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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
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バトルアリーナ

 バトルアリーナの会場は、近くで見ると余計に大きかった。


 壁沿いに整然と並ぶ石の柱。入口の左右を飾る、剣を構えた2体の戦士像。外にいても聞こえてくる、熱い歓声。


 そんな中で、



「あれ、ナナちゃん」



 ナナミは見事にフラグを回収していた。




 ***




《さてさて今宵も始まりましたバトルアリーナ!! 今回も腕自慢たちが集まっています!!》


 溢れる熱気に、負けじと響く声。実況席に座るスーツ姿の男によるものだ。


 男の隣には、オレンジ頭の子供の姿もある。


《実況はわたくし、シンと申します。解説は……ええ、分かってますよ……バトルのことに何故かやたらと詳しい、謎のショタじじいフォルトさんでーす!》


 オレンジ頭の少年の正体はこのオランジュの王、フォイーユモルトだった。

 どもども、と片手を振るフォルトをノゾムは思わず呆れた目で見る。


 途中で実況の人がモゴモゴ言っていたのは、また「王ということは秘密にしてくれ」と言われたからだろう。


《えー、試合に参加するのも、観戦するのも初めてだという方もいらっしゃるでしょうし、軽くルールについて触れていきますね。

 バトルアリーナでは現在、個人戦とチーム戦を交互に行っております。今回は個人戦です。

 個人戦は、最大8人で同時に戦うバトルロワイヤル形式です。今回はきっちり8人揃っていますね。たまに2〜3人しかいない寂しい試合もあるんですけど……。

 勝利条件はいたって簡単。最後まで生き残っている、それだけです》


 広々としたバトルフィールドには、ゴツゴツとした岩山が敷き詰められている。フィールドの上にポツポツと見える人影が参加者たちだろう。


 ノゾムたちが座っている席のすぐ近くにジャックの姿があった。少し離れたところにはジェイドの姿もある。


《魔法、武器、補助アイテム、なんでも使用できますが、唯一『蘇生』だけは不可能になっています》

《アイテムボックスが『身代わり人形』だらけじゃと、いつまでも試合が終わらんからのぅ》

《途中でプレイ時間が終了してしまい退場してしまった場合は敗北となります。事前に通達していましたとおり、選手の皆さん、プレイ時間は十分に残っていますよね?》

《うっかりしていた者よ、安心せい。プレイ時間がわずかならば、そのわずかな時間内に全員倒せば良いだけじゃ!》


 フォルトは相変わらず無茶を言う。このバトルアリーナに参加するのは強い奴らばかりだと、そうノゾムたちに告げたのはフォルトだろうに。


 ノゾムはバトルのことに詳しくないが、強い者同士の戦いがすぐに終わるとは思えない。


《さてさてそれでは――今宵の最強を決めましょう!!》




 実況の人の声と同時に鳴らされた銅鑼の音が合図となって、プレイヤーたちは一斉に動きを始めた。

 とはいえ、今はまだ岩山の陰に敵の姿は隠れている。

 誰もが周囲を警戒していて、動きは静かだ。


《しばらくは様子見の時間ですかね、フォルトさん》

《そうじゃのう。会敵するまでは暇じゃのう》

《いや「暇じゃのう」じゃなくて解説をしてくださいよ》


 フィールドについてとかさあ、と呆れた口調でツッコミを入れる実況の人。


 フォルトは「ホッホッホッ」と笑うばかりだ。


「フィールド……岩山かぁ。ユズくんは参加しなくて良かったね。弓はたぶん、不利になるよ」

「フッ、弓の可能性を甘く見てもらっちゃあ困るなシスカ。敵の位置さえ把握できれば、『曲射』でイケる」

「山なりに落ちてくる矢のこと? あれ、味方に当たりそうで怖いんだけど」

「俺が味方に当てたことがあったか?」

「ないけど。ボクのすぐ目の前のすっごくギリキリのところを矢が通ったことはあったよ」

「針の穴を通す射撃の腕。さすがは俺」

「自画自賛する前に謝れ」


 まったくもって当然のことを言うシスカに、ユズルは見向きもしない。ユズルの翡翠の目がまっすぐに見据えているのは、隣に座るノゾムの顔だ。


