116 騎士、リーダーと再会する
殴られたカリウスは、混乱した様子できょろきょろと視線を動かした。
そして一度冷静になったのか、怒りに任せて殺そうとしたことに気づく。
「オレは……なんてことを」
「落ち着いた?」
「……ああ。悪いな」
トラウマがフラッシュバックしたのだろう。あそこで焦るなと言うのは無理がある。
しかし、いくら正気を保てていなくても殺してはいけない。殺すにしても、しっかりと目的をもって殺すべきだ。
あの時カリウスは、貴族を守るためではなく確実に私怨で殺そうとしていた。
「さて、誰に命令されたの? 貴族?」
「……いや、財産目当てだ。命令はされてねぇ。ただ子供を攫うだけの予定だったんだ」
「へぇ」
財産目当て、か。
元々有名な家だったからか、財産はたくさんあるのだろう。
この男が嘘をついている可能性もあるが、その時はその時。詳しい話はあとで聞けばいい。
「らしいけど、カリウス。あの時奇襲を仕掛けてきた人たちは貴族から依頼を受けてたんだよね?」
「そうだ。少なくともそいつらの独断じゃなかった」
あの時、トラウマの話を聞いた時後でカリウスから詳しい話を聞いたのだ。
その山賊? 盗賊? はどうなったのか、と。
答えは簡単、その貴族を嫌っていた貴族が命令したのだ。結局その貴族も捕まり奇襲を仕掛けた者も捕まったらしい。
どこに怒りをぶつければいいのか分からないカリウスはロンテギアから逃げて修行の旅をした、というわけだ。
「レクトくん、終わったよー」
「お疲れルイン」
空を飛びながら縄で縛った四人の男を運んできたルイン。
異様な光景だがこのくらい受け入れないとこの世界は生きていけないぞ。
「じゃあそこの人たちにも質問。この奇襲は誰に命令されてやったの?」
「め、命令……? 強いて言うなら、ボスだ」
「確かに考えたのは俺だけどよォ……はぁ、そうだ。俺がこいつらに命令した」
チラリとルインを見るが、特に気にしていない様子。ということは嘘はついていないな。
ルインが噓発見器みたいになってる。だってこいつ嘘絶対許さないウーマンだもん。
「なるほどなるほど。よしルイン、全員その辺の木にでも縛り付けておいて」
「了解!」
短く返事をしたルインは、俺の前で腰を抜かしている男も縄で縛って飛んで行った。
これで安心だ。後で王都に持っていこう。全部面倒見るのは嫌なので専門の人に任せようね。
「とりあえずあの二人のところに戻ろうよ」
「だな」
背伸びをしながら歩き始める。
すると、肩を叩かれた。カリウスかな? と思い後ろを見るが誰もいない。
勘違いか? いや、確かに肩を叩かれたはず。なら今の感覚はなんだろうか。
……見えない不意打ち、そうだ。『トワイライト』でも似たような経験がある。
「どうしたんだ?」
「いや……ちょっといい?」
俺はストレージから『サーチゴーグル』を取り出し、装備する。
〈魔力探知〉でもよかったのだが、せっかくならアイテムを使いたい。
それにあれは光も出るため驚かせてしまうかもしれないのだ。慎重に見よう。
「……どうも」
「やっぱり気付いてましたか」
『サーチゴーグル』は、広範囲の敵を検知するアイテムだ。感覚でどこに敵がいるのかが分かる。
そして、それは“ゴースト”系のモンスターも見えるようになるのだ。
今俺の目の前に立っている薄く光る鎧姿の男。先ほど肩を叩いたのはこの人だろう。
「え、何? なんで一人で喋ってるんだ?」
「……カリウスには見えていないのですか?」
「まあ、俺はこのゴーグルがあるから見えてるだけなんで」
どうやらカリウスの知り合いらしい。
この状況で出てくるカリウスの知り合いの幽霊。導き出される答えは一つだ。
この人はあの事件で死んでしまった騎士の一人なのだろう。
「変わったものがあるのですね。もしよければ、それをカリウスに貸してやってくれませんか」
「いいけど……どうせなら貴族の親子とも話す? 言いたいこともあるだろうし」
「それはありがたい……! ですがまずはカリウスと話がしたいのです。それは後程ということで」
「ん、分かりました」
貴族のいる前では話しにくいこともあるのだろう。
まずは騎士同士で会話をしたいのだ。
そういうことなら俺は惜しげもなくアイテムを使う。『サーチゴーグル』は複数個持っているのだ。
「ついにレクトの頭がおかしくなってしまった……いや、元からか……?」
なんかカリウスがくそ失礼なことを言っている。渡さなくていいかもしれない。
しかしそうも言っていられない。カリウスのためというよりもこの幽霊のために渡すことにしよう。
「カリウス、これつけてみて」
「え? お、おう」
二つ目の『サーチゴーグル』を取り出した俺は、それをカリウスに渡す。
カリウスはそれを装備すると、目を見開いた。
「リ、リーダー……?」
「よ、久しぶりだな。カリウス」
知り合いだとは思っていたが、どうやらかつてのリーダーらしい。
その貴族を守る騎士たちのリーダーというわけだろう。他の騎士が幽霊にならず、この人だけが幽霊になっている理由が分かった気がする。
俺も二人の会話は聞こえているが、あまり邪魔はしないようにしようか。




