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031 青紙赤髪貴族、堕ちる

「戻ったかレクトよ」

「はい、少し待ってください。ブルドーたちが来ますから」


 一足早く玉座の間に戻ってきた俺は、王様の前でブルドーたちを待つ。

 少しすると、ブルドーとダンプが玉座の間に入ってきた。俺を見てニヤリと笑う。


「では王様。今からブルドーの無実を証明しましょう。おい山賊、ブルドーに指示されたのはいつだ?」

「つい一昨日前、だな」


 聞き出した時に、元々ブルドーが他の山賊の知り合いで、そこからの繋がりで指示を受けたと言っていた。

 つまりブルドーは、裏で山賊と繋がっているのだ。


「俺は二日前、ブルドーと一緒に王都で飯を食ってたんだがなぁ? おい、どうなってるんだレクト」

「おっとこれは困ったなー、それが本当なら俺に勝ち目はないなー」

「そう、早く認めなよ。お前が山賊に指示を出したってさぁ!」


 俺はとあるアイテムを発動させ、力強く握った。

 そして、それを王様の前に転がす。


「あああああああ手が滑ったあああああああ!」


 俺が転がしたのは丸みを帯びたクリスタルだ。透明なクリスタルの中が緑色に光っている。

 クリスタルの光は一層強くなると、ザザザっと雑音を発し始めた。そして、クリスタルから声が聞こえてくる。


『やっぱりブルドーが犯人だったんだ。ダンプも関わってるの?』

『ああ。二人で考えたんだ――――』

「……はぇ?」


 クリスタルのアイテム名は『ボイスクリスタル』。声を保存するアイテムだ。

 数分間の音声を録音することができ、削除しては書き換えが可能。実質無限に使えるアイテムだ。

 今回は元々音声の入ってなかったクリスタルを使った。


「なっ!? こんなものッ!」

「動くでない」

「……ッ」


 ダンプはクリスタルの効果を高速で理解したのか王様の前に転がった『ボイスクリスタル』を取ろうとするが、王様に止められる。

 おそらく、王様もアイテムの効果を理解したのだろう。

 ブルドーは小刻みに震えながら固まっており、騎士長は唖然としている。

 カリウスは……安心したのか、ため息をつきながら両手を肩の位置まで上げてやれやれとアメリカンなリアクションを取っていた。

 この戦い、我々の勝利だ。


『こいつで斬られたくなかったら大人しく従うんだな』

『僕が犯人ですー、ブルドー様を貶めるために山賊に指示しましたーって王に言えばそれで終わりなんだよ。分かるだろ? 僕は王族で、お前はただの貴族。どうやっても勝ち目なんてないんだ』

