131 決戦ミカゲ その2
カギを奪われ、レクト陣営とミカゲ陣営の国宝の数が同じになる。
ミカゲはレクトからカギを奪うのは難しいと判断し、後方で支援やモンスターを討伐している人物が持っているであろうカギを狙うことにした。
既にそこにはジャスターが向かっているが、ドレイクを相手にした時点でジャスターの敗北は容易に想像できた。
「悪いけど、正面から戦う気はないよ」
まともに移動をしていなかったミカゲが、そう言いながら後方へ向かう。
今まさに攻撃を始めようとしていたレクトたちは驚きつつも全力で追いかける。
「そう、そうやって焦ればミスも増えるだろう。戦士も多い。周りを巻き込む攻撃はできなくなる」
ミカゲは初めから正々堂々戦うつもりはなかった。リスティナをルインと戦わせたのは魔王を遠ざけるための時間稼ぎ。未来を視ることができるルインが戦闘に加わると面倒なことになりかねないのだ。
卑怯とは思わない。これは、世界を救うためなのだから。
「っ! ミカゲへの攻撃は中止! 周りにいる戦士や悪魔たちを守りながら遠ざけて!」
「「了解!」」
レクトは周りに被害が出ないよう、全員で守りながらミカゲを追いかけることにした。
カリウスは騎士の盾を作り出し、魔術から戦士たちを守る。エリィとレクトは空中からミカゲの魔術を相殺する。
それを繰り返していくうちに、やがて後方に、魔法で支援をするシャムロット部隊が近づいてくる。
「加勢するのじゃ!」
「ドレイク! お願い!」
途中でジャスターを倒したドレイクが参戦し、ミカゲに攻撃を加える余裕が増えていく。
「ジャスターは負けたか。まあ仕方ないさ」
予想の範囲内であるジャスターの敗北を知り、少し落ち込むミカゲ。
しかし辺りにいる戦士たちが減っているのを見るに、時間稼ぎやドレイクの多少の消耗には成功していると判断できる。
引き続き飛行を続け、ミカゲはシャムロット部隊に辿り着いてしまった。
「さて、いったい誰が持っているのかな」
ミカゲは最後方まで辿り着き辺りを見回していく。辺りで戦っているアルゲンダスクの大王も、各国の強者たちもカギを所持していない。
辿り着くまでの間にも探していたが、誰一人として持っていなかった。
ミカゲはレクトがカギを一般兵の誰かに持たせていると想像し、見落としがあるのではないかとさらに広い範囲を移動しながら戦士や空を飛ぶ悪魔たちを観察する。
しかし見つからない。そうこうしている間に辺りにいた戦士や悪魔はその場を離れ、エルフやフェアリーも減っていく。
「あそこで倒しておくべきだったようだね」
判断を誤り三つ目の国宝を途中で手に入れレクトを一気に倒そうと考えていたミカゲは、気を取り直してレクトの国宝、カギを狙うことにした。
こちらに目を向けてきたと気付いたレクトは、警戒心を強めいつでも戦闘を開始できるようにする。
緊張感が伝わったのか周りにいた仲間たちもミカゲを見据えた。
「カリウス、支援魔法を送ってくれてるエルフたちを守れる?」
「おう、任せろ」
「よし、じゃあここからは俺、エリィ、ドレイクで攻めよう。一気に攻撃すれば勝機はあるよ」
レクトはステータス、能力を底上げしてくれているエルフやフェアリーを守りながら戦った方が効率がいいと考えた。
『トワイライト』にも、ストーリー中にエルフやフェアリーが支援魔法を掛けて強化してくれるというギミックがあったのだ。
「一人一人倒してあげるよ」
ミカゲが再び魔術で攻撃を仕掛ける。
今度は広範囲ではなく、一人を強力な魔術で狙った。
氷がドレイクを飲み込もうと襲い掛かる。
「ドレイク!」
「この程度……余裕じゃ!」
異常なまでの威力に対し、同じように異常なまでの炎で対抗する。
急激に冷やされた空気が炎の熱で爆発し、霧と相まって周りが見えなくなる。
「む?」
「遅いよ」
「なんじゃと!?」
深い霧の中で、ドレイクは背後まで近づいてきたミカゲに気付くことができなかった。
咄嗟に炎で反撃しようとするが時すでに遅し、足元から氷の柱が作られていき、ドレイクを囲い込む。
脱出することもできずに、足元から凍り付いていく。炎で溶かそうにも凄まじい冷気と囲まれていることにより再び爆発して自分がダメージを受けてしまう。
なるべく溶けにくい氷で固められたが、いずれは氷を溶かして再び大爆発を起こす。その時は同じように利用するだけ。
完全に氷漬けになったドレイクを見て、ミカゲは次に狙う相手を探すため上空に飛び立とうとした。
「まず一人……っと」
「〈竜巻〉」
「なにっ!?」
深い霧の中、風で霧を払われる気配もなかったためミカゲは油断していた。
ミカゲは爆発する前にドレイクの位置を記憶し不意打ちをしたのだ。
いくら声が聞こえていたとしても、この霧の中で離れた位置から正確に魔法を放つことは獣人族でも不可能なのだから、驚きもする。
やがて霧が晴れていき、レクトが姿を現す。
それを見て、ミカゲは正確な魔法が放たれたことに納得した。
レクトの目元には、やけにメカメカしいゴーグルが装着されていたのだから。
「『トワイライト』のアイテム、か。忘れていたよ」
「もう霧の戦術は使えないよねぇ? ミカゲ」
ニヤリと笑いながらゴーグルを外すレクト。
『サーチゴーグル』、敵の位置を煙や霧の中でも視認することができ、幽霊などの目に見えないモンスターを相手にする場合にも使用されるアイテムだ。
ここから先、ミカゲは同じように霧を使い視界を奪う戦い方をすれば逆に一方的に狙われてしまう。
(やはりエルフが邪魔だね、先にそっちを潰そうか)
〈竜巻〉の威力の上がり方を見て、ミカゲは狙いをレクトたちではなくエルフとフェアリーに変える。
ただでさえ魔術の威力はレクトに負けているのだ。火力で一気に攻められてしまえばいくら魔力を自由に使えたとしても対抗できなくなってしまう。
風魔術を使い高速で動き、一気にシャムロット部隊に攻撃を仕掛ける。
「なっ! 守るぞ!」
エルフたちを狙われたレクトは焦りながらカリウスの守っている場所へ移動する。
ミカゲは複数の違和感を覚えていた。
一つはレクトが想像以上に焦っていること。
二つ目は、レクトたちに飛んでいる支援魔法のうち、一つだけ位置が把握できないこと。
(そういうことか)
ニヤリと口元を歪ませながら、ミカゲは最大火力の氷魔法を放った。
国宝は、カギは、あの中にある。




