135 炎竜、復活する
「なっ!? 島が凍ってるよぉ!?」
上空から観察していたレクトの視界に映ったのは、霜で覆われた大地だった。
岩は氷に包まれ、辺りを冷気が漂っている。
海は見える範囲まで白く凍り、世界全体が凍り付いてしまったのではないかと錯覚するほどだ。
「う、うわっ。ドラゴンだ……それも首が三つもある」
三つ首の氷竜に驚きつつ、『トワイライト』にあんなモンスターがいたかどうかの記憶を遡る。
が、見つからない。どうやらミカゲのオリジナルドラゴンのようだ。
どうしたものかと観察しているとルインがひゅんっと隣に飛んでくる。
「あれがミカゲの切り札だろうねー。下にいるみんなは氷漬けにされちゃってるけど……どうしよっか」
「あ、ほんとだ。魔法で溶かそう! ルインの炎って熱あるよね?」
「もちろん。色は紫だけどねー」
氷漬けになった皆を復活させるため、レクトは地上に降り炎魔法を使おうとする。
だが、しかし。
「ヤラセルモノカ!」
「ちょおっ!?」
大きく響く声で、ドラゴンが冷気のブレスをレクトに向けて放った。
どこから声を出しているのか、魔術によるものなのかくぐもっているが、あの声は紛れもなくミカゲのものだった。
魔法で溶かそうとしたエリィとカリウスの氷がさらに厚くなってしまう。これではどうしようもない。
「ダメだねー、さっき攻撃してみたけど身体が氷でできてるせいか壊してもすぐに戻っちゃう」
「やろうと思えば倒せるけど……」
「うん、時間がかかってみんなの命が危ないかもね。でも蘇生できるんだし大丈夫じゃない?」
「……嫌だ」
レクトは、仲間が死んでしまうことが嫌だった。
最初はゲームの中と同じような気持ちでこの世界を楽しんでいたが、今は様々な経験をしてこの世界がどうしようもなく本物だと、現実だと知ってしまっている。
だから、死んでほしくない。例え生き返らせることができるとしても、それだけは嫌だった。
「そんなこと言われても。命令されれば溶かすために頑張るけど、得策じゃないと思うな」
「どうすれば……」
三つ首の竜を前に、レクトは空を飛びながら思考を巡らせる。
この状況を打破する方法。考えている時間がもったいない、こうしている間にも誰かが死ぬかもしれないのだ。
その時、複数のワードがレクトの頭に飛び込んできた。うっすらと忘れていた存在だ。
「炎……竜……あっ」
「どしたの」
「ドレイクだよ! あいつ復活させればこの冷気もどうにかなるんじゃない!?」
ミカゲが海岸沿い、魔法部隊に接近する際の戦闘で氷漬けにされたドレイク。
本人が内側で炎を滾らせているのを確認しているため、凍死はしていないはずだ。
外からの衝撃さえあれば内側と外側の炎で氷を溶かすことができる、はず。
もしダメならば、刀で無理やり破壊するだけだ。
「……うん、じゃあそうする?」
「そうする! それが最短だよ! 一気に炎で溶かそう! あいつならダメージを気にしなくていい!」
もちろんドレイクも炎でダメージを受けることはあるのだが、氷を溶かすときのあまりの炎でダメージを負うほどではない。
非効率なやり方に不満があったルインではあったが、自分も同じように大切にされているのだろうかと思うと自然と不満は消えていった。
「了解。こんな戦い、さっさと終わらせてよ?」
「うん、早く終わらせよう! ドレイクは……あそこだね」
白く曇った氷が多い中、ドレイクが閉じ込められた氷は色も青く、透き通っていて一際目立っていた。
ミカゲの作った特別な氷塊は魔力を吸い取り、大きくなっていく特性を持つ。
最初に氷漬けにされた時よりも氷の量が増えているため、かなりの魔力を吸われたと推測する。
レクトは氷竜が飛ばしてくる氷を避けながら、ドレイクの閉じ込められた氷塊に向かった。
「ルインは反対側からお願い!」
「了解」
腰からナイフを二本取り出し、勢いそのまま氷塊に突き刺す。
ミカゲの作り出した最も固い氷塊ではあったが、『トワイライト』の最高クラスの短剣を弾くことはできない。ピシッと音を立てて、二本の短剣が突き刺さる。
「〈紅炎〉!」
短剣の先から、第四魔法の〈紅炎〉が放たれる。
隙間から漏れ出た炎がレクトに襲い掛かるが、『魔術王のローブ』の属性耐性によりある程度のダメージは軽減される。
「〔イビルフレイム〕」
反対側からも氷塊を溶かすべく、ルインが闇の炎を放っている。
両方向からの炎により少しずつ、ドレイクの氷塊が溶け中心に近づいていく。
「〈炎帝〉!」
短期間で勝負を決めるべく、レクトは第五魔法である〈炎帝〉を使用する。
レクト側の氷塊半分を覆うように巨大な炎が現れ、一気に溶かしていく。
掘削するように溶かしていくと、短剣によりできたヒビがさらに広がっていく。
ヒビはルイン側からも伸び、両方向から伸びたヒビが合流する。
巨大な氷塊に横一線のヒビが入り、その間を灼熱の炎が走り抜ける。
「戻ってこーい! ドレイク!」
勢いを強めた〈炎帝〉が辺りを包み、氷塊はガラガラと崩れていく。
すると、〈炎帝〉とは別の炎が空に向けて放たれた。
青い炎、それはドレイクのブレスであった。
135話にして総合評価が1700ptを達成しました。ありがとうございます。感謝します。
もしよろしければ感想やブックマーク、ページ下の評価システム【☆☆☆☆☆】をご活用いただければなと思います。
今後ともコレクター生活の応援、ぜひよろしくお願いします。




