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128 決戦ジャスター

ここからの戦闘は三人称視点となります。

 禍々しいキメラやワイバーンの群れを掻き分け、ジャスターがカギを持つ代表を探しながら異世界側の後衛部隊へ向かう。


「こらー! 待つのじゃ!!!」

「くっ……よりにもよってあいつかよ……!」


 後方から追いかけてくる火竜族……によく似た見た目をしているドレイクを見て、ジャスターは悪態をついた。

 各国の代表相手に負けるつもりはない。

 しかし、ドレイクとなったら話は別だ。かの四竜のうちの一頭。何故か憎きレクトの仲間となり共に戦っている異常な存在。

 その強さを知っているため、ジャスターはあまり戦おうとは思わなかった。自らの武器は戦闘力ではなく、速さだ。速さで全てを解決する。誰にも追いつけない速さこそがこの戦争を勝利に導く。そう確信していた。

 故に、ジャスターは戦わない。一刻も早くカギを見つけ出し、ミカゲに献上するのだ。


「む、止まるがいいジャスター。この先は通さぬぞ」

「げ、大王……テメェも持ってねぇのかよ」


 目の前に立ちはだかる巨漢はライオンの獣人、ゴルドレッド大王だった。

 ジャスターは思わず足を止め、首元に目を向けた。

 カギはない。ならば用はない。


「ガハハハハハハ! その通りだ。我ではカギを守り切ることが出来ぬ故な!」

「何をペラペラ喋ってるのじゃ! その猫を捕らえるのじゃ!」


 豪快に笑う大王を前にどう切り抜けるか迷っている間に、追いかけてきたドレイクが到着する。

 ジャスターは焦りながらもすぐにでも走り出せる体勢を取った。


「無論、そのつもりである。止まったな、ジャスター。覚悟はよいな?」

「へっ、やなこった。戦うわけねーだろっ!」


 ジャスターは放つ言葉に力を入れ、勢いよく走り出す。

 影になり消えたように感じるほどの速さ。しかし、反射神経を鍛えていたドレイクは咄嗟に炎を放つ。

 野球が役に立った瞬間であった。


「逃がさないのじゃ!」

「げ」


 ジャスターの目の前に現れた炎の壁。

 持続的に残り続けるその炎を見て、ジャスターは覚悟を決めた。

 戦わない、という選択肢が存在しない。戦うしかない。

 ジャキンと刃のようになった爪を出したジャスターを見て、ドレイクと大王は警戒を強める。


(ただ、ただ避け続けりゃいい。隙を見て、この場を抜け出すんだ)


