028 コレクター、山賊と戦う
森の中に入りしばらく歩くと、山賊の姿を視認することができた。カリウスもそれに気づき、俺たち三人はゆっくりと山賊を観察することにした。
煙が出るため火は起こしていない。まだ暖かい季節なので大丈夫なのだろう。
山賊は二人組で、山賊らしく汚れた服に無精髭という姿だ。干し肉をかじりながら時間を潰しているらしい。
「はぁ、この後の予定なんだっけか」
お、勝手にしゃべり始めた。
しばらく聞き耳を立てていようか。
「夜に畑を荒らして、また野宿だろ。それだけでご馳走してくれるってんだ、楽な仕事だぜ」
「全くだ。よっぽどこの村が嫌いなんだな。ま、俺らにゃ関係ないけどな。ガハハ!」
死にたいらしいな。
どうやら雇い主がいるらしい。何かしら段取りがあるらしいが、まあそれも聞き出せば終わる話だろう。
「どうする、レクト」
「死なない程度にぶっ殺そう」
「おっかねぇ。っし、やるか」
木の陰に隠れていた俺たちは、物音を立てないように武器を手に持つ。
ちなみに俺は短剣の二刀流だ。短剣はどの職業でも装備することができるのでいつでも持てるようにしている。
「わしも行っていいかの?」
「これでもそれなりの実力はあるんだ。そこで見ててくれ」
「なんじゃ、つまらん」
カリウスはドレイクにそう言った。子供に戦わせるわけにはいかないと思っているのだろう。
まあ、森の中で炎を使われたらたまったもんじゃない。カリウスがいなくてもドレイクには戦わせなかっただろう。
「片方の相手がきつそうなら足止めだけでも頼む」
「いや、仕留めるよ」
「そか」
俺がどれくらい戦えるのか知らないカリウスは、俺が山賊に負けることを危惧しているようだ。
まあ、これでも領主だからね。死んだら村も困ってしまう。
無論死ぬつもりはない。
「行くよ。さん、に、いち……ゴー!」
俺のゴーと共に駆け出していく。
「くそっ! 騎士か!」
足音に気付いた山賊がこちらを見て曲刀を構えた。もう遅い。
短髪の方の山賊はカリウスに任せ、俺はロン毛の方の山賊を担当する。
「馬鹿め! 正面から来やがった!」
短剣を持った俺に、リーチの長い曲刀を持ったロン毛山賊が笑みを浮かべる。
だが残念だったな。ステータスは俺の方が上なんだ。
俺はロン毛山賊の頭上をジャンプして飛び越えた。
「なぁ!?」
「しゅっ」
細く息を吐き出しながらがら空きの背中に迫る。
振り向くよりも前に、俺の短剣がロン毛山賊の首筋に当てられた。
試しに薄皮一枚切ってみる。少しだけ血が流れ始めた。これで下手な抵抗はしないだろう。
「ぐ、チクショウ……」
「こっちは終わったよー」
「はええな!?」
対するカリウスは少々苦戦しているようだった。
相手の武器は大きめの斧だ。避けなければ大ダメージを受けてしまう。
そのためカリウスは慎重に攻めているようだ。
「よそ見すんなァ!」
「はいはいごめんなさいねっと。じゃ、こっちも終わらせますか」
速攻で終わらせた俺を見て、カリウスも全力を出すようだ。
少し危険だが真正面から剣で挑むつもりらしい。
「オラァ!」
「よっと」
斧と剣、重さから見ても正面から受けるなら剣は不利だ。
しかし、そこに実力差があった場合話は変わってくる。
ゴォンと重々しい金属音が鳴り響いた。
「は……?」
がすっと、山賊の背後の地面に斧が刺さる。
カリウスの剣が、山賊の斧を弾き飛ばしたのだ。
ゲーム内での技術、パリィのさらにその先って感じだね。パリィは隙を作るが、武器を弾き飛ばせばその時点で勝ちだ。
「ひ、い、いてぇ……離してくれぇ……」
カリウスの戦闘に気を取られてつい短剣でさらに斬ってしまったらしい。首筋から血がダラダラと流れている。
しまった、ちょっとやりすぎたかな。
「なら武器を捨ててよ」
「わ、分かった」
ロン毛山賊は全く反抗する様子はなく、すぐに武器を捨てた。
足元に曲刀が落ちたので、俺はその曲刀を蹴って遠くに飛ばす。
その近くで、カリウスは短髪の山賊を追い詰めていた。斧が落ちた位置から遠ざけながら剣を向けて脅している。
「こ、降参だ」
「賢明な判断だな」
こうして、山賊の無力化に成功した。
その後、山賊を脅して情報を聞き出した。
最初は抵抗していたが、俺が何度か短剣で刺すと簡単に話してくれた。
カリウスはドン引きしていた。なんで。こういうもんじゃないの。
聞き出した内容だが、まず山賊に依頼をしたのは貴族らしい。
しかも、近くの領主なんだとか。名前を聞いたがピンとこない。まあ領地やそいつがいる村の場所は分かったので良しとする。
それで、この山賊の処遇についてだが。
「山賊を捉えた時はどうすればいいの?」
「王国に連れていくか、だな」
「なんじゃ、殺さんのか」
合流して尋問を見学していたドレイクがつまらなそうに呟いた。それは俺も思った。
やっぱり山賊で悪いこともしてるんだし殺した方がいいんじゃない? 見逃して復讐とかされたら面倒だし。
「その貴族と組んでるなら証人になるだろ?」
「なるほど。じゃあ生かしといてあげよう」
人を殺す日がいつか来ると思っていたのだが、どうやら今日ではないらしい。
まあ、手が汚れないに越したことはない。
今は村を狙った貴族を倒すことだけ考えよう。
「それにそういう汚れ仕事はオレの役割だろ。お前にはなるべく手を汚してほしくない」
……本当に、俺のことを信頼してくれてるんだね。
このままでは俺の気が済まない。火竜族の族長も、俺に対してこんな気持ちだったのかもしれない。
騙しているわけではないが、嘘をついているのは気が引ける。
「……カリウス、後で話がある」
「……ああ」
俺の真剣な表情に、カリウスは小さく頷く。おそらく俺が伝えたいことが分かったのだろう。
ドレイクは呆れた様子でやれやれと呟いていた。




