110 コレクター、悪魔と交渉する
王様にも、俺の現状を知ってもらうために全てを話すことにした。
最初に説明した時は混乱していたが、それが本当ならば全ての違和感が解決するとして納得してくれた。
同時に国宝を集めていること、二つ俺が持っていることなども伝えたが、その方が驚かれた。国宝を個人が所有するということはそこまですごいことなのだ。
「これでミカゲが共通の敵になったな」
「シャムロットやアルゲンダスクとも情報共有をして地盤を固めていきたいね」
俺たちだけで世界を救う、ということはかなり難しいだろうから各国から力を借りることにする。
個人の戦力が大切なのは確かだが、それ以上に人数も大切になってくる。
人数がいないと困ることは山ほどあるからね……レイドボスとかほんとそう。
「っと、オレは騎士長と話してくるわ。一人でも大丈夫か?」
「大丈夫だって、過保護だなぁ」
最悪ミカゲたちが襲ってきたところで〈空間移動〉で逃げればいいしね。
それ以外の面倒な輩にはまず負けない。そもそも戦いたくないので全て逃げるけども。
カリウスと解散し、王都を散策するが特にやることも見つからない。シウニンさんは……仕事中かな、ちょっかいかけるわけにはいかない。
「ルインは……いないなぁ」
適当に歩き回ったがどこにもルインの姿はなかった。
もう用事もないし宿屋でゆっくりしていようそうしよう。
最近は修行ばかりで疲れていたし、たまにはこうしてベッドで休むのがいいだろう。
「あー疲れ……」
「おかえり」
宿屋に戻り部屋に入ると、そこにはルインが立っていた。
あれ、部屋間違えた? なんて思ったがベッドは二つある。なら俺とカリウスの男部屋だ。
ということはルインが部屋を間違えていることになる。
「あれ、ルイン? 観光は?」
「少ししたら飽きちゃった」
「そっか、まあそんな観光地なんてないからねここ」
魔力が多く神聖な場所はシャムロットやアルゲンダスクが領地を手に入れているためロンテギアにはただの平原や森、山だけしかない。
王都も急激に広げていったせいで観光するような場所はほとんどない。世界的に見てもクソ田舎である。
畑フェチが郊外に行けば絶頂するんじゃないかな。
「それよりも部屋間違ってない? ここ俺とカリウスの部屋なんだけど」
「ううん、間違えてないよ。広い部屋で休みたかったから」
「ああ、そういうことね」
狭い部屋よりも広い俺たちの部屋に来ているだけってことね。
それはいいんだけど、俺がいたら意味ないんじゃないかな。
「カリウスはしばらく帰ってこないかもだし、どこか行く? 食事ならシウニンさんがおすすめしてくれたお店があるんだけど」
「それなら、あたしの行きたいところに来て欲しいな」
観光するときに行かなかったってことは女性一人か、悪魔だと入りにくい場所ってところか。
悪魔なら差別というか、視線が刺さって動きにくいだろう。観光しても楽しくなかったのもそのせいかもしれない。
「ってことは一人じゃ行きにくいところか。ついていくよ、どこ?」
「ここ」
ルインの言葉と共に部屋が真っ黒に染まる。
真っ黒な空間には俺とルインだけ。
これは……異空間か。少し驚いたけど、ルインも使えるのか。
「あたしの物になってよ。世界の滅亡なんてもうどうでもいいじゃん。どうせ滅ぶなら、それまで楽しもうよ」
「悪魔って同じことしかしないの?」
「なに? あたし以外にもいるの? それはちょっと許せないなぁ」
その使う相手はリスティナなので、できればそのまま許せずに討伐を手伝ってほしい。
「というか、どうせ滅ぶってどういうこと?」
「あたしね、魔眼持ちなんだ」
「はあ」
この世界に魔眼って概念あったんだ。
そのことについては特段驚きはしない。問題はルインの魔眼がどのようなものかだ。
「能力は〔未来視〕。未来を見ることができるんだよ」
「……未来、ね」
先読みされることが多いとは思っていたが、まさか魔眼の効果だとは。
「それで? 世界が滅びるのを知っちゃったわけか」
「そういうこと。どう頑張ってもね、この世界は滅びてしまうの。もうその未来は変えられない。だからあたしは滅びるまでの間にやりたいことをするの」
「はあ……そういうことかぁ」
やけに俺たちの行動に対して悲観的な反応をしていた理由は最初から意味がないと知っていたからか。
「俺たちの前に現れたのは?」
「ただの偶然だよ? 森を歩いていたら面白そうな音が聞こえてきたから倒れてみたの」
「変な奴……」
「お互い様だよ」
野球の音が聞こえてきたから怪我したふりをして倒れてみるってどんなだよ。怖いよ。
「一応聞いておくけど、世界はどうやって滅ぶんだ?」
「空から隕石が降ってくるの」
お笑いじゃないんだから。
だが、それを聞いたら確かに世界が滅びそうだと思ってしまう。恐竜だってそれで滅んだんだから人類なんてひとたまりもない。
「それはどうして? 誰がやったの?」
「さあ? 遠い未来で視れるのは、断片的な部分だけだから。誰が何をしたかまでは分からないよ」
くうう、未来が分かるならどうすれば防げるのかも分かると思ったんだけどダメかぁ。
でもそれを繰り返せば未来も分かるようになるんじゃないかな?
