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放課後4

いちごちゃんが真面目過ぎて、どうしてもシリアス成分がにじみ出る…

冬慈とうじから『殴られた』との連絡を受けた希一きいちは、真っ青になりながら保健室へと駆け付けた。


「とーじ…!!!!」

「あれ、今度は早かったねいちごちゃん」

そこには、左頬にガーゼを貼られた冬慈と、希一と似たような体格の生徒が何やら片づけをしている。

しかし希一はそれどころではなく、必死の形相で冬慈の腕を掴む。

「おま、大丈夫かっ?!!また正当防衛主張すんのに殴らせたんだろうけどまさか相手を病院送りにしてないだろうなっ?!!!」

「だいじょぶ、っていうかみんなおれが風紀委員長に絡まれてる間に逃げた」

「なんでお前が風紀に絡まれんだよ!!?」

「兄ちゃんのダチだった」

「まさかの!?!」

「徳用大根」

「お前にめっちゃ粘着してるって言ってた奴じゃん?!!」

「え、ちょ、まってまってまって」


聞き捨てならない言葉がいろいろ聞こえて、冬慈の手当て後の片づけをしていた木林が慌てて割り込む。

はた、と我に返った希一だが、その見知らぬ人物に首をかしげる。

「ええと、どちら様で…」

「あ、すみません風紀で佐久間と同じクラスの木林高徳きばやしごうとくといいます。」

「あ、俺はこいつの幼馴染で、天野希一です。」

よろしくと頭を下げあう希一と木林。冬慈の幼馴染として苦労してきた人間と、クラスメイトとしてこれから苦労していく人間の邂逅である。


「制裁の一報を受けて駆け付けたら、殴られた彼がいまして。とりあえず今簡単に手当てをしたところです。」

「…ああ、こいつが殴られたのは間違いなくわざとなんで気にしなくていいですよ」

「だって、明確な暴行跡がないと正当防衛主張しても信じてもらえないでしょ?」

と、冬慈からも肯定する言葉が出る。

だから、大丈夫だとわかっていても、安堵の溜息は漏れる。

殴られた冬慈は、いちいち希一のトラウマを刺激するのだ。

「…とりあえず、返り討ちにしているとはいえ、親衛隊から制裁としての暴行を振るわれたことは事実なので、彼らはしばらく謹慎の処分となっています。ついでにうちの委員長も謹慎です。」

ふたりの言葉に顔を引きつらせながら、木林は加害者たちの処分について言及する。

「え、どうして委員長まで?」

「ケガしている佐久間を見て、何の躊躇いもなく殴りかかりまして。」

「…え。」

「その現場を目撃した生徒会長がとにかくおかんむりで。」

「……」

それを聞いた希一は、なんとも言えない表情で冬慈を見やる。

ケガの治療跡も痛々しく見える、見事な困り眉。体格のよい木林と並ぶと貧相にすら見える細いシルエット。

そして、噂に聞く、生徒会長の人柄。

なんとなく、状況は察した。



「…あー、冬慈?」

希一がいじめられることがなくなった今、冬慈が振るうのは冬慈のための暴力である。

だからつい、聞いてしまう。

「…ええっと、殴らない、っていう選択肢は、ないか…?」

「殴るっていう選択肢を選んだのは、おれなの?」

「…いや、まあ、そうなんだけど」

大体において、冬慈はやられたことをほぼそのままやり返しているに過ぎない。3倍返しが常ではあるが。

だから暴力には暴力で返すし、雑言には雑言を返す。

逆に言えば、今まで冬慈が振るった暴力の数だけ、希一が暴力に曝されていたということであるが。

そして、暴力の恐怖と恩恵を受けた身であるからこそ、希一はそれを否定できない。


「いちごちゃん。」

冬慈が真っ直ぐみつめる。

「これはちゃんと“おれ”が売られた喧嘩だよ。いちごちゃんじゃない。」

「…いや、うん。そう、だよな」

今までは、希一がやられていた分を冬慈や夏市が返していたからついごちゃ混ぜになるが、今回は確かに冬慈本人に売られた喧嘩で、冬慈本人が買っただけだ。確かに希一が口を挟むことではない。

「親衛隊は痕が残らないように痛めつけたし、心もへし折ったからこれ以上もない。」

「…そうか」

確かに、殆どの人間は冬慈や夏市の暴力の前に、一度で理解させられる。関わってはいけない種類の人間が存在することを。

「徳用大根は兄ちゃんの友達だからもうどうしようもない。あれはそういうイキモノ。」

「…そうだな」

風紀委員長は、すでにそういうイキモノだと思われているらしい。まあ、夏市くんの友人やってるくらいだしな…と納得する。

そして多分、そういうイキモノだとしても、きっと冬慈の方が強い。希一が心配する要素などない。


知っている。理解かっている。

こいつの強さは、この上ないほどに。

だけど。


「だからさ、いちごちゃん、」

冬慈の、なんの濁りもない、何をも躊躇わない眼差し。


「もう、いちごちゃんが気にすることなんてないんだよ?」


断絶のような。解放のような。

冬慈の言葉に頷けないのは、何故なのだろう。


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