033 村娘、本気でレベリングをする
王都の貧民街で母子を助けた俺は、当然回復魔法についてなどシウニンさんから質問をされた。
俺はただ、回復魔法が使えるだけだと伝えた。俺の立場やライトに関しての話題は出していない。
シウニンさんは特にそれ以上は聞いてこなかった。いい人。
その後軽く観光し、宿に泊まり、何事もなくトワ村に到着する。
それから二日。いよいよ錬金窯が完成したと聞きシャムロットまで取りに行くことにした。
俺のみがドワーフの鍛冶屋に向かい、錬金窯を受け取ってトワ村に帰ってくる。
そして、受け取った錬金窯をエリィに渡した。完成した錬金窯は、依頼した通り空き瓶を十二個設置することができる作りになっている。
「わぁ、すごく綺麗……」
「これでやっと効率よくポーションを作れるね」
「うん!」
今までは一度に四つまでしかポーション作れず、錬金術スキルのレベル上げが非効率的だった。
だが、これからは一度に十二個のポーションを作ることができる。これでスキルレベルを上げやすくなるのだ。
ついでに作ったポーションを貯蓄することもできる。
どうやらこの世界の錬金術師はかなり貴重らしく、ポーションを作れるだけでも随分と優遇されるのだとか。
それを知ってから、ふと疑問に思ったことがある。それは、エリィが錬金術を仕事にしていないことだ。
「あのさ、錬金術ができるならどうしてこれを仕事にしなかったの?」
「前に、王都でポーションを作らないかって誘われたことがあったの」
「いいじゃん」
当然だろう。錬金術師が貴重なのだから、村娘であろうと才能があるのならそれで働かせた方がいい。
「私も最初はいいと思ったんだけどね、その人たちはトワ村に稼ぎを渡すつもりはなかったのよ」
「それはひどい」
エリィを利用して稼ごうとしていたわけだ。
トワ村が好きなエリィがその提案に乗ることはないだろう。
「村にお金が入らないなら行かないって言ったら、その人たちはお前の代わりはたくさんいるんだって怒っちゃってそれっきり。空き瓶もなかなか手に入らないから作れるポーションの量も限られてて、ポーション作りは村の皆の怪我を治すためだけにやってたわ」
「なるほど」
それで錬金術を本気でやっていなかったんだ。
もしその時エリィを誘った人がトワ村にもお金を回していいと言ったら、今頃エリィは錬金術師としてトワ村を支えていたのだろう。
まあ、これから錬金術で支えてもらうんだけどね。
「これから錬金術が仕事になると思うけど、大丈夫? やっていけそう?」
「もちろん、それが村のためになるんだもの。頑張るわ」
「その意気その意気。じゃあまずは『ポーションL』を目指さないとね」
『ポーションL』はランク3のポーションだ。
『トワイライト』での錬金術もポーションは店で買えばよくね、という話になり普通のポーションを作る人は少なかった。
ランク4から5のアイテムは便利な物もあるのでコンテンツは死なずに済んでいた。
しかし運営も馬鹿ではない。ポーション作りにそこまでの需要がないと思った運営は序盤の錬金術スキルは簡単にレベルが上がるように設定したのだ。
つまり、この世界でもその設定が適用されるのならエリィが短期間で錬金術スキルのレベルを上げることは可能なのだ。
「『ポーションL』、先は長いわね」
「毎日作り続けるしかないよ。今日は『ポーションM』を作って、その後Lに挑戦してみよう」
この世界にスキルレベルという言葉は無いが、それと同じものは存在している。
しかしこの世界ではそこに集中力というものも関わってくる。
集中力が高ければ品質の高い物を早く作ることができる。しかし集中力が低ければ作成可能なスキルレベルに達していても失敗してしまう。
エリィはその集中力が高い。だからこそ、高い集中力が必要とされる『ポーションM』の作成に成功したのだろう。
もう少しポーションを作ったら『ポーションL』を作れるだけのスキルレベルに到達するかもしれない。
ちなみに、これは魔法にも言える話だ。魔法も集中力や才能がなければレベルが十分でも扱えないのだとか。
俺は普通に使えるが、ゲームの時のように詠唱すれば出せるのか普通に集中力が高いのかは分からない。
「作成開始」
錬金窯に水入り瓶をセットしたエリィは『薬草』を十枚錬金窯に入れ蓋をした。
ゲーム内でも『ポーションM』に使う『薬草』の数は十個だった。ちなみに『ポーションS』に必要な『薬草』は五個で、『ポーションL』に必要な『薬草』は二十個だ。
ちなみにだが、地面に生えているから採取できる葉が五枚だったりする。ゲーム内の畑で『薬草の種』を育てた場合一つの薬草の花から五個の『薬草』が入手できたりする。
「おお、色が変わっていく」
錬金窯にセットされた水入り瓶の中の液体が変化していく。
透明だった水はゆっくりと青色になり、時間が経つと色が濃くなっていく。
数分間エリィは蓋の魔石に魔力を送り続けた。そしてついに、『ポーションM』と呼べる色の濃さになる。
一つ前の錬金窯でも定期的にやっていたが、やはりポーションが作られていくところを外から見るのは楽しい。
「はぁ……はぁ……終わったわね……」
楽しいのだが、作成後のエリィは物凄く疲れてしまう。見ていてこちらも疲れてくるほどだ。
ゲーム内と同じく錬金術には魔力が必要なのだ。さらに集中力も求められるので一回の作成での疲労はとんでもないだろう。体育終わった後くらい疲れてる。
そのため一日に作れる個数は決まっている。魔力はポーションを飲めば回復できるが、体力や精神疲労まではどうにもならない。
「休む?」
俺はそう言いながら完成した『ポーションM』の蓋を開けてエリィに渡す。
ゲーム内では疲れないから大量に生産することができたのだ。この世界では適度に休む必要がある。
「もっとよ。早く『グリーンポーション』を作れるようにならないとでしょう?」
「……いいねその心意気。もっとやろう」
高級品の『ポーションM』を一気に飲み干しながら言ったエリィの言葉に、俺のやる気ゲージがぐんぐん上がっていく。これだけの熱意を出せるなんて、かっこいいじゃん。
何かに必死になれる、本気になれる。それが羨ましい。そしてそれを見習おうと思った。
俺だってコレクターだ。それを忘れてはいけない。トワ村が安定したら、コレクターらしく大暴れしてやろうじゃないか。