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011 コレクター、商人ギルドに行く

 商人ギルドは、あまり目立たない外装の建物だった。

 扉をノックすると、丁寧に中へ案内される。わざわざ商人ギルドを尋ねに来るのだから、さぞ金を搾り取ろうとしているのだろう。

 店の紹介、または物の取り扱いの持ち掛けが基本だろう。何を隠そう、俺の目的も取り扱いの持ち掛けだ。

 とりあえずその説明をし、一人の商人と話し合いをすることになった。

 狭い部屋でお互いテーブル越しに座る。


「トワ領の領主様、今回は私共のためにご足労いただきありがとうございます。それで、商品についてですが、花、でしたか」


 一つ一つ確認するように話を進めていく商人さん。

 若い。いや一応俺よりは年上なわけだけど、どれほどの地位にいるのだろうか。

 できればギルド長とまではいかずとも、それなりに顔の広い商人さんがいい。


「はい。俺……私の開発した花を村で栽培し、王都へ売りたいのです」


 一応敬語を使う。こういう場では、話を円滑に進めるために敬語を使わねばならない。それは貴族でも同じだろう。

 まあ、そうじゃない偉そうな貴族もいるのだろうが、商品のやり取りをするわけだから印象は大切だ。取引先みたいなもんだし。


「ふむ、その花はどのような物なのですか?」

「ああ、話だけでは信じてもらえるか怪しいので現物を用意しました。これです」


 俺はあらかじめストレージから取り出しておいた『グリーンクローバー』と『ピンクブロッサム』を取り出す。

 商人さんも見たことのない花だったようで、興味深く観察してくる。


「ほお……これは美しい。名前は決まっているのでしょうか」

「このクローバーが『グリーンクローバー』、こちらが『ピンクブロッサム』です」

「なるほど。新種の花というわけですね。『ピンクブロッサム』は他に類を見ない形なので鑑賞用として期待できますが、この『グリーンクローバー』は大きく色の濃いクローバーなので鑑賞にはあまり期待できません。花も、大きいだけですので」


 しまった、鑑賞用と考えると確かに『グリーンクローバー』は期待できない。

 しかし、この花たちの役割は鑑賞だけではないのだ。


「鑑賞では、確かに期待できないです。ですが、この『グリーンクローバー』は薬草以上の効果が期待できます」

「薬草以上、ですか。失礼、〈鑑定(フィンド)〉」


 そう言うと、商人さんは指先を光らせ『グリーンクローバー』に触れさせる。鑑定しているのだろう。

 〈鑑定(フィンド)〉、知らない魔法だ。

 この世界には『トワイライト』にはない魔法が存在している。もしかしたら俺のも使えるレベル5……第五魔法を越える魔法が存在しているかもしれない。


「こ、これは……!」


 鑑定が成功したのか、商人さんは吐き出すように声を出した。

 鑑定魔法が存在しているのなら、今付けている指輪などは外しておいた方がいいかな。


「薬草以上なんてものじゃない、完全に上位互換じゃないですか! こんなものが出てきたら、今のポーションは大きく変わりますよ!? どうやってこんな物を……」

「企業秘密」


 俺はこの世界のポーションがどのような効果なのか知らないのだ。もし『トワイライト』と同じ効果だった場合、飲んだだけで全回復する異常なポーションということになる。

 そんなもの、リアルな世界にあっていいはずがない。

 幸い、商人さんの反応からしてポーションの技術はあまり進んでいないようだ。よかったけどよくなかった。


 ポーションの技術が進んでいないのなら、『グリーンクローバー』を使った『グリーンポーション』が現れるのはまだ先だろう。

 あと、ゲーム内最上位のポーションの材料は最下位のポーションと同じただの『薬草』だったりする。

 製造方法やスキルの熟練度で変わるのだ。結局、技術さえ進めば『薬草』で作れる。少しくらい薬草の上位互換が出てもいいだろう。


「ちなみに、そこの『ピンクブロッサム』は薬草と同等の回復効果を持ちながらしばらくの間継続して回復する効果が付与されます。例えば飲んだ後に怪我をした場合、その怪我が治っていく、という感じですね」


 具体的な効果を知らなかったカリウスも驚いていた。

 この世界での『薬草』はゲーム内と同じものだ。効果も全く同じ。

 なので、それを物差しとして使っている。

 他の花も同じように通常の回復ポーションに追加効果が付与されたポーションとなる。これがフラワーポーションだ。

 『グリーンクローバー』の『グリーンポーション』は……うん、ただのちょっといいポーションだ。それでもこの世界だと高性能になるんだろうけど。


「な、な……なんてものを持ってくるんですか!? 大発明ですよ!? 間違いなくロンテギアが、いえ、世界が動きます! こんなの、私の引き受ける仕事じゃあない!」

「貴方一人だからいいんですよ。まず、この花を仕入れるのはトワ村のみにしてください。これは他の人に市場を取られないようにです。他の人が真似て栽培するのは……まあ止められないので目を瞑りましょう」


 これが俺の作戦だ。商人ギルドはおそらくほぼ全ての商売に関わっている。

 何か店を開くのなら、売買をするのならギルドの許可が必要だろう。だから、その許可を取らせないようにする。

 それでもこっそり売ったり、加工して売ったりする人が現れるだろうが、まあそれは仕方ない。技術向上のために放置だ。


「それが、条件ですか……」


 正直、条件は緩すぎるくらいだと思う。

 国を傾けるような新種の植物なのだ。もっと金銭の要求をするのが普通だろう。

 だからこそ、迷っている。商人さんは、俺のせいで国レベルの重要な仕事をするのだ。ごめんね。


「ええ。引き受けてくれますかね」

「ここで断るのは商人の名が廃りますね……いいでしょう、引き受けます。いつ頃から仕入れられますか?」


 流石商人、不安な気持ちから切り替えて今後についての話を始める。

 しかし残念。この花の栽培を開始したのはつい数日前なのだ。


「まだ栽培方法を確立している途中なのでそこまでは。ですが近いうちに完成するはずですよ。その時は改めて報告させていただきます」

「分かりました。ではこちらもその間に販売方法を考えておきます。今日はありがとうございました」


 販売方法とは、ポーション開発の準備やそれ以外ではどう加工するかなどのだろう。すり潰して傷薬にもできるかもしれない。飲み薬にだってなる。

 最後に決まったことの確認を行い解散となった。


 宿屋に向かう途中でカリウスに「これどうなっちゃうんだよ」と聞かれたので、知らね。って答えておいた。どうにかなるさ。

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