022 コレクター、指輪を返す
ドレイク、エリィと協力して財宝から依頼で出されていたアイテムを探す。
宝石、名剣……数はそれほど多くないのですぐに終わってしまいそうだ。
「あ、これかな? 『燃え盛る指輪』って」
「どれどれ」
エリィが族長の指輪を見つけたと言うので確認する。
金色のリングに、それほど大きくはないがルビーがついた指輪。近くで見ると確かにルビーの中に炎が見える。
俺の持っている宝石の中にもルビーの中に炎が入っているアイテムがあったはずだ。大きくないとはいえ、貴重なアイテムである。
「これだね。んじゃ引き続きそっちは頼むよ」
「了解」
「わしの宝石がぁ~……」
ドレイクが泣きながら宝の山を漁っているが、知らん。
「おっ、これは……」
宝の山からちらりと見えた金属の塊。
それは、ここに来た最大の目的であるアイテムだった。
のだが……
「どうしたの? あった?」
俺が声を出したため、エリィが声を掛けてくる。
これはまずいな。このままじゃいけない。目的が達成できなくなってしまう。
そのアイテムを隠すように持つ。
「……いや、見間違いだよ。全然見つからない」
「そっかぁ」
「向こう探してくるね」
「ああ、これもお気に入りじゃったのに……」
宝の山、その反対側に移動した。
ここならばエリィとドレイクには見られない。
ストレージからとあるアイテムを取り出し、スキルを発動させた。
* * *
「ラ、ライト様!?」
カフの里に戻ると、信じられない物を見たような顔をしながらリウカさんが駆け寄ってきた。
「本当にお戻りになられたのですね……それほどの実力とは」
まあ、普通だったら火山に入った時点で死ぬのだろう。帰還しただけでも褒め称えられるのかもしれない。
「それより、族長は?」
「家の中に。して、そちらの子供は……」
ドレイクも連れてきたので、リウカさんから見ると俺は火山に行って帰ってきたら幼女を連れていたということになる。
犯罪臭がやばい。でもドレイクは俺なんかよりずっと年上なんだ。セーフ。
とりあえず迷子の子供とか言っておけばいいか。
「ああ、こいつは……」
「なんじゃお主。わしはド――――」
急いでドレイクの口を手で覆う。さらに犯罪臭が増した。
「火山で倒れてて懐かれちゃったの! ライト、早く族長の家に行こ!」
慌ててエリィが誤魔化してくれた。ありがとう。
こんな里の中心でドレイク宣言されたらたまったもんじゃない。
まあ冗談だと信じない者もいるかもしれないが、それでも騒ぎにはしたくない。
「ちょ、何のつもりじゃライト!」
「ふふ、面倒見もよいのですね」
「そうそう。困ってたら放っておけなくてね。ほら行こうすぐ行こう」
なんとか面倒見のいいお兄ちゃん的なイメージで固定されたようだ。
幼女誘拐犯と思われなくてよかった。
会話を広げないようにさっさと族長の家に向かう。
「しかし知らない子でした……他の里から迷い込まれたのでしょうか」
後方からそんな声が聞こえ、冷や汗が噴き出る。
もしリウカさんが全ての火竜族を把握していたら終わりだった。というか、ここ以外にも里はあるのか、なかったらバレてたな。
族長の家の前まで行き、扉を開ける。
「帰ったか」
椅子に座った族長がニヤリと笑う。
「ええ。指輪も取り返してきました」
「それはよかった。む、その子供は……」
だよね、気になるよね。
さあどうする、今ドレイクはエリィが監視してくれているから名乗る心配はないが……
「えーと、この子は――」
「ふ、はははは! いやいや、まさかドレイク様を味方に付けるとは。敵わんな」
「おお! 分かっているではないか!」
「え、なんで分かったんですか」
だって子供だよ? ちょっと服装過激だけど幼女だよ? ロリだよ?
俺なんて目の前で変身されたのに信じられなかったからね。
「昔、ドレイク様を間近で見たことがあったのだ。子供の姿をしているとはいえ、雰囲気がまるで同じなのでな。まさかドレイク様とこうして話す機会が来るとは。光栄だ」
「うむ」
ドレイクは満足げに無い胸を張った。
雰囲気か。雰囲気で分かるってことは、族長が見たのはオフの時のドレイクなんじゃない?
それはそれとして、問題は指輪だ。これを返せばここでの用事は終わる。
「そんなことより指輪ですよ。これで合ってますか?」
ストレージから指輪を取り出し、それを族長に見せる。
鑑定はできないが、財宝の中で族長の言っていた条件に合致するアイテムはこれしかなかった。
「……ああ、これだ。合っているとも」
「よかった。じゃあどうぞ」
「待て。その前に貴様の要求を聞かねばなるまい。対価を払わねば受け取れん」
あ、完全に忘れてた。
対価か。特に要求することなんてないんだよね。
金はどうせシャムロットの冒険者ギルドで大量に受け取れるんだ。金銭の要求をする必要はない。
「うーん……じゃあ、この里の特産品をください」
この里の特産品。『トワイライト』には存在しないアイテムを貰う。
それだけで俺は満足なのだ。コレクターとして、この世界のアイテムも集めなければ。
「それは構わんが……それでは我の気が済まない。金ならこちらで用意させてもらうぞ」
「お金は要りません」
「ならば……」
「じゃあ約束をしましょう。まず、俺が困った時に協力すること。それともう一つ。もう二度とその指輪を手放さないこと。これが条件です」
族長の手に『燃え盛る指輪』を乗せながらそう言った。
誰かから預かったアイテムを失う気持ちはまだ知らない。知りたくない。考えたくもない。
普段付けている、今はストレージの中にあるキャスケットを思い浮かべた。
俺が現実に帰りたいと願う理由の一つだ。叶うのなら、腐りきった現実にその願いのためだけに帰りたい。
「なんと礼を言えばよいのか……」
「いいんですよ。それと、ドレイクのことはくれぐれも内密に。特産品を受け取ったらすぐにこの里を去りますから」
「そうか……ありがとう。本当にありがとう…………」
指輪を握りしめながら男泣きをする族長を見届ける。
きっと、今は亡き妻を思い出しているのだろう。
俺はしばらく会えていなかった恩人を思い浮かべた。あの人は、今どこで何をしているのだろうか。




