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101 コレクターたち、野球をする

* * *


 アルゲンダスクの国宝を無事に手に入れた俺たちは、オルタガに行けるようになるまでの間、相も変わらずトワの森で修行を続けていた。

 俺はカリウスとの試合中に感じたヘビのイメージを固め、エリィはセラフィーとの連携の練度を上げている。

 それぞれ目標をもって修行をし、それぞれパワーアップに成功した。まだまだ完全ではないが実戦で使える程度にはなっている。


「さあ九回裏ランナー満塁、フルカウント、点差は三点となりますこの状況。バッター四番のカリウス選手、緊張の一瞬です」

「それはチャンスとピンチどっちなのよ?」

「どっちもですね」

「なんで敬語なの……」


 森の開けた空間で、カリウスは金属バットを持って立っていた。

 そしてドレイクは、赤い刺繍の入った白いボールを片手にカリウスの斜め後ろに座っているゴーレムを見据えている。


「ドレイク選手、もう敬遠はできないので勝負するしかありませんね。解説のセラフィーさんはこの状況をどう見ますか?」


 俺がエリィに向かいそう問いかけると、エリィの目の色が金色に変わった。


「試合前、カリウス選手は小さなお子様と試合中にホームランを打つ約束をしていました。なので、わたしは打ってくれると信じています」

「なるほど。確かにそれは熱いですね。現在カリウス選手はヒット、ツーベースヒットを連発するという素晴らしい成績を残しています。ホームランを打てば優勝というこの状況、観客の期待も高まっているでしょう」


 視線を横に向けると、座って笑顔で応援するティルシアがいた。

 その隣には冷や汗を流すシウニンさんが。観客は二名であった。


「ああ、彼女が約束の子供ですね」

「これは否が応でも期待してしまいますよ。ああっとドレイク選手、手に炎を纏いました!」

「渾身の一投。目が離せません。瞬き厳禁です」


 ドレイクがボールを持った手を真っ赤に燃やした。

 片足を上げ、右手をフルに使ってボールを投げる。


「ピッチャー振りかぶって……投げた!」

「これがわしの、魂のボールじゃあああああ!!!」


 炎の一球がものすごい勢いでゴーレムを襲う。

 それに対し、カリウスはギリギリまで引きつけ、バットを振るった。


「っ、ここだッ!」


 カキーンと、甲高い音が響き渡った。

 ボールはキャッチャーミットには当然なく、弧を描きながら深い森の中に落ちる。

 森……じゃなかった、会場内に沈黙が訪れる。この沈黙を破るのは、実況である俺の役目だろう。


「さよならホームランだあああああああああああああああ!!!!!!」


 うおおおおおお! っと歓声が上がる。セラフィーとティルシアの二名だが。


「カリウスさーん!」

「ああ、やったぞ!」

「なぜじゃあああああああああ!!!!」

「なんなのよこれ」


 いつの間にか戻っていたエリィが呆れたように呟いた。

 こうして小さな小さな野球大会は終わりを告げる。ホームベース……はないのでゴーレムの前まで戻ってきたカリウスはふーっと息を吐いた。なかなかに緊張していたようだ。


「いやー緊張した。面白いなこれ」

「ちゃんとルールを設けて人数も集まれば試合ができるんだけどね、まあ流石にそこまではしないよ」


 どうやらカリウスにも野球の楽しさが伝わったらしい。

 というか別に空振りしても構わなかったのだが、本当にホームランを打つとは。


「うがー! もう一回じゃ!」


 そう叫ぶドレイクの手には森の奥深くに消えてしまったはずの野球ボールが。

 これは『魔球ボール』といって、遠くに飛んでしまっても投げた人の元に戻ってくるというボールだ。

 そしてカリウスが持っていたのは『超硬質金属バット』、魔力の籠った『魔球ボール』を受けても壊れることはない頑丈なバットだ。

 『トワイライト』内では設定だけだったが、どうやら本当にこの世界でも頑丈なバットらしい。

 ちなみに、キャッチャーをしていたのは『ゴーレムコア』を使って召喚したゴーレムくんです。魔球も簡単にキャッチしてくれるよ。


「ちょっと! なんで修行しないのよ? 遊んでていいの?」

「まあたまにはね。それにこれはただの遊びじゃないよ」

「そうなの?」

「投げる側は魔力操作などの向上に繋がり、打つ側は動体視力の向上に繋がる。素晴らしい練習なんだよ?」

「言われてみれば……確かにあの速さの球を打つのは難しそうね。それに力も必要だし、投げる側も狙った場所に投げる技術が必要。戦闘に活かせるところはたくさんあるわ」

「そゆこと。今更だけど、さらに基礎も底上げしていきたいなって思ってさ」


 こういった細かい能力はただ戦闘修行をするだけではなかなか育たない。

 戦闘中は様々なことを同時に考える必要があるため、一つ一つを伸ばすのが難しいのだ。

 なのでスポーツで動体視力と魔力関係を鍛えていく。運営が馬鹿みたいなアイテム作ってくれて助かった。ありがとうくそ運営。名物の緊急メンテ以外は最高だよお前は。


「それにしてもセラフィー、よく俺の実況についてきたね」

「ええ、わたしは野球がとても好きなんです。天界でも光る大きな板でよく視聴していました」

「テレビね……天界にテレビあるんだ」


 聞いた話で天界はもっと怖いところだと思っていたのだが、どうやらそうでもないらしい。

 テレビがあって、それで天使が楽しんでいたと。天界は天国なのだろうか。

 まて、そもそも天界にテレビがあるのはおかしくないか。神様が作った? そんな馬鹿な。

 ミカゲの様子からして、日本人が天界に来て何かをしているのだ。何か、俺たちの知らない何か邪悪な計画が進んでいる気がする。


「よし、じゃあ今度は俺がバッターに……っ!」


 打席に立とうとしたその時、緊張が走った。

 何かを感じた。これは魔力か? 近くにモンスターでもいるのだろうか。みんながいれば大丈夫だろうが、シウニンさんとティルシアは心配だ。一応倒そうかな。


「どうしたのよ」

「いや、なんか気配が……モンスターかも、ちょっと倒してくる」

「おーう。じゃあまたオレが相手してやるぜ」

「望むところじゃ!」


 再び打席に立つカリウスを後目に、俺は森の奥に入っていく。

 あの感覚は本当にモンスターなのだろうか。この世界に来た時に倒したブラックワイバーンよりも濃い魔力、そんなモンスターがこの近くに来ている?

 何はともあれ俺ならば問題ないだろう。危険なら一旦逃げるまでだ。


「あれは……人?」


 遠くに、黒髪の女性が倒れているところが見えた。

 もしやモンスターに襲われているのではと思い急いで駆け付けようとする。

 が、たどり着く前にあることに気が付いた。

 あれは人ではない。黒く、曲がった角に黒い翼、黒い尻尾。間違いない、リスティナと同じ悪魔族だ。

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