018 コレクター、火竜族に会う
溶岩に囲まれた岩場。モンスターとの戦闘に慣れるため、〈浮遊〉を解除しドレイクの巣であろう火口付近に向けて歩き続ける。
「『ワルキューレランス』!」
エリィは『ワルキューレウェポン』を『ワルキューレランス』にすると、敵に向けて投擲した。
光の槍なだけあり、光系統の魔法と同じような速度が出る。
『ワルキューレアロー』よりも威力が大きいため、餌食となったフレイムキメラは一撃で消し飛んでしまった。
モンスターの討伐報告があるとか言われたけど、どうやって報告すればいいんだろうね。ファイヤースネークもそうだけど、証拠がないんだわ。
「〈落雷〉」
魔法陣がフレイムキメラの頭上に現れ、そこから雷が落ちる。〈雷撃〉よりも太く、威力も大きい。
〈落雷〉はレベル4、この世界では第四魔法に位置する。
これよりも上の魔法となったら、〈疑似神雷〉を使うことになる。
第五魔法はあまり魔力のコスパがよろしくないので使う機会はないかな。
それにしてもこのフレイムキメラ、やはり『トワイライト』のフレイムキメラと同じ見た目をしている。
俺も昔、今相手にしているフレイムキメラをレベリングのために狩っていたものだ。
そのうち最高効率の狩場が見つかり、レベル150でカンストしたんだよね。上限解放はよと嘆いている間にアイテムをコンプしこの世界に来てしまったのだが。
俺の魔法で絶命したフレイムキメラは、体中からプスプスと煙を上げた状態で倒れる。
ふむ、生き物を殺すという行為には多少躊躇いがあったけど、そのうち慣れそうだね。
なんて思っていると、俺は気配を感じ取り立ち止まった。
「ん? どうしたのレク……ライト」
「誰かいる」
「えっ!?」
レクライトって誰だ。
なんてツッコミをしている場合ではない。誰が聞いているか分からないのだ、冒険者として活動している間はお互いに呼び方を間違えないようにしなくては。
さて、問題は気配の正体だ。モンスターという可能性もあるが、モンスター特有の殺意は感じない。
「そこにいるのは誰だ」
「……」
俺が声を掛けると、気配の正体は岩陰から姿を現した。
目の前に現れたのは、真っ赤な髪に、黒い角。これまた真っ赤な服装と、明らかに炎関係の種族ですよという女性だった。
ふむ、やはり火山付近にも国はあったか。
「貴方は?」
「火竜族の者です。異質な魔力を察知しここに参りました」
火竜族……その名の通り火の竜族だろう。
確か、竜族の国がランオーガ大陸にあったはずだ。それとは関係ないのだろうか。
そして、俺の魔力を察知したと。戦闘や、〈浮遊〉などの魔法による魔力だろう。
どこまで察知したのだろうか。既に、俺が第五魔法まで使えることを知っている、なんてことも考えられる。
「ここは人が足を踏み入れる場所ではございません。どうかお引き取りを」
人、エルフも含まれているのだろう。
この世界の種族はほとんどが人の形をしている。
そのため、エルフでも、獣人でも、人と表現されることはあるのだ。
この場合、火に耐性の無い者、火竜族以外の種族を指していると思われる。
「そちらの国を荒らすつもりはない。何故止める?」
「……その言葉が真実かどうかは私には分かりません。これより先に進むと言うのであれば、我らの里へ来ていただきます」
「えっ、なんで?」
怪しい人だから火山に入れないのに、火竜族の里には入れてくれるのか。
そして、国ではないと。国ほどの大きさではない、ただの集落なのだろうか。
「過去に、ドレイク様を仕留めようと企んだ愚かな者がおりました」
エリィがジト目で俺を見てくる。いやいや、仕留めようとしてないから。
悪いことをしようとしているわけではないのに、なぜか目を背けてしまった。不思議。
「それ以来、ドレイク様は度々シャムロットの住民や、我ら火竜族から金品を奪うようになったのです。「先に手を出したのは貴様らであろう」と」
「へぇ、言葉が交わせるんだ」
「知らなかった……」
今の話だけでも、なんとなく理解できた。
よそ者のせいで、自分たちは迷惑してるんだ。だから外から人が来たら、もう入れないようにしよう。
ってことだ。実に簡単だね。
それよりも、ドレイクと会話できることに驚きが隠せない。ドレイクについて話しだけでも知っていたエリィも会話ができることは知らなかったようだ。
ちなみに、『トワイライト』にそんなイベントはなかった。
「でもいいの? 俺たちを火竜族の里に入れちゃって」
「構いません。悪さをすれば殺すだけですので」
「そ、そう……物騒ね」
笑顔で殺すという言葉を使った火竜族の女性に、エリィの顔が引きつる。
主に俺を見ながら不安そうな顔をしていた。おい、俺は別に悪さは……どうだろ、場合によってはするかも。何もされなきゃしないよ。
「そういえば名乗ってなかったね。俺がライトで、こっちがエリ」
肩を抱き、身体を引き寄せる。
エリィは一瞬声を上げたが、すぐに女性に向かったぺこりと頭を下げた。
普段なら怒られているが、空気を読んで怒らないでくれた。多分後で怒られるんだろうな、顔赤いし。
「これはこれは、女性なのに男らしい名前をしておられるのですね」
またも女と間違われるが、もうそれは気にならない。これからもそこまで気にしない。
それよりも、男らしい名前というところが気になる。確かにライトは男のイメージがあるが、男らしいのだろうか。
これは異世界の価値観なので気にするだけ負けなのかもしれない。もう自分が可愛いのか男らしいのか分かんなくなってきたよ。
「ま、男だからね……」
「!? それは失礼いたしました」
案の定男と告げると取り乱して謝ってきた。
うん、性別間違えるのって真面目な人間ほど気にしちゃうよね。
それにしても、これは相手よりも精神的に優位に立つ作戦に使えるのではないだろうか。最低だけど最高だな。
「申し遅れました。私はリウカと申します。それではご案内いたしましょう、我らの里“カフ”へ」