表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/16

担任と困り眉


佐久間冬慈さくまとうじを初めて見た担任は、ものの見事に困惑した。


「…ええと、佐久間冬慈君?」

「はい、今日からお世話になります。」

姿勢よく、礼儀正しい。のだが。

「…その前髪、何とかならないのか?」

たまに前職はホストですかと聞かれる自分がいうのもなんだが、彼の髪型は少し問題があった。

「だめです?」

「いや、特に髪型について規定はねえんだけど、その髪型だといらん難癖付けてくる奴もいるから。顔を隠したい理由があるなら余計なお世話かもしれんが…」

ぴしっと伸びた背筋に反して、世間から顔を隠すように伸ばされた前髪。目元は辛うじて伺えるが、美意識過剰なこの学園の生徒たちにとっては、攻撃対象になりそうであった。

「坂田先生、意外にやさしい」

彼は少し笑ったようだった。

「意外は余計だ、これでも教師だぞ。」

坂田保さかたたもつは、どこからどう見てもちゃらんぽらんで遊び人なファッションセンスなだけで、ごくごく真面目な教師であった。

「一応、家族からは顔を隠したほうがいいって言われたんすけど」

彼は、顔を隠すようにしている理由について、そう述べた。

「どうしてまた」

「おれ、“いじめたくなる顔”らしくて」

そういって彼は長ったらしい前髪を、思いのほか男らしい仕草でかきあげた。

「…おお、なるほど」

そこにあったのは、見事なまでの困り眉であった。

この上なくハの字になった眉毛と、水分量が多いのか、なんとなく湿ってみえる目。サイズが大きいのかダボついた制服から見える肌は白く、どこか華奢で、なんというか、とても幸薄そうであった。

「どうです?」

困り眉が聞いてくる。

「…前髪あったほうがましかな」

「でしょ?」

そういって前髪を下すと、前髪が長いだけの普通の生徒にみえた。

眉が出てるか否かで、ずいぶんと印象が違う。

「ご家族の心配はよくわかった。」

坂田の中では、目の前の男子生徒が『いぢめる?』と小首を傾げる某シマリスにしか見えなくなっていた。

「俺のほうからもクラスには注意を促しとくから、まあそんな気負うなよ。」

「っす、ありがとうございます。」

安心したような返事に満足しながら、しかし坂田は一点大事なことに気づいていなかった。


――――このあと、クラスで転入生を紹介した際、


「いじめんなよ」


と発した己の言葉によって、己のファンの嫉妬が彼に向かうなど、坂田は微塵も気づかなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