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102 コレクター、悪魔と出会う

 いくら悪魔族とは言っても倒れている女性を見過ごすわけにはいかない。とりあえず周りにモンスターがいないことを確認する。


「おーい大丈夫ー?」


 近づくにつれて、大きな魔力の発生源が彼女であることに気付く。

 悪魔族は皆このような魔力なのだろうか、そうなると一般人でも獣人族を軽く超えることになる。


「ぁ……人?」


 気絶はしていないようで、悪魔族の女性は俺の声を聞いて何とか木の根元に寄りかかろうとした。

 ふらふらとしているが、内包している魔力は相当なものだ。怪我をしてしまったか、単純に疲労が貯まったかだろうな。

 どちらにせよ回復はしておいた方がいいだろう。疲労なら気休め程度だが、しないよりはマシだ。


「とりあえず……〈全回復(ヒール)〉っと。何があったの?」

「ん、ありがとねー。オルタガから逃げてきてさぁ、モンスターとの戦闘でこのざまなの」

「へえ、オルタガから……ええと、すぐそこに村があるんだけど休んでいく?」

「いいの? じゃ、お邪魔しようかなー」


 先程まで倒れていたとは思えないほどニコニコしながら、悪魔族の女性は立ち上がり身体に付いた土を払い始めた。

 村に招待するとは言ったが、本当に連れて行っても大丈夫なのだろうか。いや、ドレイクとティルシアを受け入れてくれている村人たちなら大丈夫だろうが、彼女が警戒するかもしれない。

 まあそれは歩きながら話そう。そうだ、まだ名前を聞いていなかった。


「そういえばまだ名前聞いてなかったよね? 俺はレクト、君は?」

「ルイン。ルインさんって呼んでくれてもいいんだぞー?」

「じゃあルインで」

「ダメかー」


 喋り方こそ気さくだが、女性らしさは失われていない。いたずらをしようとする子供のような表情でこちらを覗き込んでくる。

 くっ、顔がいい。この世界の顔面偏差値はどうなっているのか。リスティナだって、敵じゃなければ惚れていたかもしれない。というか悪魔族の服装はどうなっているのか。露出が多すぎる。胸元がすごい。見ないように気を付けないと。


「オルタガから逃げてきたって、何があったの?」

「お、それ聞いちゃうんだ。でも大したことない理由だよ? お金が無くて、ノアトレインにも乗れないから他の国に行こうとしただけだし。あと、ついでに旅もね」

「旅かぁ、いいねぇ」


 もっとひどい理由かと思ったが、単純にお金がないから旅するついでに国を出たってだけだった。

 旅か、一応俺も何度か冒険したが、旅らしいことはできていないな。オルタガに行く許可が取れるまでの間、修行のついでにアルゲンダスクのあるランオーガ大陸を旅してみてもいいかもしれない。

 会話をしながら歩いていると、カキーンと金属音が鳴り響く。流石に何度もドレイクの球を打つのは難しかったか。だが二回目のホームラン、君野球の才能あるよ。うちに来ないか?


