放課後1
短いです。
それは、いつも通りのことだった。
敬愛する親衛対象の気を煩わせる者に対して行う警告。
そんな、彼らにとって呼び出したら終わる簡単なお仕事がまさか悪夢の始まりになるとは、この時点では露ほども思っていなかった。
「…へえ、逃げずによく来たね。」
校舎の陰から現れた人影に、そのグループのリーダー格の生徒は顎をそらしてのたまった。
生徒は、所謂親衛隊と呼ばれる組織に属している。
今朝、下駄箱に『放課後、校舎裏の雑木林に』と書いた手紙を入れるという、古式ゆかしい方法でターゲットの呼び出しを行った。
ダサい方法なのでやりたくなかったが、誰もターゲットの連絡先を知らなかったのだから仕方ない。
最近は風紀の戦闘狂の所為で制裁もままならず、親衛対象の“あの人”の御心を乱す奴らを注意することもままならなかったが、何はともあれ、ターゲットが来た時点ですべてこちらの思惑通りである。
生徒はほくそ笑んだ。
編入してきて1日しか経っていないターゲットは、相談できる相手もなく、そして風紀委員会のことも知らないはずだ。どこにも告げ口されることなく、完璧に事をなせる。
そう、思っていたのだが。
「…な、なんかアイツ、思ったよりデカくないですか…?」
横にいた親衛隊仲間が、思わず呟く。
ゆっくりとこちらへ近づいてくるそれは、事前の情報ではひょろいもやしのような男だと聞いていた。同世代に簡単に持ち上げられてしまう程度の体格だと。
しかし、根暗そうな前髪と、ほっそりしたシルエットは確かに情報通りなのだが、なんというか、近くで見ると思った以上にがっしりとした体型にみえた。
身長も、暴力要員として金で釣った生徒たちと比べて遜色ない感じだった。
あれ、なんか思ってたのとなんか違う…?
「…呼び出したの、あんた?」
そんな疑問を抱いていると、目の前にはターゲットの生徒が己を見下ろしていた。
自分と同じくらいのサイズ感を想像していたリーダー格である生徒は、想定よりも上からの威圧に一瞬戸惑う。が。
「そ、そうだっ!」
「おれに、なんの用?」
とりあえず想定のセリフを口にしたため、いつも通り、物事を分からせてやろうといつもの言葉を口にする。
「っお、お前が瑞浪様の御心を乱すようなことをするから、身の程を教えてあげようと思って、ね…」
そう、口にした途端。
ひぃ、とでかかった悲鳴を、根性でかみ殺す。が、耐えられたのは、そこまでだった。
「…なるほど、あれの仲間か…ちょうどよかった。」
そういって、生徒は口元を歪める。
「食い物の恨みって、何よりも恐ろしいってこと、」
――お前ら全員に教えてやるな?
そうしてそこは、地獄となった。