥させた方がいい。
乾燥させれば、薬としても使え、ポーションの材料としても使える。ただ、見た目はそこまで良くないのが欠点だ。乾燥しても緑色が残るのでまだいい。
『ピンクブロッサム』は……うん、乾燥したら美しさが無くなるから完全に薬として売らないとだね。
「しかも『グリーンクローバー』は種を植えてから一か月で収穫できます」
「一か月!? これは、本当に国が動きますね……」
『薬草』の栽培期間はおよそ一週間。葉を収穫して一週間でまた収穫できる状態に戻るのだ。
まあ、『薬草』は雑草のような生命力なのでそこは気にしないとして、問題は素の回復能力だ。
『薬草』の素の回復能力はただの傷薬のようなものだ。しかし『グリーンクローバー』はそれ以上に回復する。栽培に一か月かかるとはいえ、これは重宝されるだろう。
「王様にも詳しく話をして、本格的に売り出していきましょう。ロンテギアとしての武器にもなりますから」
「怖くなってきましたね……」
そしていよいよ、ポーションの作成を見学してもらうことにした。
畑の観察を終え、屋敷に向かう。『十二連錬金窯』は屋敷にあるのだ、ようこそ俺の家へ。
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