026 コレクター、英雄を名乗る
さてさて、俺は今シャムロットの冒険者ギルドの奥に来ております。
物々しい雰囲気、暗い照明に高級感のある家具。緊張感に包まれている。
「そちらに、お連れの方もどうぞ」
緑髪の可愛らしい妖精……ギルド長は椅子に座るよう促した。
まさかギルド長が妖精族、フェアリーとは思わなかった。背中の薄い羽で飛んでおり、身体は小さい。誰もが想像するフェアリーである。
フェアリーの外見もそこまで老けないため、見た目だけでは年齢は分からない。見た目は若いが……
「じゃ遠慮なく」
「うむ」
「し、失礼します」
ふかふかの長椅子に三人仲良く座る。
俺とドレイクは遠慮なく座ったが、エリィは申し訳なさそうに座っている。そんなに委縮しなくてもいいのに。
「単刀直入に聞きます。貴方は何者なのですか」
まあそうなる。ライトの名を名乗ったのは失敗だったか。
どうせだし公式の名前使うかーという単純な気持ちでライトに決めたのだが、よく考えてみれば御伽噺は『トワイライト』のストーリーと同じなのだから主人公の名前も公式の名前になるのだ。
そこまで考えて行動できるかって? 無理に決まってるでしょ!
くそぅ、ロンテギアで御伽噺についてもっと詳しく調べておくべきだった。最初に聞いた時にライトの名前は出なかったのだ。
「ライトです」
「それは、“あの”ライトなのですか?」
「もちろん。ああ、あと男です」
「えっ」
考えた結果、俺は英雄である御伽噺の主人公を演じることにした。
冒険者としての俺は領主のレクトとは無関係だ。
ならば、名が知れていた方が楽に動けるだろう。今後、レクトとしての活動に役立てることもできる。人間という立場を使ってね。
「んんっ。それがなぜエルフの姿をしているのでしょうか。彼は人間だったはずです」
「ああ、これは……ほら」
俺は『エルフ耳』を外した。もうここまで来たら人間として活動しても構わないだろう。
耳が人間になったことにより、ギルド長は目を見開いて驚いた。
「な、なんですかそれは。魔法、ですか?」
「いや、道具ですよ。どちらかというとマジックアイテムですかね」
『エルフ耳』は見た目が完全にエルフになるし、その人の肌の色や耳の形に合わせて装備することができるのでマジックアイテムという認識が正しいだろう。
他にも『イヌ耳』『ネコ耳』『キツネ耳』はたまた『悪魔の角』などのコスプレ装備は大量にある。
どれも本物と見分けがつかない見た目になるので変装にぴったりだ。
「なるほど……こんなものは見たことがありませんね……」
「他に何かあります?」
「では魔法を見せていただけないでしょうか。ここシャムロットは魔法の技術が最先端の国です。私も魔法には長けていて、第三魔法までならば自力で発動させることができ、第四魔法は複数人で協力すれば発動させられます。御伽噺の英雄は第五魔法まで操るという話ですので、この場で使える魔法を見せてください」
流石ギルド長、第三魔法までは自力で発動でき、第四魔法は協力すれば出せると。
正直この世界の魔法の基準が完全に分かったわけではない。が、第四魔法を操れる者は限られているのだ。協力すれば出せるとはいえ、第四魔法が使えるとは。
「じゃあ……〈透明化〉」
「「「!?」」」
〈透明化〉を発動させ、姿を消す。〈透明化〉は第五魔法に位置するのでこの世界で使える者はいないだろう。
「解除っと。どうでしょうか」
「〈透明化〉……! 姿を消す魔法ですか、そのような魔法があったのですね……」
ギルド長は目を輝かせながらぶつぶつと呟き始めた。
存在しない魔法を使ったことにより、その魔法を再現しようとこの世界の人々が魔法を研究するようになる。
まあ、レベルを上げなければ扱えるようにはならないのでこの世界の魔術師がどこまで頑張れるかによるね。〈透明化〉はレベル103、魔法スキルレベル80の第五魔法。頑張れば辿り着けるかもしれない。
第五攻撃魔法に辿り着くのはいつになるのか。辿り着いてほしくないな。世界壊れちゃう。
「これで信じてもらえたと思うんですけど、どうしますか?」
「とりあえず、国への報告をしたいのですがよろしいでしょうか」
「まあそれはいいですよ。面倒ごとに巻き込まれなければある程度は手助けします」
レアアイテムが手に入るのなら面倒ごとでも大歓迎だったりする。
と、ここで他の目的を思い出した。そうだ、俺は各国の国宝を見るために冒険者になったんだ。
ライトが物語の主人公と知った今、その目的は簡単に達成できる。
「ああそうだ。ライトがこの国の国宝を見たいと言っていた、と伝えてください」
「承知しました」
今は見れるだけでいいのだ。国宝を手に入れるのは俺の役目ではない、トワ村の領主レクトの役目だ。
ギルド長はふう、と一息つき真剣な表情になる。
「それはいいのですが……質問があります。貴方の目的は何ですか? 今私の中で貴方は御伽噺のライトを名乗る異常な実力を持った人間。となっています。しかし御伽噺のライトはもう何百年も前の話。もう死んでいるはずなのです。なので、私はこう考えました。もしや、御伽噺のように世界の危機が訪れているのではないか、と」
御伽噺では世界の危機として世界中を旅しながら闇の帝王軍と戦っていた。
酒場で聞いた話だと、主人公はその闇の帝王を倒したらしい。御伽噺を読めば詳しい話が分かるかもしれないが、最後の結末は読みたくない。
現実に帰ったら自分でプレイするんだい! ネタバレされたくないやい!
「それは分からないです、俺は気が付いたらここにいたんで。世界に危機が訪れているかもしれないし、そうじゃないかもしれない。俺の役目は分かりません。何か危機が訪れているのなら戦います。それがないなら、好きに生きます」
「好きに、とは?」
「物を集めることです。貴重な物を集めながら旅をします。そうやって好きに生きて、死にます」
死ぬまでアイテムを集める人生。それはそれで楽しいかもしれない。
もしも現実に戻れないことが分かったら、そういう道を選びたい。そうやって死んでいきたい。
「そうですか……依頼を出したいときはどうすればよいのでしょうか。家の場所はどこですか?」
「特に決まってないです。宿屋に泊まりながら旅してますから。何かしら大きな事件が起きて、それを俺が知ったら行きますよ」
その時俺がいればね!
定期的にシャムロットに行って冒険者として活動するつもりなのだ。他の国にも行きたい。
「最後に、このお二人は?」
「エリと、ダラカです」
エリィはほとんどそのまま。ドレイクはちょっと変えてダラカだ。カリウスに名前を聞かれたときのために考えておいた。
「どどどどうも」
「ふんす」
エリィはまだ緊張しているのか声を震わせ、ドレイクは鼻息で返事をした。
「お二人も強いのですか?」
「それなりには。ダラカにはこの後冒険者登録させます」
「なんじゃと!?」
ダラカが驚いているが、この状況でただの子供ですってのもおかしな話だろう。
なので仲間としてつよい幼女ポジションを獲得してもらう。実際強いからね。
「それは頼もしいですね。では今日はこれにて。近々国からの呼び出しもあると思いますので準備はしておいてください」
ギルド長の言葉で、質問会はお開きになった。
正直このまま王様の元へ連れていかれるのではと思っていたが、解放されてよかった。
これで領主の仕事に専念できる。
その後ドレイクを冒険者登録し、トワ村に帰るのだった。