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球場のボーイミーツガール

作者: 川里隼生

 開幕戦とは、蛇足のようなものだ。このような奇妙な思想を持ったのは、松井まつい辰岐たつきにとって、もちろん初めてのことだ。理由はわかっている。昨季、イーグルスが日本シリーズで優勝したからだ。


 今年も優勝できるという保証はどこにもない。むしろ、エースが去ったイーグルスが優勝する確率は極めて低いと、辰岐は読んでいる。ではなぜ彼は今年の開幕戦が開催される埼玉県のドーム球場に足を運んだのか。この理由はわからない。


 一塁側の内野指定席に座る。辰岐にとって外野席は、騒がしすぎて好きになれない。

「隣、いいですか?」

 いいも何も指定席だろうに。辰岐が声の聞こえた方を見ると、学校の制服の上に青いパーカーを着た少女が、一人で立っていた。


 珍しい、と辰岐は思った。辰岐はこれから高校三年生になるが、これまで野球場に行くような女子と出会ったことはない。そもそも、野球に興味を持つ友人が辰岐にはいなかった。教室はいつもドラマや音楽、それに内輪のゴシップで持ち切りだ。逆に辰岐はそれらへの興味が全く湧かない。


 隣に座った女子高生を、気づかれないように横目で観察する。ここは基本的には雨を気にする必要のないドーム球場なのだが、彼女は青いパーカーのフードを被ったままだ。どこか緊張しているように見える。辰岐は彼女に話しかけた。

「あの、もしかして、野球場初めてですか?」


「え?」

 少し驚いたようにして、彼女は振り向く。フードの中は黒髪で、童顔の美少女だった。

「あ、えーっと、野球場に来るのは初めてなのかな、って」

「あ、はい。初めてなんです。最近野球に興味を持って、それで誰にも内緒で野球場に来てみたんです」

 照れるように笑う彼女に、辰岐は思わず目を奪われた。


 試合が始まる。

「勝つといいですね。私、この変装用のパーカーをチームの色にしてるんですよ」

 少女がそう言うのを聞いて、辰岐は戸惑った。

「え? ライオンズカラー?」

「はい。野球場は一塁側がホームチーム側だと調べたので」

 少女は堂々と言った。


「あー。確かに基本そうだけど、ここはライオンズが三塁側だよ」

「えぇ⁉︎ 何でぇ⁉︎」

 彼女が心底驚いた顔を見せる。思わず、辰岐は笑みをこぼした。辰岐はいつも仕方なく一人で野球を見ているので、こうやって誰かと二人で観戦するのが新鮮で、楽しい。


 試合はイーグルスが一点差で勝利した。試合が終わってしまったことが、今日ほど残念だったことは辰岐の記憶にはない。昨季の日本シリーズなど、心臓に悪いから早く終わってくれ、と願っていたくらいだ。

「色々教えてくれてありがとうございました。そうだ、ライン交換しましょう! 私、きし晴南はるなっていいます。あなたは?」


「松井辰岐。仙台の高二だよ」

「あ、先輩なんですね! またドームで会いましょう! 今度は、私をデーゲームに連れてってください!」

 まるで愛の告白でもするかのような大声で、彼女は去っていった。


 プロ野球が開幕した。開幕してよかった。辰岐はそう思った。晴南とは、例え応援するチームが違っても、ゲームセットの瞬間から次のプレイボールまでの間は、野球好きな仲間だから。辰岐に初めて、野球が好きな友人ができた。

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