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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
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さよなら鉱山、おかえり狼

 町に戻ってきたノゾムたちを出迎えたのは、教会の前で別れた男たちだった。

 男たちはノゾムたちが無事であることにまず驚き、ちらりと空を見上げたあと、再びノゾムたちを見た。


「さっき、『死に戻り』の光がどこかへ飛んでいくのを見た。お前さんたちじゃないとすると……」

「もちろん、アルベルトだぜ!」


 戸惑いがちに話しかけてきた男に、ラルドが親指を立てて答える。

 男たちは「おおおおっ!」と歓声を上げた。


「マジかよ! やったのかよ! すっげぇなお前ら!」

「君たちも絶対にやられると思ってたよ……」

「オレ、他の連中にも伝えてくる!」

「採掘再開じゃああああああああああっ!!!」


 一気に活気づき始めた男たちにノゾムたちは面食らった。そんなに採掘がしたかったのか……石を掘るのって、そんなに楽しいのかなぁ?


「ありがとな、お前たち!」

「あのアルベルトを倒すなんて!」

「お礼になるか分かんねぇけど、以前採った鉱石、受け取ってくれ!」


 男たちは口々に礼を言って、ノゾムたちに石を渡してくる。何の石だろう? なんか重いんだけど。


 男たちはそのままツルハシを片手に鉱山へと入っていった。

 残ったのはノゾムたちと、フォルト、そして最初に声をかけてきた、彫りの深い顔立ちの、背の高い男だけだ。


 男は未だに目を見開いて固まっている。「目を開けたまま寝てんのかな?」とおかしなことを言い出したラルドが、男の顔の前で手を振った。


 ハッと我に返った男は、慌てた様子で言った。


「すまない。ちょっとびっくりして……。あのアルベルトを倒すなんてなぁ」

「それ、さっき別の奴にも言われたぞ」

「そりゃそうだろう。アイツにいったい何人やられたと思う? 運営に対処してもらう以外に、もう鉱山を解放する方法はないと思っていた」

「……運営ねぇ」


 ラルドはちらりとフォルトを見る。ノゾムもフォルトを見た。


 フォルトはニコニコ笑っているだけで、自分が運営の人間であると明かす気はないようだった。


「お前さんたちも死に戻ってくるんだろうと思っていた。すごいなぁ、強いんだなぁ」


 心底感心したように言う男に、ノゾムはちょっとだけ眉を寄せる。ノゾムが強かったなら、ロウはこんなことにはならなかった。

 自然と、タマゴを抱える腕に力がこもる。


 ラルドは「いやいや何のそんな」と謙遜しつつも、まんざらではなさそうだ。

 ナナミはそんなラルドを呆れた目で見ている。


「正直、羨ましいよ。俺には戦闘の才能が全然なかったからなぁ。まあ、戦闘が出来なくても楽しめるゲームではあるけど。鉱山を解放してくれてありがとう。これで知り合いに頼まれていた鉱石を送ることが出来るよ」


 男はカルディナルにいる知り合いから鉱石の採取を頼まれて、カピュシーヌに来たのだそうだ。


 ちなみにその知り合いというのは、


「盗賊、釣り人、鍛冶職人、大工、と転々としている奴なんだけど、どうやら最近、商人になったらしくてさ。売り物を作るために素材が大量にいるんだと」

「へぇ〜、商人」


 商人と聞いて思い出すのは、カルディナルの職人街で会った『K.K.』という女性だ。

 ノゾムの弓は、彼女から貰ったものである。


「お前さんたちも、カルディナルの職人街に行くことがあったら訪ねてみるといい。変に偉そうな奴なんだけど、やたらと物知りな奴だから」

「……」

「名前は『K.K.』っていうんだけど」


 まさかの知り合いだった。


 K.K.の作品のほとんどは、この男の採取した素材によって作られているらしい。

 それはノゾムのコンポジットボウも、言わずもがなである。


「どうもありがとうございました!!」


 ノゾムは深々と頭を下げた。まったく意図しないことではあったが、タダで貰った弓のお礼が出来たようだ。



 体力の回復と、消費したアイテムを補充するために、ノゾムたちはカピュシーヌに少し滞在することにする。

 幸いにもSLが到着し、また出発するまでには時間があるようだった。


 ここへ来た時は、上着に包まれたタマゴを抱えていたのはラルドだったけど、今はノゾムがその状態だ。


 炎を使えるらしいカイザー・フェニッチャモスケが、タマゴに寄り添って、温めるのを手伝ってくれている。


「ありがとう、カイザー…………チャモスケ」

「ピィ!」

「『チャモスケ』にも返事すんの!?」


 ラルドが思わずといった様子で声を上げる。

 カイザー・フェニッチャモスケは、またしても「ピィ!」と鳴いた。


「それが名前だって把握しているかも怪しい」とナナミが言っていたけど、本当にそうなのかもしれない。何しろカイザー・フェニッチャモスケは生まれたばかりの赤ん坊なのだ。


