106 コレクター、現実世界の話をする
「まずは……俺の出身についてかな」
いきなり細かく説明しても理解追いつかないだろう。むしろ物凄く簡単に説明して質問に答えながら細かい説明をするという流れの方が伝わりやすい。
「御伽噺……じゃないのか?」
今まで俺が御伽噺の主人公だと思っていたカリウスは驚いた顔でそう呟いた。
出身は御伽噺によく似た世界、それは確かだ。『トワイライト』は第二の故郷と言ってもいいからね。
だがもう一つある。地球、日本だ。
「それもあるんだけどもう一つ。御伽噺に似た世界とは別にもう一つ世界があるんだ。ね、セラフィー」
「はい。確かにあります。その世界は特殊な技術が発展しており、魔法は物語の中だけで、実際には存在しないと思われているのです」
科学技術、魔法が一般的だったらなかなか発展しないよね。
いや、むしろ魔法を使った機械が生まれるのか? 現実世界とは逆を辿るのかな?
行き過ぎた魔法は科学と区別がつかない。みたいな。
「特殊な技術、とは何なのじゃ?」
「ええと、魔法を使わずに空を飛んだり、高速で弾を発射したり、冷やしたり温めたりとかができるんだよ。それも魔法が存在しないからこそ発展した技術だね」
一人用のジェットパックは完成しているそうだが、まあ危険だから一般には売り出されないよね。
でもフルダイブができるゴーグルが販売されているのはどうなのだ。今なら異世界転生付き。
「ですね。まあ表向きは魔法は存在していないことになっていますけど、実際には魔術は存在しているんですけどね」
「なんて?」
今俺はとても間抜けな顔をしているだろう。
「あの世界にも魔法……ではなく、魔術は存在しています」
「マジでぇ!?!?!?」
衝撃の事実。魔術、あるってよ。
あれだけネットが普及していて存在が露呈していないということは、本当に裏の存在なのだろう。
あれぇ、ってことは……ミカゲの魔術って現実世界の魔術なの? 現実世界であんなことできるのかよ。
「あれ、知らなかったのですか? てっきりわたしは日本の魔術師だとばかり……」
「俺は一般人だよ!」
「では何故そのような力を持っているのでしょうか……? というより御伽噺の世界から来た、というのもよく分からないのですが……」
頭上にクエスチョンマークを浮かべながら、セラフィーはぶつぶつと呟きながら考え込む。
そう、この説明が面倒くさいのだ。
「一般人……嘘はついてないみたいだねー。どういうことなの?」
ルインの真偽判定は正常に作動しているようだ。
嘘はついていない。俺は本当にただの一般人であり、何の力も持たない人間だ。
そんな俺が第五魔法を操り様々なアイテムを扱っているのだからみんな信じられないのだろう。
「ここがややこしい話なんだけど、さっき説明した特殊な技術あるでしょ? それで世界を創ってその中で遊ぶ、っていうことができるんだ」
「世界を創る……? そんなの、神の領域じゃねぇか」
カリウスの言葉に真剣な顔つきになった全員が小さく頷く。
確かに世界を創るとだけ聞くと神の領域だ。だが、あれはゲームであり現実ではない。
「落ち着いて。世界を創るとは言っても、仮の世界で本物じゃないんだよ。ただ遊ぶための空間、そこにある物を元の世界に持ち出すことはできない」
「なるほど……いや、それでも十分すごいけどな」
それは俺も思った。こうして説明すればするほど人間の技術が怖くなってくる。科学の力ってすげぇ。
「つまり、その仮の世界が御伽噺の世界、ということですか」
「うん。その世界にも物語があって、この世界の御伽噺『トワイライト』とすごく似ていたんだ」
あの時は本当にびっくりした。まさか異世界でネタバレを食らいそうになるとは。
「ふむ、やはりお主はライトではないのじゃな」
「うん、そうだよ。がっかりした?」
「いや、そもそもライトとは会っとらんし、がっかりなどせん」
ライトと会っていない……? まるで会おうと思えば会えたような言い方だ。
「ん? ライトって実在してたの?」
「うむ。噂は聞いておった。ずっと昔の話じゃがな」
ますます意味が分からない。
ええと、ライトは実際にいて、それが御伽噺の主人公の元になったと。
じゃあそいつは何者なんだ。本当にただの英雄なのかな? 後で図書館で調べよう。
「そうです! このことを聞きたかったのです! その仮の世界にいたレクトさんはなぜここにいるのですか? 物を持ち出せない、と言っていたはずですが」
「それね、俺もよく分かってないんだよね。気付いたらここに居たし、なぜかその世界の道具とかも使えるようになってるし」
「うむむ、わたしも心当たりはありませんね……」
俺がこの世界にいるのもてっきり天界が関係していると思っていたのだが、違うらしい。
なら俺をこの世界に転生させた神様は一体誰なんだ。まさか……いや、そんなはずない。そんなことが許されるはずがない。実現するはずがない。
「嘘をついてない……? そんな、じゃあ本当にそんな世界があって……きっとこの世界はその世界に滅ぼされて……」
顔を青くしたルインが何やら呟きながら震えていた。
今までのルインからは想像もできない。いや、時折見せる悲しそうな顔に近いか。それに恐怖が合わさった感じだ。
「ルイン、どうしたの?」
「なっ、何でもないよー。うん、すごい話を聞いちゃったなーって」
「そう、こんなとんでもない話だから、言っても信じてもらえないと思ってさ。今まで言ってなかったんだ。みんな、ごめん」
謝った俺は深く頭を下げた。
「まあ、驚いたけど納得しちまったよ。そうか、そんな世界があるのか……そりゃ、こんな大事にもなるわな。謝るほどじゃねぇ」
「そうじゃそうじゃ。というか、こんなのただの情報共有じゃしな」
「そうね、もっと酷いことを隠していたのかと思ってたわ。むしろ聞けて良かったわよ」
もっと酷いとはどういうことだ。あ、ティルシアにお兄ちゃんって呼ばせたとかか。言い訳考えとかないとね。
「ありがとう、みんな。そうだ、さっき説明したことで詳しい話を聞きたいって人いる?」
「その世界にも剣士っているのか?」
「あー、一応いるけどそれも一般的じゃないかな」
剣の達人はいるけど、戦闘では役に立たないかもね。現実世界での戦闘は、そんないい物じゃないし。
ルールのある戦いなら、学ぶものもあるかもしれない。
その後も様々な質問をされ、それに答えていった。
次はセラフィーか、カリウスの話だろうか。




