020 コレクター、炎竜ドレイクに挑む
〈浮遊〉で火口付近に近づいていく。
火山の山頂よりも高く飛び、上から火口を確認した。
よく見ると火山の内側が抉れており、空間ができているのが分かった。おそらく、あそこにドレイクの住処があるのだろう。
「途中までは離れないでね、戦闘になったら陰で隠れてて」
「う、うん」
改めてエリィに忠告し、火口に入っていく。
奥の方で何かが光った。岩の隙間から見える輝き……金貨だ。
巨大な黒煙を抜けると、火口の全貌が明らかになる。
そこにあった物は、宝の山だった。
金銀財宝、宝石に剣、その全てが輝いており、山のようになっている。
「すっげぇ……」
目の前に金銀財宝があるのだ、コレクターの俺が反応しないはずがない。
手をワキワキさせながら宝の山に近づいていく。
「金が……宝石がこんなにたくさん……ふへ、ふへへへへへへへ」
「ちょ、ちょっとレクト。ドレイクは……」
「忘れてた。まあいないし、サクッと奪いますか」
とりあえず、この山のような金貨からストレージに入れてしまおう。
これだけあればしばらくは困らない。というか、一生遊んで暮らせるのではないだろうか。
早速金貨に手を伸ばす。が、その直前に背後に気配を感じた。
「わしの財宝から離れよ」
「きゃあああ!?」
「っ!? 〈氷塊〉!」
咄嗟に〈氷塊〉を発動させるが、炎の壁に阻まれてしまった。
背後にあったのは、巨大な炎の渦だった。中にいるであろうドレイクの影がうっすらと見える。
第二魔法では歯が立たないと。なら、第三魔法はどうだ。
「〈氷柱〉」
第三氷魔法〈氷柱〉。殺傷能力の高い氷の柱を高速射出する。
〈氷柱〉はドレイクの炎の渦に直撃するが、中のドレイクが攻撃したのか粉々になって消滅してしまった。
「ぬ。やるではないか」
「な、なによあれ……」
スケールが違いすぎる相手に、エリィはそう呟いた。
エリィが記憶しているドラゴンの最新の記憶は、ブラックワイバーンなのだ。
その何倍もの大きさ、魔術師でなくとも感じる巨大な魔力。身体が動かなくなってしまっても仕方がない。
いや、それよりも気になることがある。
ドレイクの発する声、その声色は女性のそれなのだ。しかも、幼く感じる。
ひとまず、意思疎通ができるのだから会話をしてみるか。
「どーも、財宝を奪いに来ました!」
「死にたいようじゃな!」
「あれぇ!?」
「当たり前でしょ!」
俺の言葉にドレイクはブレスを放ってきた。
なんでここで怒るの!? 俺が金貨に手を伸ばしてた時点で分かってたことだよね!?
