126 コレクター、花火を上げる
朝。戦いに参加するメンバーがロンテギアに集まり、俺の〈空間移動〉で島に移動した。
到着と同時に警戒をするが、向こうが仕掛けてくる気配はない。
すると、空から人影が降りてくる。
霧を揺らめかせながら、風を使って浮遊している。俺の〈浮遊〉とは違う、別の飛行魔法。
「よく来たね、私はミカゲだ。よろしく」
着地したミカゲに、その場にいた全員に緊張が走る。
話に聞いていた相手のボスが出てきたのだ、警戒もする。
「そう警戒しなくていい。開始の合図があるまでこっちは手を出さないからね」
「これから戦うってのに随分と余裕だなァ?」
獣人族の戦士が、柔らかい物腰で出てきたミカゲを煽る。
すると、びゅうんと重い何かが空気を切り裂いた。
その緑色の何かは、煽った獣人のすぐ隣を通過し、彼方の海に、霧の中に消えていく。
風魔法、しかもあんなに重い音が鳴るということは、衝撃も尋常ではないだろう。
ミカゲが攻撃を仕掛けてきたことにより、全員が武器を構えた。
「っ!?」
「黙りなよ。今ここで戦闘を始めたっていいんだよ。これはお互いのために決めたルールなんだ。次はないよ」
そう、何も仲良くしたくてルールを決めたわけではない。
今の状態で、国宝をストレージから出していない状態で戦っても何の意味もないからだ。
向こうの国宝はどうか知らないが、確実に誰かが持つ、ミカゲが持つことになるので手に入りやすくなる。
もちろん殺すつもりで行く。手加減はしない。
向こうも躊躇はしないだろう。何せ国宝は全て外に出ているのだ、ストレージの中で永遠に眠り続けることはない。
「怖い怖い。まだ始まっていないだろうに。それでレクト、国宝の準備はできているのかい」
「うん、これでいい?」
俺はストレージから紐を繋いだ国宝、カギを取り出す。
さながら帰ったら両親が共働きで自分の家のカギを首から下げて下校する小学生のような状態で戦うことになるのだ。
確かにこの状態ならば分かりやすいし奪いにくい。首を跳ね飛ばされたら終わりだけども、まあ重要人物の首が飛んだらその時点で負けのようなものだし、変わらないだろう。
どうせ動けなくして奪うのだ。騎馬戦のハチマキのように戦いながら奪い合うものではない。
首から下げているカギは目印でしかないのだ。
「いいだろう。こちらも同じように……ああ、今回は私がカギを首から下げるよ」
「いいの? そんな情報話しても」
「どうせ予想していただろう? それに、どうせ君もカギを首から下げるのだから私たちの情報に意味などないさ」
「まあ、それは確かにそうだね」
お互いの陣営の代表がカギを持たないわけがない。
俺も首からぶら下げるし、ミカゲもぶら下げる。それはお互いの共通認識だ。
向こうが分かっていないのは、こちら側のカギ残り二つを誰が持つのかということ。
それに加え人数差で有利になっているが、ミカゲたちを相手に人数での勝負はあまり効果がなさそうだ。
「勝負はいつでもいいよ。ああ、そうだ。確か『トワイライト』には打ち上げ花火があったよね? それを開始の合図にするのはどうだい?」
確かに『トワイライト』には『打ち上げ花火』というアイテムが存在する。
ゲーム内で花火を打ち上げることができるというそのまんまなアイテムだ。
ギルドでお祭りをするときや、広場で集まって花火大会などをして遊ぶときに使うアイテムだが、ミカゲはこれを目印に使おうと提案している。
それはいいが、ミカゲは『トワイライト』についてどこまで知っているのだろうか。ゲーム内のアバターを使っているようにも見えない。
何故、俺はこのアバターで、ゲーム内の魔法やアイテムを使えているのだろう。
そんな、今更なことを考えてしまった。
「分かった、じゃあそれでいいよ。五分後ね」
それを了解したミカゲは、手を振りながら再び空を飛ぶ。
やはり詠唱なしでの自由度の高い魔法だ。今までのように技を予想しての戦いはできなくなるだろう。
完全に火力での勝負だ。しかし向こうにはこちらの魔法は知られているので、事前に対策をされている可能性もある。
だとしたら不利だ。どう魔法を扱って戦おうか。剣を使うことも考えなくては。
「とりあえず、国宝を渡すよ」
俺の選んだ二人に、国宝を渡す。
二人が首に下げたのを見て、自分も国宝を、カギを首に下げる。
ちなみに、俺が下げているのはオルタガのカギだ。
花火を設置し、タイマーを五分後に設定する。
今こうしている間にも島のモンスターはこちらに向かってくる。奥に向かうモンスターもいるため、向こうもモンスターに襲われているのだろう。
既に悪魔族や獣人たちが率先してモンスターを討伐し始めている。
「〈浮遊〉」
俺は魔法を発動させ、空中に浮遊する。
これで一気に突っ込む。他のみんなも、走り出せるように、飛び立てるように構えている。
ボンッと中央に置かれた筒から花火の玉が発射された。
ひゅるひゅると笛の音が鳴り、薄暗い霧に包まれながら轟音と共に鮮やかな光を発する。
開戦だ。