「今の音はなに?」

「またホームランかな。今のはね――」


 俺はルインに特殊なボールとバットで修行をしているということを話した。

 ルインは目を輝かせながら俺の話を聞いていた。俺がアイテムについて解説すると、さらに目を輝かせる。

 その反応が面白くてみんながいる場所につくまでの間、持っているレアアイテムを自慢してしまった。

 間違いない、あの目は俺やドレイクと同類の目だ。屋敷に戻ったら自慢のアイテムを見せようと思う。


「キミ、面白いね」

「そう?」

「うん、欲しくなっちゃう」


 急にそんなことを言ってきたルインの目は、俺を捕えようとするリスティナの目と似ていた。

 悪魔族はみんなこうなのだろうか。まあ、気に入られるのは嫌なことではないので問題ないか。


「あ、悪魔族!? この子どうしたのよレクト!」

「倒れてたから助けた。旅をしているんだってさ」

「初めまして。さっきレクトくんに助けてもらったルインだよ。よろしくね」


 その場にいた全員に向けて笑顔を向けたルイン。

 美しい顔立ちとその笑顔、言葉にその場にいた全員が警戒心を解いた。

 ……この違和感は何だろうか。もやもやしていると、ルインはバットを持っているカリウスに駆け寄った。


「ふーん、これがバットなんだー。それであっちがボール。ねえ、打ってるところ見せて?」

「あ、ああ。いいけど……いけるか? ドレイク」

「さっきのはまぐれじゃ! もう絶対に打たせないのじゃ!!!!」


 そう言うと、ドレイクは纏わせていた炎を青く変化させた。

 うわ、大人げない。見た目幼女だけど大人げない。

 これにはルインも驚いて……いや、落ち着いている? いや、口元がにやけている。何を考えているのだろうか。


「うおりゃあああああ!!!!!」

「ふんっ!」


 青い炎を纏いながら高速で放たれたボールは、パァン! と大きな音を立ててゴーレムの手に付けられた『魔球用キャッチャーミット』に収まる。

 おお、めっちゃ早い。そして打ち返すのも力が必要そうだ。

 カリウスは勢いよくバットを振るが、かすりもしない。当たれば打ち返せるのだろうが、やはり野球初心者には難しいか。


「くっそ、なんでだ?」

「ねえねえ、俺にも打たせてよ」


 俺はカリウスにそう言った。俺も打ちたい。

 カリウスからバットを受け取ると、俺は何度か素振りをし感覚を確かめる。


「バッター、カリウスに代わりまして、代打、レクト」


 独り言ではあるが雰囲気を出すために言葉を発する。

 そうだな、やはり状況はここぞという時に投入される代打打者。チームの期待を背負って打席に立っている、と。

 燃えてきたじゃん。それなら、俺も全力を出すしかないね。


「〔キルタイム〕」

「ちょっと、一応修行だけど遊びなのよね? 大丈夫なの?」

「遊びは全力でやらなきゃでしょ」


 遊びも本気でやればそれだけ楽しくなる。なら、俺が出せる一番の技を使った。

 視界がモノクロになり、球の視認性は悪くなるが目で捉えやすくなる。


「おんどりゃああああああ!!!」


 幼女とは思えない声を上げながら、ドレイクは青い炎を纏いながら回転するボールを投げてきた。

 あまりの速さに振ることができない。ストライッと存在しない審判の幻聴が聞こえてくる。

 二球目、振ってみるがタイミングが合わない。これでツーストライク。もう後がない。


「絶対に、打ってみせる!」

「無駄じゃ! うおおおおお! フレイムジャイロボーーーール!!!!」


 どこで覚えたんだそのジャイロボールは!? とツッコミを入れる余裕もなく超回転をする炎のボールを見る。

 今の二球で多少だが分かってきた。この速さの球はゲーム内で散々打ってきたんだ。打てないわけがない。

 思い出せ、ギルド野球大会のあの日を。あれは主催者のワンローさんが優勝賞品にした『ペガサスカード』を賭けた戦いだった。

 基本は一対一のトーナメント、三回裏まででより多くの点数を取った方が勝ち。

 俺は決勝で主催者のワンローさんの剛速球を……観客席まで飛ばしたのだ。


「なんじゃとおおおおおおおおお!?」


 あの時の再現のように、俺のバットはドレイクの球を完璧に捉えた。

 あそこまで飛ぶと戻ってこないんじゃないかと心配になってしまう。が、しばらくしたらしっかりとドレイクの手元に戻ってくる。

 ギルド対抗野球大会についての話はまた今度だね。


「優勝だああああああああああ!!!」

「何のよ」


 当時を思い出して飛んで喜んでしまった。

 やっぱり楽しいな、人数がいればちゃんとした野球とかスポーツもしたかったんだけど、今は無理だね。

 とにかく、打った! 獣王戦だけでなく、野球でもドレイクを倒したのだ。

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