027 コレクター、畑の進捗を確認する
トワ村に戻ってきた俺は、錬金窯が完成するまでの三日間領主として作物の進捗を確認することにした。
ちなみにドレイクはさも当然のように村についてきていて、日向ぼっこをしながら暇をつぶしている。
「畑の様子はどう?」
「これは領主様。ええ、順調に進んでいますとも。これを見てくだされ」
「おおっ! もうこんなに大きくなったんだ」
村人の一人が花の様子を見せてくれた。
『グリーンクローバー』はもう既にクローバーの形をしており、『ピンクブロッサム』は葉っぱが広がり始めている。うん、ゲーム内よりも遅いとはいえ異常な成長スピードだ。
『トワイライト』での農業も、途中の成長段階がこんな感じだった気がする。
この調子なら近いうちに花を収穫、種の採取も可能だろう。そこまでくれば後は植えて収穫を繰り返すだけだ。
「うん、いい感じ。これなら失敗せずに収穫できそうだね」
「そうですか、それはよかった」
村人はどれほどのペースで成長するのかを知らないので、俺の言葉を聞いて安堵した。
俺自身も成長速度はよくわかっていないのでアドバイスができない。
アドバイスをするのは、俺の記憶の中の『グリーンクローバー』、『ピンクブロッサム』と違う時だ。
枯れている、萎れている。そういう時は何かが間違っていると伝えることができる。
「な、なんだこりゃあ!?」
「どうした?」
別の畑から声が聞こえてきたので、俺はその声がした方向を見る。
おっ、ついに“アレ”が生えたか? とウキウキしながら近づくがどうやら違うらしい。
俺の目に飛び込んできたのは、一部が土で埋められた用水路だった。
どう考えても自然災害ではない。明らかに、人工的に土で埋められている。
「これ酷いね」
「おおっ領主様。やけに水が来ねぇと思ったらこれですよ。もしや盗賊や山賊が村を狙っているのでは?」
「山賊ねぇ」
盗賊、山賊ならこんなことはせずに直接盗みに、襲いに来るのではないだろうか。
もちろん可能性がないわけじゃない。動揺させるにしてももっと方法があるだろう。
そうなるとトワ村をよく思わない人間がやったか……誰だ?
「とりあえずカリウスに報告してくるよ」
「ありがとうございます!」
このままでは埒が明かない。こんな嫌がらせをしてくるのだ、犯人が分かったらぼっこぼこのフルーツポンチにしてやる。
俺は急いで屋敷の近くに向かい、付近を散策しているカリウスを探す。
いた、森の近くだ。ドレイクの隣で日向ぼっこをしている。警備してくれ。
「よおレクト。この村は暇でいいなぁ。んでどした?」
「悪いけど暇じゃなくなるよ。さっきね――」
俺は用水路に嫌がらせをされていたことを簡単にカリウスに話した。
「なんだそりゃ。許せねぇな」
「だよね? ぶっ殺さないと」
「いやそこまでじゃねーけども。とにかく近くを探してみっか」
村人が今日気付いたのだから、犯人は昨日か、今日中に土を用水路に入れたのだろう。
それなら、まだ遠くには行っていない可能性がある。もし本当に盗賊や山賊ならば今も狙っているかもしれない。
「んぬぅ……ライ……レクトではないか」
「おはよダラカ」
俺たちの会話を聞いて、昼寝をしていたドレイクが目を覚ました。
こいつ、寝起きなせいで俺のことをライトって呼びそうになってたぞ。
呼び間違えをしないように教えたというのに、全く困ったものだ。
「どこに行くのじゃ?」
「山賊がいるかもしれないから村の周りを探す」
「ふむ。どうせじゃしわしも行くのじゃ」
「ダラカちゃん、危険だから家に入ってた方がいいぜ。な、レクト」
カリウスの言葉にドレイクは顔をぴくぴくさせながらこらえていた。いい子だ。
しかしこのままじゃドレイクの不満が爆発してしまう。強いしついてきてもいいだろう。
「あーえっと、俺とカリウスがいるし。大丈夫だろ。ダラカも一応戦えるし」
「そうじゃそうじゃ、よく言ったのうレクト!」
「え、ダラカちゃん戦えるのか……?」
そこに食いつくのか。
しかしその言葉に対する返答は用意しているのだ。
「火竜族は子供でも強いからね」
そう、火竜族は強いということ。
人間以外の種族は、そもそも人間よりもスペックが高いのだ。
火竜族の子供も強いのかどうかは知らないが、これで納得はしてくれるだろう。
ドレイクも信憑性を高めるためか手元から火を出してくれた。なにそれ。俺もやりたい。
「そうだったのか。というか世間知らずかと思ったら急に詳しくなったな、お前」
「ダラカから聞いたの。とにかく探そうよ」
「そうだな」
「のじゃ」
こうして、三人でトワ村周辺、及びトワ領の散策することになった。
トワ領の土地は本当に小さく、ほとんどが畑、ほとんどが森と恐ろしく微妙な領地になっている。
そのため、探し回れる範囲も限られている。
ゲーム内のスキルなどを引き継いでいるため、少し集中してスキルを使用すれば辺りを索敵することができる。
いたよ人間。
なんと、意外にも近くにいた。てっきりもう逃げてしまったものと思っていたのだが。
場所は森の中。こちらを狙っている様子はなく、こちらを見ている様子もない。夜になるのを待っているのだろうか。
俺はなるべく違和感の無いように森の中を探しに行こうと促した。