130 決戦ミカゲ その1
* * *
大地は避け、風は刃のように鋭く、水は、氷は辺りを囲むように襲い掛かり、炎は爆破し辺り一帯を吹き飛ばす。
知らない。
ミカゲの強さを、彼らは知らなかった。
事前の情報では十分勝てる相手、それも三人、エリィの中にいるセラフィーも合わせれば四人の状態で負けるはずがない。
だが目の前に広がるこの光景はどうだろうか。
ミカゲは空を悠々と飛び、誰も近づくことすらできないではないか。
戦闘を開始してから、ミカゲはその位置から動いていない。
魔法で攻撃をすれば魔術で相殺され、近づこうとすればこれまた魔術で追い払われる。
レクトは疑問に思う。ここまで強いわけがない。なぜこれほどの強さを持っていて、今まで倒しに来なかったのか。
これだけの魔術を行使して、何故魔力切れを起こさないのか。
「でたらめだ……」
「何よあれ!!! なんですかあれー!」
カリウスは混乱しながらそう零し、エリィとセラフィーは同時に体を共有しながら怒っている。
レクトは、冷静に分析しようとしていたが、どれだけ考えてもあの強さになる理由が分からない。
長い修行を経て、確かにレクトたちは強くなっている。
それでも、ミカゲには軽くあしらわれてしまう。
「なんで……」
「そんなに強いのか。だろう?」
理不尽な強さを前にミカゲに怒りをぶつける前に、本人に言葉を遮られてしまう。
「私の魔術とこの世界の魔法では性質が大きく変わっているんだ。通常、この世界の魔法は自らの体内にある魔力を消費して魔法を作り出す」
「まさか……!」
「そう。地球の、私たちの魔術は“空間にある魔力”を消費して作り出すんだ。もちろん、体内にある魔力も使うけどね」
ミカゲとレクトでは、そもそも使う魔法の種類が、性質が違っていた。
ミカゲは体外、つまり空気中の、空間にある魔力を消費して魔術を作る。
レクトは体内の、ゲームで例えるのならMP、マジックポイントを消費して魔法を作る。
それ故に、ミカゲはこの世界の魔法使いとは大きく違って魔力操作を得意としている。
だが……
「だとしても、おかしいでしょ……!」
そう、おかしい。
それが分かったところでミカゲがこれだけ強い理由が分からない。
「……? 気付かないのかい? この魔力に」
「魔力……?」
言われて意識する。今の今まで気にしていなかった魔力。
空気中の魔力濃度が異常に濃い。ここ最近の大量のモンスター討伐により発生した魔力だ。
この世界には、大量の魔力が充満しているということになる。
ミカゲがいくら使おうが使いきれないほどに。
「素直に負けを認めなよ。君たちじゃあ私には勝てないよ」
「嫌だね! 〈炎帝〉!」
「第五魔法か……!」
諦めの悪いレクトは、地上から第五炎魔法〈炎帝〉を放つ。
それをミカゲが魔力の壁で防ごうとするが、ローブの端が焦げ、軽い火傷を負ってしまう。
そう、いくら魔力が大量にあり自由に動かせようが、使えるのは第四魔法相当の魔術までなのだ。
火力だけならば、レクトが勝る。
「なんだ、当たるじゃん?」
「流石に第五魔法は防ぎきれないか……それでも、そう簡単にはいかないよ」
今の実力を確認するために正面から第五魔法に挑んだミカゲであったが、ここから第五魔法が多く飛んでくると考え移動を開始する。
一度使えばしばらくの間飛ぶことのできる〈浮遊〉と違い、ミカゲの飛行魔術は風魔術を常時使いながら飛ぶものだ。
魔力の行使に加え移動、その他魔術での攻撃も行わなくてはならない。
「絶対無理……ってわけじゃなさそうだな」
「私たちで隙を作れば……! 勝てますよ!」
金と紫のオッドアイになっているエリィがセラフィーと混ざりながら気合を入れる。
天使であるセラフィーと身体を共有した状態だ。思考が二つある分、同時に行えることが増えている。
もしもエリィがミカゲのような魔力の使い方をできるようになったとしたら、魔力で満ちたこの状況であればミカゲを超えていたかもしれない。
「行くぞ!」
レクトの掛け声と共に、三人はそれぞれ攻撃を始める。
レクトとエリィは空中を飛び回りながら攻撃をし、カリウスは地上から“光の刃”を飛ばして攻撃をする。
カリウスの数少ない遠距離攻撃だ。〈浮遊〉をレクトに掛けてもらい飛んで攻撃するのもいいが、魔法の邪魔になると判断し地上からの攻撃となった。
「ふむ、当たらなければ問題はないね」
エリィが攻撃をし、弾いて隙を作りレクトが第五魔法を放つ、という流れになっていた。
のだが、ミカゲは風魔法で加速をして第五魔法の範囲から逃れる。
「セラフィーも、それほど脅威ではない。普通に戦っていたらまずかったかもね」
修行を重ね意識と身体を共有したエリィとセラフィー。その実力はレクトたちと並んでトップレベルだ。
ジャスターやリスティナと一対一で戦ったとしても苦戦することなく勝つことができるだろう。
しかし相手が悪い。ミカゲに刃は届かないし、光の矢はミカゲの周りを旋回する水や氷で消滅するか、ミカゲの身体の周りにある魔力障壁で防がれてしまう。
隙を生み出すことができるのは、槍を構え天使の羽の最大出力で突撃する攻撃程度である。
「っ!」
ミカゲは、再び突撃してきたエリィを高速で避ける。
第五魔法を躱すかのような速さ。ジャスターに匹敵するのではないかと全員が目を疑った。
そして同時に疑問に思う、何故あそこまで大袈裟に避ける必要があるのか。と。
隙を作れなかったことによりレクトは一旦様子を見ようとするが、ミカゲの手に光るものが見えた。
それには紐のようなものがついていて……
「エリィ! カギがないですよ! ……えええっ!?」
「本当か!?」
そう、ミカゲの手にはエリィの持っていた国宝、カギが握られているのだ。
紐は繋がっている。紐を切断するわけでもなく、あの一瞬で奪ったということになる。
レクトは一瞬焦るも、こちらにはまだ二つ国宝が残っている、ミカゲを倒せば問題ないと落ち着きを取り戻した。
「セラフィー、せっかく二つの思考を使えるのだからこっちにも意識を向けるべきだったね」
「そんな……私……」
「気にしないで、奪われたなら奪えばいいんだから」
「そう、よね。そうよ! ね、セラフィー! ええ! 今度こそ魔法を当ててくださいね!!!」
エリィとセラフィーが混ざっていることによりレクトはとてつもない違和感を覚える。この感覚にはまだまだ慣れそうになかった。
そして同時にセラフィーが明るい口調で魔法を当てられていないことを指摘していることに気付き、落ち込む。
「ちゃんと当てられなくてごめんなさい……」
「あっ、いえそういうわけでは……」
誤解を生んでしまったセラフィーが何度も謝る。戦闘中だぞとカリウスが呆れるが、逆に緊張して強張っていた身体が解れていく。
まだまだこれから、勝機はある。それがこの場にいたレクトたちの共通認識であった。
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