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昼休み1


早いもので、もう昼休み。

「…行きたくねえ…」

この期に及んで希一きいちはそんなことをのたまい、唯一の友人である羽水うすいを呆れさせていた。

「さっさと行かねえと、機嫌悪くなるんじゃねえの、弟くん」

「それはそうなんだけど…」

「お前みたいな強面がそんなビビるとか、弟くんどんだけいかついのよ?」

食堂に行く道すがら気になった羽水が尋ねると、希一は強面をしかめて答える。

「…見た目だけなら、虫も殺せないような外見。」

「…え」

「ぱっと見は超人畜無害な草食系っていうかむしろいじめられっ子感」

それに釣られて手を出して、痛い目見た奴は数えきれないぞ。

「…とんだ地雷だな弟くん。」

「噂で流れるあいつの所業に対して見た目がそれだから、噂を嘘だと思って舐めてかかる奴も多いしな。俺と一緒にいる時だと、みんな俺がやったと勘違いするし。」

「…お前強面だもんな、見た目は」

「おかげで逃げ足は速くなったぞ。」

希一の足は、陸上部がビビりながらもスカウトに来たほどである。

「そこで喧嘩が強くならないところがお前らしいな」

そう茶化すと、

「あの兄弟に、暴力ってこういうもんだって目の前で実践されると、俺には無理だって悟るさそりゃ」

暴力で相手に言うことを聞かせたかったら、徹底的に身の程を思い知らせる必要があるんだよ。

なんて、悟り顔で語る冬慈とうじの兄、夏市なついちの仏フェイスが希一の脳裏をよぎる。

夏市曰く、徹底的に心をへし折っておけば、己の周囲含めて手を出してくることは二度とないのだと。

夏市は、近所の年寄りに拝まれるほどのふくよかな仏フェイスであるが、中身は阿修羅も真っ青な戦闘民族である。

「もちろん、理不尽に暴力ふるうことはしねえけど、あいつらは敵対者に対して徹底的になれるんだよ。」

そして、希一には無理だった。

だから、逃げを選択したのだ。


「…いちごちゃん、おそい。」

食堂にたどり着くと、既に待ち合わせ相手は到着していた。

伸びた前髪の下から、不機嫌そうな表情が覗く。

「…お前、せめて久しぶりくらい言えよ…」

「久しぶりいちごちゃん。おそい」

「…いや、いいや。久しぶり、遅れて悪かった。」

さんざん会うのを嫌がっていた割には、希一と相手の間にあるのは気安い雰囲気で、いきなり殴るくらいはしてくると覚悟していた羽水は少し拍子抜けした。

というか。

「…メールの文面でも気になってたんだけど、“いちごちゃん”てなに」

つい割って入ると、表情の読めない顔がこちらを向く。

「…だれ?」

一見、ひょろっとしたもやしのような出で立ちからは想像つかないほどの、鋭い視線が前髪から覗く。

「…っ」

「俺のダチを威嚇すんな!」

すかさず希一が間に入る。

「…ダチ?」

「おう、羽水開斗うすいかいと。特技は料理だ、敬っとけ。」

そんな雑な紹介にも関わらず、彼は雰囲気を緩めた。

「へえ、いちごちゃんに友達かあ。よかったね。よろしく先輩。」

「…お、おう」

「おれ、佐久間冬慈さくまとうじ。いちごちゃんの幼馴染ね。いちごちゃんて呼ぶ理由は、名前がキイチゴみたいだったのと、髪の色がイチゴみたいでおいしそうだったから。」

冬慈の言うように、希一の髪の色はイチゴのような赤だ。

染めているわけではなく、地毛である。曾祖父がアメリカ人だったと聞く。

おかげで幼少期からいじめにいじめられ、そのたびに佐久間兄弟に助けられ、ついでにトラウマも植え付けられてきた。

希一がこの学校を選んだ理由は全寮制であることの他に、頭髪規定がなかったことも大きい。

結構派手な髪色も、ここではカラフルな人間のほうが多いため、目立たずに済んでいるのだ。

まあ、赤髪に強面なおかげで、きっちり不良に思われているのだが。

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