「それにいつでも視れるわけじゃないからね。すぐ先の、数秒先の未来なら意識すれば視れるけど。数時間や数日以上先を視るには、それが危機的な状況で、しかも危機を察知してふと視えた時しか視れないの」
「そこの制御は効かないんだ……」
ちょっと不便な能力だな。
ん? 待てよ?
「未来は今まで絶対に変えられなかったの?」
「……ふと視える危機的な未来は変えられないよ」
「そっか……」
未来を変えることができると分かれば希望も見えたんだけど、そういうわけでもないらしい。
一応、未来を変えることに失敗しているだけで本当は変えることができるという可能性もある。それに縋るしかないね。
そして未来を変えるのなら、ルインの存在が重要になりそうだ。今後もし危機が迫ることがあれば知らせてくれるのだから。
「もう分かったでしょ? 今更足掻いても意味なんてないの。ね、あたしの物になって?」
「……分かった。ルインの物になってもいい」
「やった、嬉しいよレクトくん」
「ただし俺に勝ったらね。ルインが戦闘で勝ったら俺はルインの物になる。代わりに、俺が勝ったルインは俺の物になってよ」
これが俺の狙いだ。
ルインとの関係はオルタガに行くために重要になってくるだろう。
悪魔との戦闘に慣れればリスティナとの戦いもしやすくなる。いいことだらけだ。
まあ、俺の物になれ発言はちょっと言いすぎたけど。何とかなるでしょ。
俺の言葉を聞いたルインは、口元を歪ませながらニタァっと笑った。顔は美人なのに笑い方だけ不気味なんだよねルイン。
「へぇ、勝てるとでも?」
「もちろん。世界救おうとしてるんだから勝つよ」
ルインは〔未来視〕の魔眼を持っているので、それなりに実力があることは分かる。
俺の実力、というか力も知っているのに拒否しないってことは勝機があると思っているということ。
奥の手があるか、それとも〔未来視〕にはこちらの力なんて関係ないのか。
いずれにしろ、ここで俺が負けたら終わりだ。
「本気でやろう。殺すつもりで来てよ」
「それ、本当に死んじゃうよ?」
「どうせ世界は滅ぶんでしょ? 今死んでも変わらないんじゃない?」
死ぬつもりはないけども。
「それだとあたしが困っちゃうな。面白くないじゃない?」
「じゃあ手加減してもらって構わないよ。俺は殺すつもりでいくから」
俺が本気で戦えばルインも本気で戦ってくれるだろう。
ルインの気持ちを変えるのなら本気でぶつかり合わなければならない。例え仲間になったとしても、ルインが悲観的な考え方をしてやる気を出さなかったら意味がない。
世界滅亡を防げるかもしれない、そう思わせるのだ。
「うんうん。それでいいよー。いやー嬉しいな、今日はいい日だよ」
もう勝った気でいるらしいルイン。ちょっと、怖すぎるな。ルインの物になることを考えると背筋が凍る。これは負けられない戦いだ。
「場所は……アルゲンダスクの平原……いや、アルゲン山脈でやろう。その方が雰囲気が出る」
「いいね、雰囲気大切だし」
そう、雰囲気は大切なのだ。やる気に直結するのだから。
それに岩などが多く戦術性も広がる。火山もいいが『冷気のネックレス』を用意する必要があるため除外だ。
さ、カリウスのために書置きをしてアルゲンダスクに〈空間移動〉しようか。
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