『……ああ、分かった』


 ここで音声が途切れる。

 短い会話だったが、今の内容で俺の無実は……というか、ブルドーの悪行は暴かれるだろう。

 いくら王族とはいえ、王様の前でここまで暴露されたらただでは済まないはずだ。


「……これはいったいどういうことだ、ブルドー、ダンプ」


 王様の声に、ブルドーとダンプの肩がビクッと震える。


「ち、ち、ち、違うんです! これは、その……」

「し、知らねぇ! 俺は何も知らねぇ!」

「言い訳無用。後で話がある。お前達の両親も交えてな」

「そんなっ……!?」

「なんでだよ! くそぉ!!!」


 これで二人の家は大打撃を食らうだろう。

 どうせなので追撃をしておこう。


「ブルドーは山賊団との繋がりがありますよ」

「おまっ!?」

「その話もせねばなるまい……二人共、しばらく自室で待機していよ。おい、二人を城外に出さぬようにと他の兵士に伝えておけ」

「ハッ!」


 王様の近くにいた兵士、「ハッ!」しか喋ってるとこと見たことない人が玉座の間から出ていく。

 それに続いて、目から光が消えたブルドーとダンプがとぼとぼと部屋を後にした。

 これで残ったのは数人の兵士と、俺、カリウス、騎士長、短髪山賊、ロン毛山賊、王様だ。なんだこの空間。

 その後山賊から詳しい話を聞くために、兵士が山賊を部屋の外に連れて行った。


「さて、度々済まないなレクト」

「まあ特に被害は出てませんしいいですよ。それと……聞きたいのはこれですよね」


 俺は王様の目の前に落ちている『ボイスクリスタル』を拾い上げながらそう言った。

 王様は俺の言葉に小さく頷く。流石にこんなアイテムはこの世界にはないだろう。

 カリウスは「お前、話すのか……?」といった表情をしている。安心しろ、流石に王様相手に全部は話さない。


「……これはとある魔術師に渡された道具でしてね。これ以外にも様々な道具を授かっています」

「とある魔術師……どのような者なのだ」

「あのワイバーンを倒した魔術師です。知っているでしょう」

「なんと、あの魔術師であったか」


 そう、ここでライトとの繋がりを作っておくのだ。

 そうすることで俺とライトが知り合いということになり、アイテムを使っても違和感が無いようにできる。

 これが俺が考えに考え抜いた末にたどり着いた作戦だ。


「して、その魔術師は何者なのだ」

「ライト、と名乗る人間です」

「ライトだと!?」


 今の今まで黙っていた騎士長が声を上げた。


「ライトと言えば、あの御伽噺『トワイライト』の主人公ではないか。一説によれば、『トワイライト』は実際に起きた出来事を元に書かれているとされている。本物であれば、人の身でありながら第四魔法を扱うのも頷ける」


 説明ありがとうございます。

 ネタバレが怖くて自分で調べられないので解説してくれるのは助かる。結末は話さないでくれよ。

 実際に起きた出来事を元に作られた御伽噺という情報は、共通認識として存在しているのか。


「ふむ……レクトよ、何故お前に道具を渡したのかなど諸々詳しく話せ」

「はい。まずですね――――」


 俺はライトに弟子としてこっそり鍛えてもらっていたこと、その才能を認められて道具を授かったこと。そして、ライトは旅する冒険者として活動していることを話した。

 いや、そういう設定にした。

 ライトが冒険者として活動している理由が、自由に冒険をするためということも話した。それだけは本当のことだ。


「して、その道具を手に入れたお前はどうするつもりなのだ」

「まだこれといった目標はないですよ。ただ強くなっただけですから」


 現時点で、俺が行動する理由がない。

 今俺が国宝を個人的に欲しいから手に入れます。何て言ったら大変なことになってしまう。

 なので、国宝を手に入れるべき理由を探すか、権力を手に入れて合法的に手に入れるかの二択になる。

 今のところは権力で手に入れる方向性で考えている。


「しかし御伽噺のライトが現れるとは。世界の危機が迫っている、というわけではないのか」

「それは分かりません。もしそうなったら、俺はその危機を防ぐためにこの力を使いますよ」


 その結果手に入るアイテムもあるだろうし、ロンテギアが滅んだりしたらトワ村も危ないし。

 自分とトワ村を守るためだけに戦うかもしれない。俺の所有物に手を出す奴、絶対許さん。


「ライトの弟子の貴族、レクトか。覚えておこう。それでカリウス、このことは知っていたのか?」

「ま、まあ。そうっすね。一応知ってました、はい」


 ここで振られると思っていなかったのか、カリウスは愛想笑いを浮かべながらへらへらと言った。

 事前にカリウスにこの話はしておいた方がよかったかな。でも頭の中で適当に考えながら作った設定だからなぁ、下手に教えておいたら矛盾が生じてしまうかもしれない。

 逆に話さなくて正解だったかも。


「トワ村……あそこは特に目立つ功績は出しておらぬな。これからに期待しているぞ、レクトよ」

「ご期待に応えられるように頑張りますね」


 そう遠くないうちにね。

 あくまでライトの弟子である一般貴族でしかないことを伝えたので、協力をするように、などの強要はされなかった。

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