１４６ 大魔術師、仲間になる
その宝石が大魔術師の口に入った瞬間、小さく光を発した。
それと同時に、大魔術師の身体に青い線が迸る。
次の瞬間、青く迸る光と共に大魔術師は俺たちの目の前に瞬間移動した。
すげぇ、これが時空魔術か。
「ふー、助かった。まさか本当に助けてくれるとは。あー、にっげぇ……」
「む、魔力結晶は苦いのか。知らなかったな」
そう、俺が投げたのは魔力結晶。文字通り魔力の結晶だ。
それを大魔術師に摂取させ、魔術を使える状態にする。というものが今回の作戦の一つだ。
口が塞がれていなくて本当に良かった。これが無理ならハンマーとかで大暴れして拘束具を壊していた。
しかし魔力を扱えるようになった瞬間に拘束から抜け出す判断ができるとは。英雄の実力は本物らしい。
「まあ他に方法なんてないだろうから仕方ないか。ありがとよ。時久来人だ。名前は？」
「ええと、レクトと呼んでください」
「アルカナだ。よろしく頼む」
咄嗟にレクトと名乗る。本名を言ってもよかったが、ここでは魔術師レクトになろうと思う。
「おう、よろしく。で、俺はどうすればいい？」
「この部屋を出れば魔力を自由に使えるのでは？ それで異世界を救えないのか」
「あのなぁ……魔術ってのは外にある魔力を使うんだ。ここを出て使える魔力にも限度がある。一気に転移してはい解決ってわけにもいかないんだよ」
「そうなのか、魔力は私には感じ取れないものでな。済まなかった」
素直に謝罪するアルカナさん。俺も魔力は感じ取れないので魔術師の感覚は分からない。この部屋には魔力がないんだっけ？
そういえば、部屋に入ったときに違和感を覚えたのは魔力なのだろうか。魔術師ほど敏感じゃないだけで、感じることはできるのでは？ 一般人にも魔力ってあるのかな。
「えーと、ライトさんはここの施設について詳しくないんですか？ アルカナさんの方が詳しいのかな」
「詳しくないな。誰がどの部屋にいるのかも分からない」
すぐに捕まったのならそれも仕方ないか。
「じゃあアルカナさんが案内するって感じ？」
「そうなるのか。それならば、まずは異世界を破壊しようとしている者を叩こうか」
「そっちからね。そいつの名前は？」
「いや知らん」
知らないのかよ。
次の目的は異世界を破壊しようとしている奴らのボスを倒すこと。名前が分からないんじゃどこに行けばいいのかも分からない。
そんな会話を聞いてライトさんはため息をついた。どうやら知っているらしい。知っているのかライト！
「根上だ。魔術という概念に対してのプライドが高いやつだな。異世界を破壊しようとしているのは、魔法がこちらに来ることを恐れての犯行だろう」
「ん？ 未来から異世界人が来るのではなかったのか」
「なんだそりゃ」
「ふむ、やはり嘘か」
あ、嘘つかれてたんだ。
しかし魔術と魔法の何が違うのだろう。何も知らないので口出しができない。
そして異世界を破壊しようとしている理由が魔法を受け入れられないからとは。魔術師は創作でも頭の固い人間が多いイメージだったが、現実でもそうだとは思わなかった。
「その根上って人はどこにいるの？」
「奴の管理するエリアはゲートの近くにある。その辺りを捜索すればすぐに見つかるだろう」
「流石の俺も個人の探知はできないな。そこまでは走りで移動することになりそうだ」
さっきみたいな瞬間移動、転移魔術？ を体験できるのではないかとワクワクしていたが徒歩での移動になるらしい。
とりあえず部屋を出ようと扉を開けると、奥から魔術師と思わしき人たちが走ってくるのが見えた。
そりゃ止めるよね。どうしよう。
「あいつらを避けながら走り抜けるぞ、何度か浮遊感を感じると思うが前だけ見ろよ、いいな？」
「分かった」
「……了解です」
何が何だか分からないが、前方からくる魔術師を避けていくらしい。
ライトさんが走ったのと同時に自分たちも走り始める。
魔術師の手から炎や氷が出始めた瞬間、視界が青い光で覆われる。
襲ってくる浮遊感にビクッとしながらも走ると、目の前にいた魔術師が消えていた。背後から焦ったような声が聞こえてくるのを聞く限りどうやら転移したらしい。もっと集中した状態で体験したかった！
「これが転移か、便利なものだな」
「短距離の転移は普段は使わないんだけどな」
「また来たよ！？」
「もういっちょいくぞ！」
別の魔術師が来るがまたしても転移魔術で走り抜ける。
うわぁ、これが時空魔術か。使える魔力が限られていてこれなのだから、存分に魔力を使えたらもっとすごいことができるのだろう。
それこそ、ここから海外まで一瞬で移動できるような転移みたいに。
「そういえば、案内しなくていいの？」
「そうだったな。そこの突き当りを左だ」
「了解。ああ、でもゲートの近くまで行けばいいんだろ？ その場所までの道なら知ってるから大丈夫だ」
「そうか、なら私たちはただ走るだけなのだな」
「みたいだね」
先頭で走るライトさんを追いかけていくだけでいいらしい。
しかし、ここに俺は必要なのだろうか。全く役に立てていない気がするぞ。
「この辺りからが根上？ のいるエリアだぞ」
「おっけい」
アルカナさんの言葉にライトさんが走るのをやめる。
ここからは根上を探す時間になるだろう。戦闘の面では役に立てないのでライトさんから離れないようにしたい。
「レクト、お前戦えるか？ 他の魔術師を気絶させられるなら捜索を任せたいんだが」
「いや無理ですけど」
ふとライトさんがそんなことを言い出した。無理に決まっている。
「え？ 魔術師なんだろ？」
「一般人ですよ」
「は？」
は？ と言われても……
ここで気づく、そういえば魔術師のふりをしていたのだった。
「あ……そういえばそうだった。ええとですね……」
俺は捜索をしながらも、ここに来た経緯などを簡単に説明するのだった。
