150 肉体の消滅
「ククク……これであの世界を消すことが出来る……」
「せ、先生……これは一体?」
やられた。ミカゲを騙して、権限を手に入れることがこいつの目標だったのだ。
おそらく、ミカゲが俺の出した案に乗った時点で切り捨てる判断をしたのだろう。
「騙されてたんだよ、俺もミカゲも。根上、あんたは何をするつもりなの」
「言っただろう、世界の破壊だと」
「それは……する必要がなくなったのではないのですか……? もう、異世界人に対抗する術はあるのですから」
「いいことを教えてやろう。初めから、侵略してくる異世界人など存在しないんだ」
そんなことだろうと思った。異世界人が現実世界に侵略してくる、だなんてあの世界を知っていたら考えられないことなのだから。
「は……? ならば、私の両親は……」
「そんなもの、私が殺したに決まっているだろう。昔から気に入らなかったのだ、あそこの魔術は。だが、まさか潰すと同時に使える副産物が手に入るとは思わなかったがね」
「そんな、そんな馬鹿な……」
腹の立つ話だ。ミカゲは最初から騙されていたのだ。
ミカゲが本当に恨むべき相手は、復讐するべき相手は目の前にいる根上なのだ。
「なんだあの世界を壊そうとするのさ! 襲ってこないのなら、脅威でも何でもないでしょ!!!」
「脅威さ。凄まじく恐ろしい脅威だ。体内に大量の魔力を保持? 詠唱で魔法を発動? ふざけるな、そんなものは存在してはいけない。あってはならないのだ」
何となくだが、こいつの言いたいことが分かってきた。
魔術という存在に強いプライドを持っているのだ。
魔術師という存在がどんなものかは知らないが、きっと一般人とは考え方がかけ離れている存在なのだろう。
「今は魔術が上回っているが、そのうち進化して高位の魔法が現れ始める。ならば、早いうちに消そうと思うのが道理だろう」
「そんな理由で、あの世界を壊すって?」
「ああそうだ。目の前で見ていろ、異世界の崩壊を。“地上に巨大隕石を落とせ。さらに、この隕石の取り消し、消滅は無効とする”」
「っ……! やめろ!」
ぐわんと、部屋全体が揺れた。
俺の魔法〈隕石〉では話にならない、一発で地上の生物が死に絶える大きさの隕石が召喚されたのだ。
「どう使えばよいものか。“地上を観測”おお……本当に自由自在とは」
根上の目の前に、半透明の画面が現れる。ゲーム内に存在する映像を見るタブによく似ていた。
そのモニターには、隕石と思わしき物体が映し出されていた。遥か上空に、突如として現れた巨大な物体。人々は空を見上げ立ち尽くしている。
「この力を使って、魔術師だけの世界を作るのも良いかもしれん」
「狂ってる……」
「狂っているだと? 確かにそうかもしれないが、君のような一般人には理解できないだけだ」
一応、こんな事件に巻き込まれている時点で自分を一般人と呼んでいいのかどうか。
魔術師と普通の人間を分けて考えれば一般人という言葉はしっくりくるかもしれない。
「一般人、か」
「そうだ。貴様のような一般人が何の努力も、苦労もせずに神聖な魔力を操り魔法で世界をかき回すなど到底許される行為ではない。貴様の存在も許しはしない」
バンっとクリスタルに手を叩きつける根上。声は冷静だが、心の中では魔術師としてのプライドを刺激されてさぞ激高しているのだろう。
なら、もうちょっと刺激すればボロを出すかもしれない。体を動かすことのできない俺に出来ることは、こうして口で挑発することくらいだ。
「じゃあ俺もお前が許せないよ。こんだけ人を巻き込んでるんだから。人に迷惑を掛けちゃいけませんって小学生で習わなかったの?」
「っ、黙れ。やろうと思えば、今ここで貴様を存在ごと抹消することだって出来るのだ。口の利き方には気を付けるように」
「……チッ」
確かに、俺を殺していないのはこいつの慢心なのだろう。死んでしまったら何もできない。
ではこれ以上刺激はしない方がいいのか。だとして、俺に出来ることはなんだ。もう、何もできないじゃないか。
「せ、先生……私は、私は……!」
「感謝するぞミカゲ、お前のおかげで私の願いはようやく叶う」
ミカゲが歯を食いしばり、根上を睨みつける。根上を完全に敵と認識したのだろう。
「いいの、ミカゲ。親を殺した本人が目の前にいるんだよ? こんな拘束くらい、恨みで解いて見せてよ」
「出来るなら、そうしたいところだね……」
ミカゲが怒りに任せて身体を起こそうとするが、全く動かない。
俺も同じように試すが、縄で縛られているわけでもないのに手がピクリとも動いてくれない。
魔法も……残念ながら魔力の使用も止められているようだ。無詠唱のアイテムストレージですら発動しない。
くそ、どうすればいい。このまま隕石が落ちるのを見ているしかないのか。
「無駄なことを。だが、もしもということもある。貴重なサンプルだかなんだか知らないが、この力があれば生かす必要もないだろう。残念だったな、世界の最期を見届けられなくて」
「な、何をするつもり?」
冷たい目でこちらを見下ろす根上。
ぶつぶつと物騒なことを言っているが……まさか。
「“レクトの肉体を削除”」
「え――――」
その瞬間、俺の視界は真っ黒に染まった。
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