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四限目 リコーダー戦争

 歌は苦手だ。人前で歌うとどうしてか声が上ずってしまう。

 伸ばせば不安定なビブラートになってしまう。

 周りとズレていることに気がつかずそのまま最後まで通してしまう。


 合唱コンクールなんてもってのほかだ。本当に苦手な人のためにもちゃんと考えて欲しい。


 しかし今日は幸運なことにリコーダーの授業であるから僕はそこまで憂鬱でもない。

 リコーダーは大好きで練習するのも苦ではない。

 ウキウキと音楽室へ向かった。


——なんでことだ。

 今日は隣の人と合奏をするようだ。

 別に彼が嫌いなわけではない。しかしいつも寝ているしコミュニケーションのコの字もしてないのに合奏が成り立つのだろうか?

 ただただ疑問である。


 そんな僕の憂鬱を気にせずに隣ではぐっすりの眠っている。


「⋯⋯今日はリコーダーで合奏するから練習してもらわないと困るんだけど」


 ピクリともせずグースカ寝ている。

 幸せそうに眠る顔にイラついたのでリコーダーを耳元で思いっきり吹いた。


「うるっせーな鼓膜破れるわ!」


 怒りたいのはこっちだ。

 まったく、音楽の成績はリコーダーがなければ壊滅的なものになるのだからしっかりしてほしい。


「ほら、はやくリコーダーだして!

 アルト?ソプラノ?どっち吹きたい?」


「は?アルト?ソプラノ?今日何すんだ?」


「合奏だよ合奏!今回でいい演奏しないと音楽の成績が詰むからしっかりしてよ!」


「それは俺関係ないからいいんだけど」


「はいはい、頭が良くてよかったですね!で、どっち吹くの!」


 しばらくの沈黙の後。


「じゃあアルトで」


 譜面が簡単なアルトをとった。


「はいさっさとリコーダーを出す!

アルトはでかい方ね!組み立ててよ!」


 しかしここで僕は違和感を覚える。


「ねえ、音楽の道具どこにあるの?」


 マンガならギクッなんて効果音がぴったりだろうか。そんなリアクションをとって目をそらしながら彼は言った。


「あー・・・・・・。面倒だから家に置いてきちまった・・・・・・」


 僕たちの前にリコーダーが始まったクラスの人が言うには「リコーダーを忘れた場合先生が持っている予備のリコーダーを使う必要がある」らしい。

 何故かとてつもなく臭いという噂だ。


「⋯⋯」


「じゃ、予備のリコーダー借りてきな?」


 その時、手を握られた。


「頼む!あの不特定多数が使ったリコーダー使いたくねえから貸してくれ!」


「いやいやいや!なんで予備のリコーダーがあるのに僕のを貸さないといけないのさ!」


「だってあれ臭えって噂じゃねえか!お前アルトは一回も使ってねえだろ?頼む!」


「そしたら僕が次吹く時口つけないといけないじゃん!諦めて借りてきてよ!」


「仕方がない!こうなったら強行突破だ!」


 そう言うとリコーダーの入った袋を僕から奪いアルトリコーダーの口をつける部分を咥えた。


「⋯⋯最低」


「もうこれで諦めがついただろ?さあ早速練習を⋯⋯」


「一人でするから。勝手にやってて」


「さすがに俺も悪かった。だがもし、俺が吹けなかったらそのしわ寄せはお前にも来るんだぞ?」


 どこからどこまでクズなのだろうか。

しかしもしここで僕が教えなかったら合奏どころではない。

 謎の連帯責任によって成績が詰む。


「仕方がない。じゃあここからね」


 手取り足取り教えることになった。




「あーダメダメ!リズムが違う!」


「タンタタもターンタタも似たようなもんだしいいだろ!」


「僕と合わせるときにズレるでしょ!」



 そんなことがありながらもなんとか教えきることができて無事に合奏を終えることができた。



「なんとかなってよかった⋯⋯」


「というかどうして俺がアルト借りただけで怒るんだ?」


「いや、あんたは僕が使ってないから気分的にいいだろうけど僕は他人が使ったやつを使うことになるんだよ?」


「え、でもこの授業でリコーダー初めて使うんだからもともとの俺のアルトリコーダーを俺が使った方と交換すればいいんじゃないのか?」


「⋯⋯あ」


 少し考えれば気がつくことなのに。

 落ち着きは大切なんだなぁと身に染みて感じた。


「でも僕前にアルトリコーダー練習しちゃったんだけど」


「え⋯⋯」


 嫌がるのは失礼だと思ったのか黙り込む。

 そっちの方が傷つくのだが。


「⋯⋯嘘に決まってんじゃん。家で練習する暇なんて無いから」


「そうか、ま、明日アルト交換するぞ」


 授業の終わりのチャイムがなった。

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