017 コレクター、天使の武器を渡す
人目のない場所まで移動し、〈潜伏〉を発動させ、〈浮遊〉で空を飛ぶ。
火山は世界樹からかなり離れた場所にあり、近づくにつれて村は少なくなっていた。
シャムロットの森から離れた場所には他種族の国が散らばっているらしいが、この辺りにも国はあるのだろうか。世界地図か周辺地図が欲しい。そんな金はない。
「暑い……暑すぎるわよこれ……」
「一旦休憩するか」
エリィが暑さにやられてしまった。
辺りの植物は減り、森とは呼べないほど地面が見えている。
俺は途中までは耐えられたのだが、流石にここまでくると我慢が出来なくなってくる。
ゆっくり地面に降り、手で顔を仰ぐ。ああ、これもゲーム内じゃできないよね。
「ほら、これ付けてみて」
「なにこれ……?」
ストレージから『冷気のネックレス』を二つ取り出し、一つをエリィに渡す。
雪の結晶の形をしていて、触ると冷たい。
これはゲーム内の火山地帯で高温ダメージを避けるためのアイテムだ。装備すると常に涼しい空気が身体を包んでくれる。
涼しいから、という理由で寒冷地帯以外は常に装備しているプレイヤーもいた。多分あの人たちは夏場常にエアコン付けてる人だと思う。
「ほわぁ、涼しい……」
「ふう、落ち着く」
自分がどれくれい温度に耐性があるのか確かめたかったのだが、予想以上に耐性はなかった。
リアルに近づいているからだろうか、『冷気のネックレス』を装備していないときに感じていた熱気はかなり辛かった。
ゲーム内なら耐えられる暑さだったんだけどなぁ。宝箱周回の時とか、わざわざ装備するのめんどくさいからダメージ覚悟で走り回ってたのに。
「なんでこんなアイテム二つも持ってるの?」
「宝箱で被りまくったんだよねー、もっとあるよ?」
「あんたの世界とんでもないわね……」
なんなら『冷気の指輪』とか『冷気の腕輪』とかあるよ。
一か所に同時に装備できる数が限られてるからわざわざ複数作ってくれたんだよね。
ありがとう運営。無駄にアイテム増やしてくれて。おかげで同じ効果のアイテムめっちゃあるよ。
ちなみにこういったトレジャーアイテムの換金はあまりしていない。理由は“あるならあるだけいい”からだ。金に困っていたわけでもないしね。
「よし、それじゃもっかい飛んで――――」
微かに、音が聞こえた。
「よっと」
「きゃあっ!?」
突然、背後から炎が飛んでくる。
エリィの腕を掴み、ドラゴンのブレスにも似た火炎を避け、その方向を見る。
そこには、赤い鱗をしたヘビのモンスターがいた。
こちらを見ながら舌を出すヘビ。ファイヤースネークか、お呼びじゃない。
「シュルルルルルルル……」
「〈風刃〉」
「シュピッ!?」
〈風刃〉で首をはねる。
ファイヤースネークは断末魔を上げて絶命した。火山地帯の下級モンスターだ、やはり弱い。
ゲーム内ではガラスが割れるように砕けて消えるのだが、この世界の死体はそのまま残る。
リアルなヘビらしく、死んだ後も口がパクパク動いていた。
「す、すご……」
「お前に渡したそれがあれば同じことができるんだぞ?」
「私なんかがこんなもの使っていいのかなぁ……」
俺がエリィに護身用として渡したアイテムは『ワルキューレウェポン』だ。
天使のサブストーリー報酬だったのだが、これがやけに長かったのをよく覚えている。
この武器は剣であり、槍であり、弓であり、盾でもある。
何を言っているんだお前は、と説明文を読んだ時に俺も思った。しかしそれは事実だったのだ。
装飾が施された黄金の柄に魔力を通すと光が現れる。そのまま振ると剣に、突き出すと槍に、柄の真ん中辺りをつまむと弓に、盾は自動で発動する。
とんだチート武器だが、これよりも強い武器は山ほど存在しているためゲーム内ではあまり使われていなかった。
「シュルルルル……」
「お、別のファイヤースネークが来たぞ。試しにやってみてよ」
「う、うん」
丁度いいタイミングでファイヤースネークくんが来てくれたので犠牲になってもらう。
エリィは『ワルキューレウェポン』から光を出すと、柄をつまみ弓の形にした。
自動で光の矢が現れる。光の弦を引き、ファイヤースネークに狙いを定める。
そして、弦から手を離した。
「やああっ!」
放たれた光の矢はファイヤースネークの頭に突き刺さる。
ナイスヘッドショット。一撃だ。
「ほ、本当に倒せた」
「うーん、やっぱりファイヤースネークだとこの武器でもオーバーキルかぁ」
武器の威力は本人のパラメーターによって大きく変わる。エリィは素人も素人なので威力は武器の攻撃力に依存していることになる。
それでも、レベル2……いや、第二魔法と同じだけの威力は出ているだろう。エリィ本人のレベルが上がれば、第三魔法と同列の攻撃力になるはずだ。
まあ、どうせこういった雑魚モンスターを相手にする機会は少ない。今後相手をしていくモンスターはボスモンスター級のみとなるだろう。
そうなれば、流石に『ワルキューレアロー』の一撃では倒せない。数十発必要になる。
うん、数十発で倒せちゃうんだよね。やっぱチートだこの武器。
「まあまだ慣れないだろうから、火山に付いたらちょっとモンスター狩りでもしようか」
初めての経験でまだ緊張しているのか、エリィは俺の言葉にこくんと小さく頷いた。
俺は再び自分とエリィに〈浮遊〉を掛け、火山に向かって飛行する。
近づけば近づくほど、火山の溶岩の量に驚く。まだゲームの中なんじゃないか、と思ってしまうくらいに火山には溶岩が流れていた。