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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
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橙の首都ノワゼットⅡ

 次の日の朝、昨夜急ピッチで作ったロウたちの部屋に行くと、3匹はそこで思い思いにくつろいでいた。とりあえずは行方不明にはなっていないし、誰かに襲われた形跡もない。


 ノゾムたちは心底ホッとした。


「倉庫目的で買った家だけど、こうしてちゃんと使うなら、家具とかもいろいろ揃えたくなるよな」

「そうだね。でも、まずはローンを返さなきゃ」


 ローンの返済に期限は設けられていない。お金があるときに返してくれればいい、というのがこのゲームの不動産屋のスタンスだ。


 プレイヤーが毎日ログインするとは限らないし、中にはリアルの仕事や学業を優先しているため、週末にしか遊べない人もいるだろう。そういう人たちに期限を設けてしまうと、要らない負担を与えてしまうかもしれない。そんなものはゲームの世界にはいらない、ということらしい。


 返すのはいつでもいい……そのため、いつまで経っても返さずに踏み倒す人も、やっぱりいるようだけれど。


「ローンを返し終えると、増築が出来るようになるんだってよ」

「増築?」

「部屋数を増やしたり、二階建てにしたり、地下室を作ったり……まあ、増築をするたびにローンはタヌキ式に増えていくんだけどな」

(……タヌキ式?)


 ラルドの言っていることは、相変わらずよく分からない。とりあえず今のところ部屋は十分に足りているし、やはりその前にローンを完済することが大事なのではとノゾムは思った。


「返済しようにも、ドロップ率が低すぎて金がなかなか手に入らないもんなぁ。ノゾムが『解体』を覚えてくれたら、お金も素材もがっぽり手に入るんだけど」

「サードスキルは、なかなか覚えないからね……」


 ノゾムはステータスを開いた。そこには攻撃力や防御力といった数値の他に、手にした職業の熟練度が表示されている。


 熟練度はその職業のスキルを使った時に少しずつ上昇するようになっており、現在就いている職業が一番上がりやすい。ノゾムの場合は【狩人】だ。


「もうちょっとで覚えると思うんだけど……ラルドは? 【戦士】のサードスキルは覚えた?」

「いや、まだだ。オレ今の職業は【魔道士】になってんだよ。魔法の攻撃力を上げたくてさ〜」

「……あんた、そんなことしていると、すごく中途半端に育っちゃうわよ」


 ナナミが呆れた顔で口を挟んだ。

 ラルドはムッと唇を尖らせる。


「んなこた分かってんだよ。でも! 剣も、魔法も! カッコイイんだよ!!」

「……あんたって……」


 ナナミはため息を吐いた。

 ラルドが『カッコイイ』を優先するのは今に始まったことじゃない。大剣を使っているのも、カッコイイからだし。




 転送陣を使ってノワゼットに戻る。

 空には星が散らばって、辺りは暗いけど、街の中には灯りが多くてそこそこ明るい。夜になったのは昨日の夕食時(日本時間)だったので、次に昼夜が入れ替わるのはお昼頃(日本時間)だ。


 この世界の朝焼けと夕焼けはとても綺麗なので、夜が明けるのが楽しみである。


「しっかし、本当にでっかい街だよなぁ。カピュシーヌやペーシュの5倍はあんじゃねぇの?」

「そりゃあ首都だもの。小さいわけがないでしょ。ここもカルディナルみたいに区分されているみたいよ。ギルド街、バトル街、食堂街、港……。道場やバトルアリーナがあるのは、もちろんバトル街ね」


 バトルアリーナは巨大なドーム型の建物だ。あまりに巨大なため、街のどこからでも見ることが出来る。あと周囲が電飾で光りまくっているため、とにかく目立つ。


 港は2か所あって、ジョーヌへ向かうため大河を渡るものと、ヴェールやブルーといった他の国へ向かうため海を渡るためのものに分かれている。

 ノゾムたちが向かっているのはジョーヌなので、使うのは大河のほうだ。


「どうする? このままノワゼットを通り過ぎて、ジョーヌに向かう?」


 私はどうでもいいけど、とナナミは男子2人に問いかける。

 ラルドが見るからにソワソワし始めた。


「そんなに急ぐ旅でもねぇしよ……ちょっとだけ、ちょーっとだけ、バトルアリーナを見学していかねぇ?」

「見学だけでいいの? 本音は参加したいんじゃないの?」

「自分がまだそのレベルに達してねぇことくらい、分かってるさ」


 何しろオランジュの王、フォイーユモルトいわく、参加者はレベルがカンストしていて当たり前、入手困難なスキルも当然のように身に着けているらしい。


 今、参加したところで、負けてしまうのは目に見えている。


「自分が納得できるくらい強くなったら参加する。今回は見学でいい。人が戦ってるのを見るのも勉強になるからな」

「ふうん……あんた、勝てそうにない相手にも喜んで向かっていくタイプじゃなかったのね」

「いやまあ、自分と相手の実力を試すために向かって行きたい時もあるけどさ。……意味もなく突っ込んで行くほど、バカじゃねぇよ?」


 そうなのだろうか? ノゾムは喜々としてモンスターの群れに飛び込んでいくラルドの姿を思い浮かべた。明らかに強そうな相手にも向かっていた気がするが……アレは意味もなくやっていたのではなかったのだろうか。


 ナナミは難しい顔をして、口元に手を当てる。


「ジャックは、そのバカなのよね」

「マジかよ」


 ラルドは顔を引きつらせる。“バトルバカ”のレベルは、どうやらジャックのほうが上だったようだ。


「なあノゾム、いいだろ? 見学して行こうぜ」

「うん、いいよ」

「ダメならオレ1人で………………えっ? いいの!?」


 素っ頓狂な声を上げるラルドにノゾムは「うん」と頷く。

 また「嫌だ」と言われることを覚悟していたラルドは、ぽかんと口を開けた。


「見るのも勉強になるんだろ? 俺もバトルの勉強がしたいんだ。……もう、ロウを死なせたくないしさ」


 ロウはノゾムの腕の中で小さな尻尾を振っている。

 ラルドはノゾムとロウを交互に見て、眉尻を下げた。


「……そっか。それじゃあさっそく、バトルアリーナにGO!!」

「おー!」

「シスカに遭遇しませんように!!」

「ナナミ、それフラグ立ててねぇ?」

「うるさいわ!」

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