024 コレクター、ハンマーを返す
ドレイクはトワの森に降りると、人型に変身した。
いつもの幼女スタイル。なのだが、村に行くとなるとその姿は困る。領主である俺の趣味みたいになるから困る。ので、火竜を彷彿とさせるファッション系の服を着てもらった。
「この服はよいが、なぜただの子供を演じねばならんのじゃ!」
「ドレイクがこんなところに居たら大混乱でしょ。全く、悪い子には俺のコレクション見せてあげませんよ!」
「なぬっ!? お主それは卑怯じゃぞ……」
お母さんみたいなことを言いながら俺も仮面を外す。ふう、蒸れていたわけではないがすっきりする。一緒にエリィと俺のエルフ耳も外した。
忘れないうちに〈瞬間倉庫〉からキャスケットを装備する。
さて、なぜドレイクが子供を演じなければならないのか。
竜状態では〈潜伏〉を使い空を飛んでいたが、人型では限界があるからだ。
もちろん〈認識阻害〉や〈透明化〉などを重ね掛けすれば隠すことはできるだろうが、バレた時が面倒になる。
ので、カリウスには俺から説明させてもらう。迷い込んだ火竜族の子供を保護したと。
「はぁ、今日は見ないなと思ったら森の散策してたのか。しかもこんな子供を保護したとか。で、どうするつもりなんだ?」
俺の説明を信じたカリウスは、ドレイクの頭を撫でながら微笑んだ。
ドレイクはめっちゃ下手くそな笑顔を作っている。あかん。
どうする、とはドレイクをどうするかだろう。普通だったら迷子の親を探す。だがドレイクはただの幼女ではないのでその必要はない。
「懐かれたからこのまま保護するよ。親は今度王都に行ったときにでも探すさ」
「それがいい。しっかし火竜族って火山に住む種族だろうに、ロンテギアまで旅行に来るとは珍しいな」
確かに、この設定は微妙だったかもしれない。火竜族が人間の国に来ることも考えにくい。
しかしこれしか最善の設定は思い浮かばなかったのだ。
そのうちカリウスに俺の事情を話すとしても、それは今ではない。今話したところでまだメリットはない。カリウスから疑ってきたら話そう。
既に何かを隠していることは察しているようだが。
「じゃあなお嬢ちゃん。お父さんとお母さん早く見つかるといいな」
「ソウジャナー」
うわ、ドレイク殿の目が死んでおられるぞ。
それも仕方ないだろう。なにせ何百年も生きた竜なのだから。そこら辺の人間というものを下に見ているのだ。実際下なんだけども。
その後エリィを家に帰した俺は、屋敷に入るとドレイクと共に宝石などのアイテムを取り出しては鑑賞するという鑑賞会を開いた。
ドレイクはやはり綺麗な宝石には目が無いらしく、夢中で光を当てて楽しんでいた。
俺も同じように鑑賞していた。そして分かったことが一つ。
「うへへへへへへいいねいいね最高だねこれやばいねえっちだね」
「おほほほほほ……これは素晴らしいのじゃぁ……うひゃぁ……」
「…………」
「…………」
「「え、いつもそんな感じなの?」」
……どうやら俺は気持ち悪いらしい。
* * *
翌日、寝たことで体調が全快したエリィは元気よくシャムロットについてくることになった。
ドレイクも普段街を歩くことは少ないとのことなので一緒に来たいらしい。
「〈空間移動〉」
一度シャムロットには行ったので〈空間移動〉を使って移動する。
光に包まれ、目を開けるとシャムロット付近の森に移動していた。
近くに世界樹が見えるので間違いない。今度から転移しやすいように場所を探しておかないと。
「ほんとに一瞬でシャムロットに来ちゃった……」
「これはすごいのぉ、やはりライトは英雄じゃな!」
「そんなすごい人間じゃないんだけどなぁ」
