放課後2
生徒が親衛隊に囲まれているとの通報を受け、たまたま現場近くにいた風紀委員会の委員長である徳丸大吾は、部下を一人連れて現場に急行していた。
「いいねえいいねえ、やっぱり男は拳で語り合わねえとなあ!!」
な、そう思うだろ!と話を振られた部下、木林高徳は正しくドン引きしていた。
三度の飯より喧嘩好き、とまで言われる風紀委員会の長は戦闘狂であり、暴力沙汰があると喜んで出動し、その場の全員をぼこぼこにする、そんな戦闘狂である。
あまりにも誰彼構わずぼこぼこにしすぎて、今では皆あまり暴力沙汰を起こさないようになったくらいである。
風紀委員長がこんな奴である所為で、委員会メンバーも戦闘狂な奴が多く、そんな委員長を止める奴はほとんどいない。
数少ない普通なメンバー、木林は一般的な倫理観を持つが故に日々他のメンバーにドン引きしており、けれど自分が辞めると戦闘狂しかいなくなると思いなんとか踏みとどまっている、優しさと不憫さの塊のような男であった。定期的に他のメンバーに対し、「箪笥の角に小指ぶつけて悶絶しろ」と呪いをかける程度には鬱憤がたまってはいるが。
「にしても、どこの馬鹿だ?俺様がいながら制裁をしようだなんて…」
現場に向けて走りながら、まっとうな疑問を呈す徳丸。
暴力に対しては暴力で返していいと考える戦闘狂であるため、暴力沙汰を起こせば徳丸が喜んでやってくるというのは学園の常識となっており、図らずも暴力抑制装置の役割を果たしている徳丸は、だからこそ首をかしげる。
「昨日瑞浪副会長が食堂で一般生徒に難癖付けてましたから、その関連かもですね…」
やはり走りながら、直近のトラブルを挙げる木林。
定期的に呪ってはいるが、風紀委員長が暴力抑制装置の役目を果たしていることに対しては、認めているので、やはり首をかしげてしまうが。
「風紀がついた頃には被害者側が逃げ出したあとなんで詳細は不明ですが、絡まれていたのは2年の天野希一の知り合いみたいです」
食べていた定食の食器を叩き落とされたあと、赤髪の強面ヤンキーが被害者を抱えて食堂を後にしたという証言があるので、おそらく間違いないだろう。
「天野って、あの見た目の割におとなしい奴か」
「はい。見た目の割に真面目と評判の」
入学してきたときは、あまりの見た目に風紀の要警戒リストに載った希一だが、速攻で中身の人畜無害さが伝わりリストから外れている。そんな経緯もあり、希一は無駄に風紀に名が知れていた。
「瑞浪も、なんでそんなんに絡んだんだか…接点なくね?」
「さあ?上流階級の方々の思考など下々の民にはわかりかねます」
木林も、よくわからない理由で絡まれたことがあるため瑞浪のことが嫌いである。あいつの四肢爆散しねえかなーと思う程度には、嫌いである。
「お前のその気に入らない人間に対する辛辣な態度好きだわー」
「そうですか、嬉しくないです」
なんてくだらない話をしている間に、現場と思しき場所にたどり着いた。のだが。
「…なんか、妙に静かじゃね?」
「…っすね」
大概、制裁現場に近づくと、暴行を加える側の煽る声やら、被害者の泣き声、殴打の音がするのだが。
とりあえず、よく制裁のスポットになっている校舎の裏を覗くと、そこには生徒がひとり、立っていた。
そして周囲には、声も出せずに蹲る生徒たち。
「あー、見覚えがあんのがいるな、やっぱ瑞浪の親衛隊か」
徳丸が、嬉しそうに喉で笑う。
そして一人立つ生徒の頬には、殴られた跡がある。
「あ、あいつ…」
立っている生徒に、木林は見覚えがあった。
「お、知り合いか?」
「あいつ、昨日付でうちのクラスに編入してきた奴です」
「編入したてでなんで瑞浪に絡まれたんだか…。ってか、蹲ってる奴ら、あいつがやったのか?」
生徒はこちらには気づいておらず、状況が読めない徳丸たちは、こっそり様子を確認する。
「状況としてはそうとしか思えませんが…」
木林が見る限り、自分より小さくひょろっとした奴が10人弱を一人でどうにかしたとは思えなかったが、戦闘狂である徳丸の見立ては違った。
「…へえ、結構鍛えてんじゃんあいつ。いい動きしそうっつうか、誰かを思い出すシルエットっつうか…」
なんて言いながら見ていると、男は、おもむろに前髪を掻き上げた。
「やっぱ前髪うっとうしい…」
掻き上げられた前髪の下から覗いたのは、見事な困り眉だった。




