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117 騎士、託される

「レ、レクト……このゴーグルって」

「それは『サーチゴーグル』。敵の位置だとか、普段は見えない物も探知できるようになる道具だよ」


 軽く『サーチゴーグル』の解説をする。

 ゲーム内ではゴースト系のモンスターが多く現れるときくらいしか使わなかったが、まさかこんなところで役に立つとは。


「つまり今の私は幽霊というわけだ。まさかこうして話ができるようになるとはな」

「お久しぶりです、リーダー。ええと、どうして幽霊に?」


 驚きながらも質問をするカリウス。


「そりゃ、お前を置いていけないからに決まってるだろ」

「ええ?」

「覚えてないか? お前が墓参りに来た時、何かおかしなことが起きていただろう? すべて私がやったことだ」


 おかしなこと、俺の肩を叩いたのは間違いなくこの人だ。

 それ以外だと……ああ、不自然な場所でカリウスが転んでいたか。あれもこの人が足を掛けたりしたのだろう。


「まあただ一言伝えたかったんだよ。気にすんなってな」

「それは……」

「大体な、あの時奇襲を受けたのは貴族様と会話をして油断しているお前たちを叱らなかった私の責任なんだ。お前が気に病む必要はない」


 確かにリーダーがいたのなら、部下が油断しているところを注意するべきだ。

 この人が幽霊としてこの世界に残ってしまったのは、そういう後悔もあるのだろう。


「それに少しだが、死んでしまった貴族様とも話をしたんだ。誰もお前が気絶してしまったことを責めていなかったよ。あいつらもそうだ。ここに残るのは私一人でいいと言ったのに、ギリギリまで残ろうとしやがった」

「あいつらが……?」

「おう。まあ全員分の想いを背負って私が残ることになったんだけどな」


 結局、誰一人としてカリウスを責める人はいなかったのだ。

 だが、それをカリウスは知らなかった。きっと恨まれている、なんでお前だけが生きているんだと思われているのだと考えてしまっていた。


「だからとにかく、気にすんなよ。もっと気楽にいけ。思いつめんな」

「それでも……オレには生き残ってしまった責任があるんです」


 再び暗い顔をするカリウス。自分を責める人間がいないと分かっても、罪悪感は簡単には拭い切れない。

 そういう生き方は、もう治ることはないだろう。無理に治す必要だってないのだ。


「責任ねぇ。そんなもんは感じなくてもいいんだけどな。そうだな……」


 リーダーは顎に手を当てて考え込むと、考えがまとまったようで小さく頷いた。


「それなら、死んでしまった私たちの分まで、騎士として戦い抜いてくれると嬉しい」

「……はい!」

「よし、いい返事だ。じゃあ改めて貴族様に謝罪しに行くか!」

「はい!」


 清々しい顔で返事をしたカリウスを見て、俺はもう大丈夫だと安心した。

 前と同じで、カリウスは重い十字架を背負っている。

 前と違うところは、正式に託されたところだ。

 背負った罪悪感に苛まれるわけでもなく、原動力に変わる。

 そういった、心強い記憶に変わっている。


 貴族の親子に改めて謝罪をしたカリウスとリーダーは、馬車が見えなくなるまで見送った。

 馬車が見えなくなったところで、俺はリーダーの体から光の粒が出ていることに気づいた。

 ゲームの消滅演出に似てる、なんて考えたら不謹慎かな。


「さて、私の役目もこれで終わりか」

「もう、行ってしまうんですか」

「おう、長いこと待たせちまったからな。お前もそのうち来いよ? あ、でもあんまり早く来たら怒るぞ、みんなで」

「はは、気を付けます」


 なんか、いいなこういうの。

 ログインしなくなってしまったフレンドたちは今頃どうしているのだろうか。

 最後に交わした言葉は何だったのだろうか。またギルドでわいわい話がしたいと思ってしまう。

 そんなことを考えていると、リーダーが俺の顔を真っ直ぐ見ながら口を開いた。


「レクト様。カリウスをよろしく頼みます」

「うん、任せてよ」


 少しえっへんと胸を張りながら返事をした。

 今くらいは貴族っぽい気持ちになってもいいかな。


「ははっ、お前頼もしい主人を見つけたな」

「主人というより、友人に近いんですけど……」

「いいじゃないか。友人を守るために戦えるってことだろ? 全く、羨ましい限りだよ。こんな綺麗な女性を守れるなんて」

「……」

「あ、あはは。そうですよねー」


 堪えろ、こんなタイミングで男ですとか言えるわけないだろ。

 それにリーダーは生き残ったカリウスが女の子を守っているという状況を嬉しく思っているのだ。ならば何も言わないのが正解ではないのか。


「それじゃそろそろ行くよ」

「あの、短い間でしたがありがとうございました!」

「おう、今となっては教わることのほうが多そうだけどな。まあ、それも向こうで聞かせてくれ」

「ええ、必ず」


 光の粒は、次第に量を増していく。

 元々半透明だったリーダーの体は、さらに透明度を増していく。

 最期にぶわっと大きく弾けると、大量の光の粒は空に昇って行った。

 空に光る粒たちが見えなくなるまで、俺とカリウスは空をじっと見つめていた。


* * *


 光が消え、首を元の位置に戻すとルインが視界に入った。

 あの男たちを木に縛り付け終わったようだ。


「あ、ルイン。戻ってたんだ」

「入れる空気でもなかったでしょ?」

「確かに」


 実は途中で戻ってきていたが、会話に入れないため隠れていたらしい。

 ということはあの会話を聞いていたのだろうか。


「……仲間、ね」

「ルインには仲間っていなかったの?」

「……どうだろ。でも今はレクトくんが仲間だよ」

「そっか……」


 カリウスの過去が解決したと思ったら、次はルインの過去が気になってきた。

 聞き出したい気持ちもあるが、まあ、少しの間向こうから話してくれるのを期待して黙っていようかな。

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