 ジャスターはまだ逃げることを諦めていなかった。

 自分では倒すことができないと理解している。しかし、避けることができないとは思っていない。

 それだけ、自らの速さに自信があったのだ。


「では始めるのじゃ! だあああああ!!!」

「おせぇ!」


 炎を両手に滾らせたドレイクが、ジャスターに飛び掛かる。

 ジャスターはそれを余裕で避け、続く大王の拳を躱す。

 ギリギリで避けたことによりすぐ隣に拳により生じた風圧を感じる。拳の先から空気が歪んでいるように見えた。


「無茶苦茶しやがって……!」


 常軌を逸した攻撃に、ジャスターは肝を冷やす。

 自らの実力もこの世界で考えれば異常ではあるが、この二人はそれ以上だ。

 大王だけならば速さでどうにかなるだろうが、ドレイクは難しい。まずは、先に倒せそうな大王を倒すべきだろう。

 そう考えたジャスターは消えるような速さで動き、大王を翻弄する。

 そして、周りを走りながら斬りつける。


「ぬ、おおおおおお!!!」

「ええいまどろっこしいのじゃ! 止まらぬか!!!」


 大王の身体に三本ほどの爪痕がいくつも刻まれていく。

 徐々に速さを増していくジャスターに、大王もドレイクも反応できない。

 大王はとにかく腕を大きく振り、範囲攻撃で応戦する。

 ドレイクは隙を突こうと集中するが、見極めて攻撃を加えることができない。当たると確証できる攻撃はあるが、大王に当たってしまうかもしれないのだ。


「そこじゃ!」

「なあッ!?」


 大王の腕を避けるために屈んだ瞬間、速度が弱まったのかドレイクは攻撃を仕掛けた。

 周りを巻き込まない程度の範囲を攻撃する炎の拳。速度と範囲を求めたため出力こそ落ちるが、ジャスターを吹き飛ばすには充分であった。

 いくら速いとはいえ、二対一で隙が一切生まれないわけではない。ジャスターは内心焦りながらも、切った口内から出た血を唾と共に吐き出す。


「アルゲンの大王よ、拳による衝撃波での援護を頼みたいのじゃ」

「了解した。余計なことはせん、存分に戦うがいい」


 ここで、ドレイクが大王に援護を頼む。

 ドレイクが全力を出せないのは、ジャスターが大王を狙って攻撃をしているからだ。

 ならば寄せ付けないようにし、近づかれたならば離れるように攻撃をすればいい。

 実力ではドレイクが上回っているのだから。


「ドレイク様!」


 そんな中、ドレイクの耳に女性の声が届いた。

 視線を向けると、そこにはドレイクと同じように身体に赤い鱗を纏い、尻尾の生えた竜人たちが武器を構えて立っていた。

 辺りは、気付けば炎で囲まれている。例えその場から逃げ出したとしても、ジャスターはそう簡単にはこの状況を抜け出すことはできないだろう。


「む、お主らは……火竜族の者たちではないか」

「はい! 辺りを炎で囲いました! 他の火竜族も多く控えております!」

「それは心強いのじゃ!」


 思わぬ増援にドレイクもやる気が増していく。

 火竜族はドレイクの住んでいた火山に住む竜人族だ、古くからの中であるため思い入れも少なからずある。


「さて猫よ。恨むでないぞ。わしはここから全力を出すのじゃ」

「いいぜ……僕も、どうせなら挑んでやるよォ!」


 深紅の炎を青白い炎に変えていくドレイクに対し、ジャスターは身体から魔力を発し、目を真っ赤に光らせる。

 両者、互いに睨み合い、ジャスターが動いた瞬間にドレイクも地面を蹴る。

 ジャスターのほうが当然速い。しかし、大王はそれを予想し正面に拳を突き出した。

 衝撃波が空気を揺らす。ジャスターはそれを避けるため速度を落とし、ステップを踏んだ。

 ほんのわずかに生まれた時間。その時間を使って、ドレイクはジャスターに追いつく。

 ジャスターの鋭い爪が大王の身体に届く前に、ドレイクが炎を放った。

 青い炎が辺りを侵食する。足場を無くしたジャスターはすぐさま回避行動に移った。


「燃えるのじゃ!」


 怒涛の攻撃連鎖。

 青い火球がいくつもジャスターを襲い、その全てを速度を上げた爪で弾く。

 足だけではない、動きまで全てが速くなっている。


「……ッ!?」


 のだが、どういうことか、ドレイクはその速度に追いついていた。

 常にではない、瞬間的に、ジャスターの反射神経を超える速度を出しているのだ。

 正体は、高出力の炎。ターボエンジンの如く炎を滾らせ、一気に放出する。

 異常なまでの直線速度。ジャスターはそれに反応できるわけもなく、ただ呆気に取られていた。


「……ははっ……敵わねぇよ、おい」


 届かない。敵うはずがない。相手が悪い。

 ドレイクはレクトに負けていたからと油断していた。瞬間速度を超えられるとは思わなかった。

 油断、それもある。しかし、油断しなければ勝てたかと言われると、それは違う。

 どうすれば勝てたのか、そう考えることすらできないほどに遠いのだ。


「とっりゃあああああああ!!!」


 ドレイクの青い拳が、ジャスターの腹にめり込んだ。

 普通の相手ならばここで即死していただろう。だがジャスターの装備はミカゲによる魔法で強化されたもの、即死ほどの威力は食らわない。

 ――――立ち上がることもできないが。


「どうせミカゲさんが何とかするんだ。もうどうでもいいぜ」


 血を吐き、力を抜く。

 ミカゲがどうにかしてくれる、という言葉は嘘ではなかった。ミカゲに勝算があると、本当に思っているのだ。

 もちろん、そんなことをドレイクは知る由もない。気にする様子もなく、倒れるジャスターを見下ろす。


「ふん、言っておれ。大王よ、わしはレクトに加勢しに行くが……お主はどうするのじゃ?」

「我はこのままモンスター狩りをさせてもらおう。邪魔になるだけであろうしな」

「うむ、というかお主の口調わしに近くてモヤモヤするのじゃ。もっと豪快に喋って差別化してほしいのじゃ」

「うぬぅ……難しいことを言うではないか」


 ジャスターが薄れゆく意識の中で聞いた最後の会話は、戦場でのやり取りとは思えない、そんなふざけた内容であった。

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