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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
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バトルアリーナⅤ

 びしぃ! とヴィルヘルムを指差して勇ましく告げるミーナに、アルベルトは気が遠くなりそうだった。


 ヴィルヘルムは「へぇ」と目を細める。まるで、面白いものを見るかのように。


 彼の興味は完全にアルベルトからは離れ、ミーナに向いている。アルベルトはその隙にヴィルヘルムから距離を取り、ミーナのもとへ向かった。


 このまま『隠密』を使って逃げてもいいが、この無鉄砲娘を放っておくわけにもいかない。アルベルトにも一応、良心はあるのだ。知り合いだし。


「何言ってんだよ、ミーナ。さっきの見ただろ? お前の『一閃突き』、効いてなかっただろ!?」

「アルベルトさんこそ何を言っているんですか。見たでしょう? 浅く刺さりは(・・・・・・)しましたよ」

「それが何だって言うんだ!?」


 それを言うならアルベルトの短刀だって、ヴィルヘルムの首をかすかに傷つけることは出来た。ほんのちょっとの切り傷。ここが現実の世界であっても、わずかに血が滲むか滲まないか程度の傷だ。


「この人の防御力は確かに驚異的です。【ドラゴンスレイヤー】……そんな職業もあったんですね。私も挑んでみようかなぁ」


 ミーナはブツブツと言う。アルベルトは口元を引きつらせた。ミーナなら本気でやりそうだと思ったからだ。


 単身でドラゴンに挑む姿が、容易に思い浮かぶ。


「防御力はすごいけれど、“鉄壁”ではないと思うんですよ。そうじゃなければ、きっと浅い傷さえつかないはずです」

「そ、そうか……?」


 それは確かにそうかもしれない。ダメージが0だったら、たぶんアバターに傷さえつかないだろう。


 だがたとえ0じゃなかったとしても、与えられるダメージはせいぜい1とか2とか、そんなものだと思う。


 もちろん1ダメージでもひたすら続けていれば、いつかはヴィルヘルムのHPを尽きさせることが出来るはずだ。


 しかしそれは途方もなく時間がかかる。


 ヴィルヘルムも黙って攻撃を受け続けてくれるわけがないし、うまくヒット&アウェイでダメージを蓄積させたところで、倒しきる前にプレイ時間が終了しそうだ。


「たとえ浅い傷でも、何度も同じところを攻撃していれば、深い傷になるはずです」

「へ……?」

「このゲームの仕様では、傷は深ければ深いほど大きなダメージになります」


 そのとおりだ。このゲームは、妙にリアル志向というか、本格さを求めすぎているようなところがある。


 現実世界で受けたら致命傷になるような傷だと大きくHPが削れるし、首を切ったりすると即死する。


 ちょっとした擦り傷程度だとダメージは少ない。が、同じ箇所を執拗に攻撃し続ければ……。


「……雨だれが石を穿つように、いずれは大きなダメージ(致命傷)になる?」

「そう! だと思います!」

「理屈は分からないでもないけど……それ絶対に脳筋の発想だと思う」


 ミーナは相変わらず『ガンガンいこうぜ』タイプのプレイヤーだった。


 効率を求め、楽に勝とうとするアルベルトとは正反対である。


「うるさいですよ。それから、あの人の次はあなたを倒しますからね!」

「なんでっ!?」

「バトロワ形式なんですから当たり前でしょう? ここにいる全員を倒して、私が優勝するんですよ!」


 アルベルトはもう、開いた口がふさがらない。これは説得を諦めるべきだろうか。ミーナはもう、何を言っても聞きやしない。


(ど、どうしよう?)


 ヴィルヘルムはこちらの出方を窺っている。顔には薄い笑みを浮かべて、いかにも余裕がある感じだ。




 ***




「『雨垂れ石を穿つ』か。なかなかいいことを言うなぁ、あの嬢ちゃん」


 岩山の陰からアルベルトたちの様子を窺うジャックは、感銘を受けたように言った。


「そんなの上手くいくわけねぇよ」と吐き捨てるのは、苦虫をかみ潰したような顔をするジェイドだ。


 いやに現実的なことを言うジェイドに、ジャックは片眉を持ち上げた。


「なんでそう言い切れるんだ?」

「4回目に戦ったときに、俺も同じ作戦を立てた」

「まさかの経験者」


 4回目ってことは、その前の3回はどんな風に挑んだのだろう。聞けば、堂々と真正面から突っ込んで返り討ちにされたそうだ。


 ジェイドが4回目でようやく思いついた作戦を、初回からすぐに考えついたあのミーナという女の子は、少なくともジェイドより頭が良いようだ。


「アイツはもともと防御力を優先的に上げていたらしくてな。【ドラゴンスレイヤー】のスキルでそれが底上げされて、めちゃくちゃ硬くなってんだよ」


 ヴィルヘルムは、攻撃力はそれほど高くはない。急所にさえ当たらなければ、一撃で殺されることはないだろう。


 その分、長い間ボコられるはめになるのだが。


「あの男、そんなに強いのか。確かに強そうなオーラはあるが」


 大きな体を小さく丸めて、ジャックの後ろに隠れながらバジルが言う。ちなみに完全には隠れていない。バジルの体はでかすぎる。


 ジャックは頷いた。


「バトルアリーナ最強は、間違いなくアイツだろうな」

「最強……。そうか、最強か……」


 さてさてその『最強』にどう挑むか、と思考を巡らせるジャックをよそに、バジルはブツブツと呟く。


「つまり、アイツを倒せば、オレが最強」

「ん?」


 ――なんだって?


 バジルが立ち上がる。岩山から出てしまうとかそういうことは、もはや考えずに。


 そして戦斧を思いっきり振りかぶり、――ヴィルヘルムへ向かって投擲した。




「……ん? どわああああああああああああっ!!?」

「ぶわっはっはっはっ!! 最強ーーーー!!」




 ヴィルヘルムはとっさに戦斧を避けたが、そこへ間髪入れず、バジルのラリアットが直撃した。ヴィルヘルムは背中から地面に倒れる。


「いや、プロレスかよ!?」


 ジェイドがツッコミを入れた。


「先越されたー!」


 まだ作戦は決まっていないが、こうなっては仕方がない。ジャックももう出ることにした。


「お、おいっ」

「悪いなジェイド。俺が無事に生き残れたら戦おうな!」

「おいいいいいいいっ!!」


 バジルの腕の力で引き倒されたヴィルヘルムにダメージはやっぱりなさそうだ。だがそれでも、隙は出来た。しかしバジルは武器を投げてしまったので、攻撃する手段がない。


「ちょっと、何なんですかあなた! 横殴りです! 割り込みです! 私が先に戦ってたのに!」

「ミーナ! いいから逃げよう! なんか面倒くさいのに巻き込まれそうな予感がする!」


 剣を振り回してギャーギャー騒ぐミーナをアルベルトは必死で抑え込む。


「オレの斧……! ……とりあえず殴るか」


 ミーナとアルベルトをまるっと無視したバジルは、拳を振り下ろした。ヴィルヘルムは身をひねってそれを避ける。バジルの顔面に肘鉄を食らわせた。


 バジルがひるんだ隙にヴィルヘルムは起き上がろうとする。そこに飛び込んできたのは、




「『居合い斬り』!!」




 ジャックの斬撃。


 ヴィルヘルムの顔には笑みが浮かんでいた。

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