その間に、エリィは『ワルキューレウェポン』を『ワルキューレシールド』に変形させて岩陰に隠れた。おそらく『転移石』も持っているので、まず死ぬことはないだろう。
「わしの財宝を奪う輩は容赦せん。灰と化せ!」
何度も続けてブレスを放ってくる。
ゲーム内よりも殺意高いじゃん! やっぱ感情が入ると同じ強さでも変わってくるんだね。
「〈氷雪崩〉」
「ぐっ、なんじゃと……!?」
頭上から降り注ぐ氷塊に、ドレイクは炎を操り対処する。
しかし、全ての氷塊を対処することはできずダメージを受けた。
第四魔法は流石に効果があるようだ。このまま第四魔法を中心に発動させれば勝てる。
「これは第四魔法……貴様は……?」
第四魔法を知っていると。
この世界では御伽噺の中に登場する存在であるドレイク、どれだけの時間を生きてきたのだろうか。
もしかしたら、第五魔法も知っている可能性がある。それなら。
「〈絶対零度〉」
第五魔法の中でも、まだこの戦闘に向いているであろう魔法を選ぶ。
〈絶対零度〉。無数の氷が目標に向かって放たれ、当たった個所から身体が氷に包まれていく。魔力を凍らせるため大幅に魔力を削り、体力も削る強力な魔法だ。
しかも、追加効果で一定時間辺りを氷結状態に変える。これにより俺が有利なフィールドを創り出すことができる。
ドレイクは最初の数発は弾いたが、それ以外の全ての氷に被弾し氷漬けになった。
「はっ……くしゅんっ!」
遠くの岩陰から何か聞こえて気がするが気のせいだろう。
なんて思っている間に、ドレイクは氷を砕き再び動けるようになる。
ただのモンスターだったら、氷漬けになったまま絶命してしまうだろう。
だが十分体力は削ったはずだ。あと数回、ドレイクの攻撃を避けながら第四魔法を連続で使えば勝てる。
「第五魔法……じゃと……?」
「知ってたか」
第五魔法を知っている。
なら、この世界にも第五魔法は存在していたことになる。
もしかしたら、御伽噺、『トワイライト』のストーリーは実際に過去にあった出来事なのかもしれない。
「き、貴様は何者なんじゃ?」
「ライト、冒険者だ」
名乗りに冒険者だ、は言ってみたいセリフ六十何位とかに入ってそう。
いまだにお互い睨み合っているが、最初よりかは敵意は少ない。
「ライト……じゃが貴様は女じゃろう?」
「お・と・こ!!!!!!!!」
慣れたとはいえここまで引っ張られたら大声で訂正したくもなる。
おいおいおい、まさかドラゴンに、しかもドレイクに女と間違われるとは思わなかったよ。
「な、なら貴様はあの英雄ライトなのじゃな!?」
先程の険悪な空気とは打って変わって、ドレイクは小さな両手をブンブンと振りながら喜び始めた。
カオスすぎるよこの空間。遠くにいるエリィは頭上に『?』を浮かべて呆けてるし。寒いし。
しかし英雄ライトとは……心当たりがなさすぎる。
いや、そういえば火竜族の族長が俺のことを英雄だとか言っていたような……関係あるのかな?
「え、いやそれは知らんけど。なにそれ」
「あー! どっちなんじゃ! 訳が分からぬ!」
「こっちのセリフだ!」
その巨体でじたばたしないでもらいたい。これが原因で噴火とかしないよね?
フィールドが氷結してなければもっと溶岩が噴き出ていたんだろうな。
〈絶対零度〉の氷結状態はそういうステージギミックを無効化する効果があるのだ。
「英雄ライトとはかつての我を倒し、英雄となった人間じゃ」
なるほど、理解した。
つまりあれよ、御伽噺は大昔に実際にあった出来事であり、その主人公がライトと。
思い出してみれば御伽噺は『トワイライト』のストーリーと同じなのだ。その主人公が公式設定のライトなのも頷ける。
そして一つ分かった。ここは俺に合わせて作られた世界ではないということを。
他のプレイヤーに期待できるのでは?
しかしこのドレイク、やけに友好的である。
最初は住処を荒らされて怒っていたが、話せばわかるようになるとは。
だがここで俺が英雄ではないと言ったら再び怒り始めるかもしれない。
ならば。
「あー……それは俺だけど、俺じゃないというかね?」
「むむむ……? つまりどういうことなのじゃ?」
「とにかく、一応俺はその英雄で間違いないと思う」
そもそも『トワイライト』の主人公は俺でもありみんなでもあるのだ。嘘は言っていない。
この世界に複数ライトの転生者がいたとしても、全員本物なのだ。ややこしくなってきた。
「ふむ、よくわからぬがゆっくり話でもしようではないか。久しぶりの来客じゃしな!」
「そ、そか。お構いなく」
「と、その前に下がっておれ。姿を変えさせてもらう。この姿は窮屈で仕方ないのじゃ」
ドレイクは、そう言うと最初に現れた時のように炎の渦に包まれた。
その炎はゆっくりと小さくなっていき、人間サイズになり、やがて炎が弾け……
「ふう。これでよい」
幼女になった。
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