あくまで俺が強いのはゲーム内で様々なアイテムを手に入れ、スキルや自身のレベルを上げたからなので俺の強さと言っていいのかは微妙だ。
それでも自分が努力して手に入れた力なので惜しげもなく使うけどね。
とりあえず、俺の用事と言ったら錬金窯だ。
今日から作成を頼んでどれくらい時間がかかるだろうか。
ひとまず酒場の隣、煙突のある鍛冶屋に向かう。
「エルフだらけじゃのぉ、魔力で満ちてるのじゃ。悪くないの!」
「妖精の国って言われてるからね」
エルフ、妖精が人口の大半を占めるシャムロット。
最も魔法技術が進歩しており、最も神秘的な国、らしい。
第四魔法を使える者が最も多い国もシャムロットなんだそうだ。ぜひ会ってみたい。
鍛冶屋の前に立ち、扉に手を掛ける。
ギィィと軋みながら開く扉。鍛冶屋の奥に、あのドワーフのおっさんが座っていた。
「おお、いい熱なのじゃ」
熱に良い悪いがあるかは知らないが、とりあえず店内に入る。
おっさんは再び現れた俺に驚きながらも笑みをこぼした。
「はっ、やっぱダメだったか」
「いや、取り返してきたよ。ほら」
俺は服の内側から取り出すふりをしながらストレージから鍛冶ハンマーを取り出した。
特徴は金色の見た目に銀の装飾、青い魔石。財宝の山にはこれ以外の鍛冶ハンマーはなかった。
「こりゃあ……」
おっさんは鍛冶ハンマーを持ちながらまじまじと観察する。
バレたか? いや、俺が持ち帰ったことに驚いているだけだ。
「間違ってた?」
「いや、間違いねぇ。こりゃワシのハンマーだ。ありがてぇ」
よかった。これで「これはワシのハンマーじゃない!」と言われたらどうしようかと思った。
その鍛冶ハンマーは正真正銘おっさんが持っていた鍛冶ハンマーだ。流石鍛冶屋、多少手が入っていても自分のハンマーは判別できる。
「よっし。錬金窯だけど、どれくらいで作れる?」
「……嬢ちゃんには作れんのか」
バレてたか。
そう、俺はおっさんの鍛冶ハンマーに手を加えた。
壊れていたのだ。見つけた時に、ハンマーの中心にヒビが入っていた。
このままじゃ使えない。これで鍛冶をしたらすぐに壊れてしまうだろう。
なので治した。鍛冶スキルでは修理ができるのだ。『トワイライト』では耐久力を回復させる技術だ。
このスキルがこの世界でも使えるか不安だったがなんとか治ってくれた。
俺の使う鍛冶スキルはゲーム基準らしい。つくづく、俺だけイレギュラーだな。
「俺じゃ無理なの。とにかく、最短でどのくらい?」
「はっ、三日もありゃ最高のモンを作ってやるよ」
三日か。
それに比べたら『トワイライト』の鍛冶スキルは一瞬だ。
物によっては一瞬。遅くても数分だ。
エリィは自分の新しい錬金窯が手に入る興奮からか、口元がにやけていた。
「三日……お願いします!」
「おお、楽しみに待ってな」
「よし、これで用事は終わりだね。次は冒険者ギルドに行くよー」
さあ、余計な詮索をされる前にこの鍛冶屋を出よう。
「えーもう少し居たいのじゃ」
「また今度ね。邪魔しちゃ悪いでしょ」
「ぬぅ」
ドレイクは本当に何百年も生きているのだろうか。精神年齢がよくわからなくなる。
それとも俺だからこんな態度なのかな。
「なあ、嬢ちゃん」
最後に店の外に出ようとした俺に、おっさんは声を掛けてきた。
まだ男だって気付かないか。ちくしょう。
「ん? 何?」
「嬢ちゃんの鍛冶ハンマーを見せてはくれんか」
「性別を間違える失礼なドワーフにはお断りだね。じゃ、頼むよっ!」
「んなっ!?」
やっぱり探ってきたか。
でもまあ、いいや。いいことをしたから気分がいい。このまま冒険者ギルドで依頼人に感謝されに行こう。
そして大金を受け取るんだ。ああ楽しみだ。