149 コレクター、拘束される
140話からの続きとなります。
会議室への道中、魔術師の言った「君は本物のレクトではない」という言葉にモヤモヤしていた。
到着しいざ話を聞くと、なんと本物の俺は元居た世界にいるらしく、今ここにいる俺はその本物のコピーらしい。
何となくではあるが予想はしていたため、驚きはしたものの取り乱すことはなかった。
それでもショックが大きい。つまり今、俺は二人存在しているということになるのだ。
正直会いたくない。絶対変な感じする。
そして俺を異世界転移させた理由についてだが、何とゲーム内のアイテムを現実世界に持ってくるためらしい。
なんともふざけた理由だ。現実世界でアイテム無限増殖のチートを行おうとするとは。
というか、やっぱり『トワイライト』の運営と魔術師って関りあるよね。最悪だ。ちゃんとストーリー追加されるの?
「ふん、では話し合いといこうか」
「契約とかの話にする? 完全週休二日制にしてよ。ボーナスも出してよ。週休八日でもいいよ」
「な、なんで焦っていないんだ君は。偽物だと知らされたんだぞ!?」
何やらミカゲが驚いている。魔術師も驚いているのか言い出しにくそうにしている。
「偽物じゃないよ。というか、俺的にはどっちも本物だと思うんだよね。分岐したというか、分裂したというか……」
元居た世界での俺の居場所は無くなってしまうかもしれないけれど、今の俺の居場所はまだ残っているのだ。
こっちの世界で俺じゃないとできないことだってたくさんある。何もかも同じで必要ないと切り捨てられたらこうはいかないだろう。
「相当な変わり者を引き当ててしまったようだ。まあ、あの方法では変わり者なのは当然ではあるか」
魔術師が何やら独り言をしている。変わり者がなんちゃらまで聞こえたが、後半は聞き取れなかった。
状況から判断するに、目の前で陰口を言われたようだ。それって陰口に入るんですかね。誰か教えてください。
「……では話を戻そう。未来からやってきた異世界人を倒すことについてだ。これは協力して探し出し倒すということでいいかね」
「それでいいんじゃない? というか話し合いもクソもないよね」
協力して倒しましょう、給料いくらです休みこのくらいいけますくらいしか話し合える内容なんてない。
このくらいならば道中どころかその場でできただろうに。何故ここまで連れてきたのか。
「まあ待て。そのこと以外にも協力をお願いしたいのだ」
「協力?」
「ああ。お前たちの力を使って異世界との繋がりを止められるようにしたい」
「それ、俺が帰れなくなるんじゃないの」
「いいや、自由に止めることも通すこともできるようにするのだよ」
なるほど、未来から来た異世界人がこれ以上来ないようにしたいということか。
「ふーん、どうすればいいの?」
「再び異世界に戻り、権限を使って異世界を操作する」
「権限って、世界を壊すときに使おうとしていたあれ?」
「そうだ。異世界の操作ができるようになれば、これ以上敵が増えることもないだろう」
「そういうものかぁ」
わざわざ異世界に戻る必要があるらしい。
異世界じゃないと権限が使えないのだろう。なんだかすごく遠回りをしているような気がしないでもない。
「わ、私も行くのですか」
「ああ。必要なのは一人だが、二人いたほうがお前たちも安心するだろう。裏切ることができないのだから」
ミカゲと共に異世界を操作するのか。確かにそうした方が俺も安心できる。
そうと決まればと、異世界へ戻るためゲートへ向かうことにした。
会議室から出ると、魔術師と研究者が忙しそうに走り回っていた。
「なんでこんなに騒がしいの」
「……お前たちが来たからに決まっているだろう」
俺たちのせいらしい。いや俺は悪くない。
しかし本当に忙しそうだ。仕事増やしちゃてごめんね。全然申し訳なさ感じないけど。
「先生、異世界の操作とはどのようにするのですか」
「行けば分かる。細かなことはその場で説明しよう」
「分かりました」
権限の使い方などが全く分からないまま、俺たちはゲートを通り天界に戻ってきた。
やはり天界と言われてもただの研究施設だ。もう少し感動したかった。
しばらく歩くと、かなり長い廊下に到着する。ここからさらに歩くらしい。遠いなぁ。
「この奥の部屋に入れ」
やっとこさ到着すると、魔術師がカードキーを使い扉を開けた。
部屋に入る、その部屋の中心には正八面体のクリスタルのようなものがふわふわと浮いていた。
あれは何だろう、凄まじい魔力を感じる。
「あれは?」
「世界のコア。神と言えばいいか」
「神!?」
なんとあれが神様らしい。
女神だとか、髭の生えた白髪のおじいさんを想像していたのでかなり驚きがある。
まさか異世界の神様がクリスタルだとは。
「これを使って未来から来た異世界人を消すことはできないの?」
「現実世界には干渉できないのだよ」
「へぇ」
権限を使えるのは異世界限定ということか。
「先生、私たちはどうすればいいのですか」
「こうして触れるのだ。後は操作したいことを言葉にすればいい」
魔術師は手のひらをクリスタルに当てながらそう言った。
言葉にするだけとは。つまり今俺がこれに触れて生物が消滅するまで隕石を落とせと言えば異世界を破壊することが可能と言うことだ。
なんと恐ろしい権限だろうか。
「それだけなんだ。なんで世界を滅ぼせるほどの権限を手に入れられるんだろ」
「本来権限を持つはずの者が神に見込まれたからだ。管理を任されるほどにな」
権限を持つはずの者、誰だろうか。というかその人はどこにいるのだ。普通この魔術師に利用されるだろうに。
きっと殺されたか捕まっているのだろう。可哀想に。
とりあえず、俺とミカゲはクリスタルに触れる。
「そうだ、ミカゲ。細かい設定は私がする。私に続いて言葉に出すのだ。“世界操作権限を根上に与える”」
「はい! “世界操作権限を根上に与える”」
ミカゲは言われた通りに、魔術師の言葉を復唱した。
細かい設定を魔術師がするために権限を与えたということか。
いや待て、それはまずいんじゃないか。
「は? おい、それ本当に大丈夫な――――」
魔術師を見ると、口元がにやりと歪んでいた。
魔法じゃ間に合わないし周りも巻き込む、なら、俺の権限を使って一旦魔術師の権限を取り消すべきだろう。
「え、っと根上? の権限を――」
「レクトとミカゲを拘束」
「っ!?」
魔術師、根上の言葉と同時に俺の身体が動かなくなる。
ミカゲと共に倒れる。間に合わなかった。こいつは、根上は初めから俺たちを騙していたのだ。




