010 コレクター、酒場で情報を集める
酒場でカリウスの就職祝いのようなもの(支払いはカリウス)をした後、俺はプレイヤーの情報を集めるためそこにいた人たちから話を聞くことにした。
のだが。
「ぷれいやー? なんだそりゃ」
「聞いたことないな」
昼間から酒を飲んでいたおじさんたちは、それぞれそう言いながら酒を呷った。
うーん、そうだよねぇ。騎士であるカリウスがプレイヤーを知らないのだから、酒場のおじさんが知ってるわけない。
というか、なんで酒場が情報を集める定番になってんの。情報屋どこ。
「ねぇ、カリウス。冒険者はいないの?」
情報を持っているのは酒場に冒険者が集まるからだ。
冒険者はその名の通り様々なところに冒険する者のため当然情報も持っている。
「あー、それならほら、奥にあるカウンター。あそこが冒険者の窓口だ。探すならあの近くだな」
「ふーん。じゃ、ちょっと行ってきますか」
カリウスの言う通り、酒場の片隅には紙が貼られている掲示板があった。カウンターには受付嬢的な人がニコニコしながら立っている。
まさに冒険者ギルドだ。よくラノベやweb小説のファンタジーに登場するあれが配置されている。
普通の異世界転生主人公ならば、あそこで冒険者登録をし、チートでハーレムを作り上げるのだろう。
が、領主になっている俺にその選択肢はない。ま、冒険者になるなら次の機会だね。
「ヘーイ!」
「え、な、なんですか」
怖がられないように軽快な挨拶をしたのに、受付嬢さんは普通に怖がってしまった。
くそっ、周りに冒険者がいないからとりあえず受付嬢さんに話しかけるのは政界ではなかったか。
「何してんだお前……」
「あーその、プレイヤーを探してるんだけど、知ってる?」
「ぷれいやー、ですか?」
あ、これはダメだ。
「うん、知らなそうだし有名な冒険者が来た時に聞いてみてほしいな。ああ、それと『トワイライト』って知ってる?」
今の今まで失念していたが、『トワイライト』がこの世界で知られているのかも知っておきたい。
もしも俺より前にこの世界にプレイヤーが転生していた場合、そいつは『トワイライト』の名前を出すかもしれないのだ。
「トワイライト……ええ、知ってますよ」
返ってきたのは予想外の言葉。
どうせ今回もとわいらいと? とか言われてしまうものだと思っていた。なのに、この受付嬢さんはそれを知っている。
「……そっか。なら、ちょっと聞かせてよ」
「はい。トワイライトとは――――」
俺がカウンターに背中を掛けると、受付嬢さんはゆっくりと語り始めた。
* * *
テーブル席に座りながら頬杖をつく。
結果だけ言うと、受付嬢さんの言う『トワイライト』は御伽噺だった。
そして、その内容はVRMMORPG『トワイライト』のストーリーそのもの。
この世界は、確かに『トワイライト』と繋がっていた。
だが、全く腑に落ちない部分がある。
プレイヤーの情報が一切ないのだ。もしもプレイヤーがストーリーを御伽噺として広めたなら、少しはその情報が残っててもいいはずだ。
もちろん、情報が無くなり伝えられなかったのならそこまでだが。どうにも納得できない。
「おうおうねーちゃん、オレらと遊ぼうぜ」
「……?」
ふてくされていると、冒険者らしき男がこちらを見ながらそう言ってきた。
背後を確認するが、後ろの席に女性はいない。ならこの冒険者は誰に話しかけているというのか。
…………あ、俺か。
「すまないがこいつはオレの連れなんだ。これから用事もある。諦めてくれ」
おいなんで俺を女性として扱ってるんだ。
(お前っ……!)
(この方が楽でいいだろ?)
小さな声で咎めるが、カリウスはニヤリと笑いながらそう言った。
それで本当に楽になるの?
「ちょっとくらいいいだろうがよォ。おっ、いい指輪付けてんじゃねぇか」
「触るな!」
冒険者の男が俺の指にはめられた指輪に触れようとしてきたので、咄嗟にパンッ! と弾いてしまった。
男の目が変わる。先程のからかうような目から一転、睨みを利かせた怒りの目になった。
「テメェ……!」
男が殴りかかろうとしたその時、
「そこまで」
いつの間にか俺と冒険者の間に立っていた人物が、双方の肩を掴み止めてくれた。
俺は喧嘩なんてするつもりはなかったのに、嫌なことに巻き込まれるなぁ。
俺の肩を掴んできた人物は、白髪と黒髪が混ざった青年だった。
「ギ、ギルド長……」
なんと、ギルド長だったらしい。
人間の国が一つしかない以上、人間の運営する冒険者ギルドは一つだけとなる。
つまり、この人が人間の冒険者ギルドで一番偉いということになる。
「詳しく説明してもらえるかい」
「んじゃ、オレが。先程――――」
最初から最後まで見ていたカリウスがギルド長に事情を説明する。
当然、絡んできた男も弁解しようとするが、ただ触ろうとして拒否されただけなので弁解のしようがない。
結局、男はギルド長に厳重注意を受けその場を去った。
「さて、まさか貴族の方が来られるとは。今日はいったいどのようなご用件でしょうか」
向かいの席に座ったギルド長は、一息つくと冷静にそう言った。
ふむ、なぜ貴族とバレた。服装かな? 魔術師装備の中では地味な部類のはずなんだけど、この世界だと高級品になっちゃうか。
それに、ステータスを底上げする指輪などの装飾品も付けたままだ。一般人とは思われないだろう。
「ちょっと情報収集にね」
「なるほど。自分から足を運ぶとは、珍しいですね」
まあ貴族がのこのこと酒場に来るのは普通に考えたら珍しいよね。だから酒場のおじさんとかは気付かなかったのか。
ギルド長が気付いたのは、経験の差、みたいな? 冗談はさておき、この人は高級品かどうかの目利きが鋭いのだろう。それで気付いたのだ。
「いや、本当に助かった。まさか絡まれるとは」
「カリウスがこいつは男って説明すればすぐ終わったでしょ」
そう言えば、あの冒険者は興味を無くして去っていくに違いない。
「そうかぁ? 疑って無理やり服を脱がされてたかもしれないぞ」
「うわ、それは勘弁」
可能性はゼロではなかった。
『トワイライト』でも、男と説明してもセクハラしてくるプレイヤーは一定数存在していた。
くそっ、この世界にもHENTAIはいるというのかッ!
「確かに、男とは思えない美貌ですよね。ほんと、今まで話題にならなかったのが不思議なくらいです」
「……部屋に籠って研究生活してたからね」
とりあえず、いつものごとく咄嗟に嘘をつく。俺の手によって俺の過去が改変されていく。
しかし話題になるほどの美貌とは、男とはいえそんな褒められ方をされたら照れてしまう。
これは顔がいいせいで国が傾いてしまうのではないだろうか。ないか。ないね。
「なるほど。それで、他にこのギルドに用事はありますか?」
「あー、こことは関係ないんだけど一つ。商人を紹介してほしいんだ」
ロンテギア王国に一晩泊まり、朝からトワ村に帰る予定だ。
なので、王国を探索できるのはあと数時間となる。その間に、商人と取引の話をしておきたかった。
ギルド長に、商人ギルドの場所を聞いた俺たちは、本日最後の用事としてそこへ向かうことにした。
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