 キラキラ輝く瞳が何かを訴えていることは伝わってくるが、あいにくノゾムはエスパーではないので、何を訴えているのかは分からない。


 とりあえずシスカには謝っておいたほうが良いと思う。


「ここで再会するとは思わなかった、同志ノゾムよ。弓の腕は上がったか? コンポジットボウは手に馴染んだか? 弦の張りはどうだ? 曲射は練習しているか?」

「え、あの、その」

「猟犬まで連れているとは、ますます狩人道(かりゅうどう)に磨きをかけているじゃないか」

「猟犬? いや、ロウは犬じゃなくて狼……狩人道って何ですか!?」


 ユズルは相変わらず変な人だった。


 初対面となるラルドは、面食らった様子で「これが弓バカ……」と呟いている。失礼だが、否定は出来ない。



《おおっと! さっそく会敵するようですよフォルトさん!》



 実況の人の言葉にハッとして、フィールドへと視線を戻す。


《動いたのは――ジェイド選手! 今回が11回目の参加です。『レッドリンクス』というギルドに所属する戦士。武器を使った戦い方よりも、徒手空拳を得意とする選手です。

 ジェイド選手が向かう先には――おや、ジャック選手ですね。ジェイド選手と同じギルドに所属しています。前回のチーム戦では、惜しいところまで残りました》


 ノゾムたちがロウたちの寝床を作るのに夢中になっている間に、どうやらジャックたちはひと試合終えていたらしい。

 惜しいところまでは残ったが、結局負けてしまったそうだ。


《ふむ。それでは共闘となるやもしれんな》


 バトルロワイヤル――つまり、自分以外が全て敵という状態で戦うよりも、見知った誰かと協力して敵の数を減らし、その後に1対1で決着をつけるほうが楽なのだ。共闘は珍しいことではない。


 そう説明するフォルトに、ノゾムはなるほどと頷いた。ジャックとジェイドは、一緒に大会に参加するくらい仲が良いみたいだし、共闘の可能性は大いにあるだろう。



「共闘、ねぇ……」



 シスカが目を細める。

 何やら含みを持たせた呟きに、ノゾムは目を瞬いた。


「それが出来るなら、チーム戦はもうちょっと戦えたよねぇ」

「うむ。ジャックはともかく、ジェイドに共闘は無理だな」

「え」


 それはいったいどういう意味かと問おうとした瞬間、会場中がざわりとした。



《おおーーっと! これはーーーー!?》



 何事かと視線をフィールドに戻せば、なんと共闘するのではないかと言われていたジェイドが、ジャックに、攻撃を仕掛けているところだった。


 ジェイドの飛び蹴りをまともに食らったジャックが吹っ飛ぶ。ぶつかった岩山が派手な音を立てて崩れた。

 ジャックが死んでいないか心配になったが、起き上がったジャックはピンピンしていた。


「び……っくりしたなぁオイ! 不意打ちとは卑怯なんじゃねぇのか、ジェイド!」

「はっ、戦いに卑怯もクソもあるか。こんな機会は滅多にねぇ。今日こそハッキリさせようぜ! どっちが強いかってな!!」


 再び飛びかかるジェイド。ジャックは鞘に納まったままの刀でそれを防ぐ。「共闘? 何それ美味しいの?」と言わんばかりの状況だ。

 シスカとユズルが「やっぱり」と呟いた。


《ほっほー! 彼奴らは仲間であると同時に、好敵手(ライバル)であるというわけか! これは良いのう! 滾るのう!》

《落ち着いてくださいフォルトさん。身を乗り出さないでください》


 興奮するフォルトを実況の人が宥めている。ノゾムがいるところからフォルトの顔は見えないが、すごくキラキラした顔をしているだろうことは想像できた。


 ジェイドの攻撃は止まらない。ジャックは仕方なさそうに刀を抜いた。仲間同士なのに、まさか一番最初に戦うことになるなんて。


《じゃがのぅ、周囲には他にも敵がおることを、忘れてはならぬぞ》


 その言葉を合図にしたかのように、唐突に、前触れなく、戦う2人のすぐ後ろに大きな人影が現れる。


 今まさに振り下ろさんとされる巨大な戦斧。それを握る、獣の骨を模したマスクを被った、巨体の男。


「バジル!?」

「よお、クソ猫ども…………死ねやああああああああああッ!!!」

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