013 コレクター、錬金を調べる
* * *
屋敷に戻った俺は、今だ困惑し続けるエリィに全てを話した。
「えっと、つまりこことは別の世界の人間で、気がついたらこの世界に来ていて、領主ってことになってたからついでに領地運営をしている……?」
「そゆこと」
そうやって一つ一つ並べられると意味が分からないが、それが事実なのだ。
流石に御伽噺の世界から来たんだよとは言えなかったが、別の世界から来たことは説明できた。
特殊なアイテムや魔法を見せ、本当は第五魔法を使えるということも話した。
「……正直、理解が追い付かないわ。本当に悪いことを企んでるわけじゃないのよね?」
「全然。俺は好き勝手生きながら元の世界に戻る方法を探せればそれでいいんだよね」
この世界にレアアイテムがあるならそれを手に入れるために行動するし、プレイヤーがいたなら一緒に帰るために手を組むつもりだ。
楽しく生きていけるならそれでいいのだ。途中で敵対した相手と戦うことはあるだろうが、基本は悪いことはしない。
「それでさ、一つお願いがあるんだ」
「お願い?」
「うん。エリィは俺の秘密を知ってるわけじゃん? だからさ、それを利用して何かしらの手伝いをしてほしいんだ」
これが俺の狙い。
ただの村娘のエリィを巻き込む気はなかったが、俺の実力を知ったのなら話は別だ。
様々なことに利用させてもらう。
「そうだな……ポーション研究、とか興味ない?」
エリィに手伝ってもらうことを色々と考えたが、今できることは少ないためそれくらいしか思いつかなかった。
「ポーション……錬金術なら少し知ってるけど」
ビンゴ。『トワイライト』でのポーション作成は錬金術によって行われる。
植物を主な収入源にするのだから、それを自分たちで加工できれば利益も増える。
それに、俺がいなくなってからもアイテムを生み出せるようにしておきたいのだ。
「ならしばらくはそれにしよう。持っている植物を渡すから、それでポーションを再現してほしい。俺が持っているアイテムはまだこの世界には存在しないものだからさ」
「う、うん。分かった。でも本当に私でいいの?」
「さっきのテストでエリィなら任せられるって思ったんだ。ポーション開発は村のためにもなるしね」
エリィはトワ村のことを大切に思っている。
だから、トワ村にとってプラスになることを任せられるのだ。そうじゃないと信用できない。
「カリウスさんは知っているの?」
「いや、何も話してない。まあ、近いうちに話すさ」
カリウスとはそれなりに仲良くなった。できれば隠し事は少なくしておきたい。
しかしいつ話すべきか。ぶっちゃけいつでもいいのだ。いきなり呼び出して説明しても、ある程度は受け入れてくれると確信している。
しかしカリウスに何かをさせるとなると、なかなか思いつかない。冒険者としての活動で手伝ってもらうとかだろうか。
「そっか。私だけなんだ、知ってるの」
「まあ、そうなるね」
「……トワ村のためになるなら、私頑張るよ」
一度俺の手下になる覚悟をしたからか、エリィはすんなり受け入れてくれた。
やはりトワ村の役に立つことならばしっかりと働いてくれそうだ。
「それは頼もしい。明日からポーションの作成を進めようか」
その日はもう遅いのでエリィを家に帰し、また次の日に改めてポーションについての話し合いをすることになった。
* * *
この世界のポーションは『トワイライト』のポーションの作り方とほとんど同じらしい。
まず、錬金窯に水入り瓶をセットし錬金窯の中に『薬草』を入れる。そして蓋をし、蓋に付いた魔石に魔力を込める。
後は時間が経てばセットした水入り瓶の色が変わりポーションが完成する。というものだ。
エリィの持っている錬金窯は、『トワイライト』の錬金窯とほとんど同じに見える。
「まず錬金水を作らなきゃね。えーっと『錬金草』は……」
「ちょっと待って、錬金水ってなに。『錬金草』?」
聞きなれないワードが飛び込んできた。
錬金水、『錬金草』。そんなアイテムはゲーム内にはなかったはずだ。
「あれ、知らない? 錬金術をする時に必要な水よ」
そう言われ、錬金窯の説明を思い出す。
確か……設定として錬金窯の中に入っている水が錬金水って書かれていたような。
そうなると、『錬金草』は錬金水を作るための材料なのかな。
「まず、普通に水を入れるの。そこに『錬金草』を入れて蓋をする。後は魔力を込めて……」
『錬金草』と呼ばれたのは、見た目が『薬草』の青色バージョンの草だった。
エリィは魔力を込めた後、蓋を開ける。すると、錬金窯の中身がうっすらと青色になっていた。
これは……『トワイライト』の物と全く同じだ。ゲーム内で錬金窯を開くと、いつも中に入っている液体。
それをこの世界ではわざわざ作らないといけないのか。
「はい、完成。どう?」
「この錬金水はポーションを作る度に作らないといけないの?」
「十回使ったら効果が無くなっちゃうから、十回ごとね」
「ってことは一回の補充で作れる数は百二十か……それほど沢山必要ってわけじゃないけど、ポーションを大量に生産するなら安定した補充が理想かな……」
錬金窯でポーションを一度に作れるのは十二個だ。
錬金窯の外側に、沿うようにして十二個の水入り瓶をセットする装置が取り付けられている。
あれ、でもなんかエリィの錬金窯の装置少なくない?
「え、百二十……?」
「……この錬金窯って一度に何個ポーションを作れるの?」
「えと、四個だけど……」
衝撃の事実。なんと一度に四つしかポーションを作れないらしい。
「……マジかぁ。ちなみにこれが俺の持ってる錬金窯ね」
ストレージから錬金窯を取り出し、地面に置く。
錬金窯自体はそこまで大きくないため場所は取らない。
「いち、に……十二個も付けられるの!?」
「そうだけど、この世界では高い錬金窯でも四個しか付けられないの?」
もしこの世界の錬金窯で一度に作れる最大個数が四個だった場合、生産効率は大幅にダウンする。
そもそもポーションが高級品なのかもしれないが。
「高級な錬金窯は六個とか八個付けれたはずね」
「なら開発が進めば十二個の錬金窯も作れるかな」
どうせそのうち大量に作るようになるのだ、今のうちに錬金窯の質も上げていきたい。
しばらくは俺の錬金窯とエリィの錬金窯を比べながら開発を進めていこう。
「多分……あ、そういえばシャムロットに魔力をよく通して錬金術の効率を上げる鉱石があるらしいのよね。ロンテギアには流れてこないから、そのせいで錬金窯の技術も遅れているとかで……」
「それだ」
「えっ?」
俺は指を弾き、これからの作戦を考える。
どうせシャムロットには行く予定だったのだ。そこで、金属を手に入れて錬金窯を作ってもらう。もしくは錬金窯を買う。
そうすれば効率よくポーションを作ることができるのだ。
「よし、じゃあ明日行こう。どうせだしエリィも来てよ」
「え、えええええええええええええええええ!?!?」