 それでも『タマゴは温めれば孵る』ということは本能的に理解しているらしく、こうしてタマゴに寄り添ってくれている。


 ……いや、この子はゲームの中の生き物だ。本能などなく、ただプログラムされた行動を取っているに過ぎないのかもしれない。


 それでも撫でれば嬉しそうに鳴いて、羽毛がとても柔らかくて、何より温かいから、本物の生き物のように感じられる。


 ノゾムはカイザー・フェニッチャモスケを撫でて、涙がこぼれそうになった。


「わしは先に首都へ帰らねばならん」


 フォルトが残念そうにそう言った。


「こう見えても忙しい身でのぅ」

「王様だもんな」

「ていうか、なんで王様がPK退治に来てるのよ? 普通は部下に任せない?」

「まあ、それは……ほっほっほっ」


 誤魔化すように笑うフォルトを見て、ノゾムは察した。

 この人は自分が戦いたかっただけなのだ、と。


「ところでノゾム少年よ。わしに聞きたいことはないのかの?」

「聞きたいこと、ですか?」


 唐突な質問にノゾムはぱちくりと目を瞬く。


 はて、何かあっただろうか?


 タマゴのことは聞いた。

 SLに乗れば、首都ノワゼットまですぐだということも聞いた。


 ノワゼットまで行けば、ノゾムの目的地である図書館のある国、『ジョーヌ』までは目と鼻の先であるらしい。


 ジョーヌの王様は女の人で、とても綺麗な人だが、性格には難があるとかなんとか……。この世界の王様にまともな人はいないのか?


「他に……他には……ええと……何かありましたっけ?」

「例えばほら、家族のこととか、父親のこととか」

「父親……?」

「むむぅ? お主、コウイチの(せがれ)ではないのか? たまたま名前が同じなだけか?」


 そこまで言われて、ようやくノゾムは合点がいった。


 フォルトは、ノゾムの父親のことを知っていたのだろう。


 ノゾムの父親のことはルージュの王様も知っていたので、オランジュの王であるフォルトが知っていても不思議なことではない。


 ノゾムはにっこり笑って答えた。


「親父のことはもう、どうでもいいので」

「そ、そうなのか?」

「はい。まあ、会えたら10発くらいはぶん殴ってやろうと思ってますけど。こっちから探そうって気はないです。用があるなら向こうが探せばいい」

「……そうなのか……」


 フォルトは何とも言えない表情を浮かべる。どうしたんだろう? ノゾムは気になったが、フォルトは転送陣を使ってさっさと首都に帰ってしまった。


 誰もいなくなった空間を見て首をかしげるノゾムを見て、ラルドが言った。


「もしかして、あのショタじじいがノゾムの父ちゃんだったりして」

「え?」

「だって、ノゾムの父ちゃんって運営の人間なんだろ? あのショタもそうだ。息子に拒否られたから、凹んでたんじゃないのかな〜」


 そうなのだろうか。

 そうなのかもしれない。


 フォルトの性格も口調も、ノゾムの父親とは全然違ったけど、それはそういうふうに演じていただけという可能性もある。


 ノゾムはちょっとだけ考えて、真面目な顔をラルドに向けた。


「それじゃあ、殴っておけば良かったかな?」

「……そこはちゃんと、確認してからにしろよ。ノゾムも意外と過激だなぁ」


 しみじみと言うラルドを、何故かナナミが睨みつける。ほかに過激な人がいたんだろうか。ノゾムはさらに首をかしげた。


 その時、タマゴが突然発光し始めた。カイザー・フェニッチャモスケが翼を激しく振り、甲高い声で鳴き始める。


「こ、これって……!?」

「おお、タマゴが孵るぞ!」

「もう!?」


 早くない? 確かに『生まれ直しの場合は時間がかからない』と言っていたけど、それでもロウがタマゴになってまだ1時間も経っていない。


 タマゴは点滅を繰り返す。分厚い殻にヒビが入って、中から出てこようとしている。


 生まれてこようとしている。


「が、がんばれ」


 ノゾムは思わず、そう声をかけた。

 声をかけずにはいられなかった。


 その声に応えるように、ヒビがどんどん大きくなっていく。

 中から赤い毛が見えてきた。


「がんばれ、ロウ!」


 ぱきり、ぱきりと割れた殻の合間から、うんっと頭を押し出して、姿を見せたのはまるで子犬みたいな小さな狼だ。


 生まれたばかりだと言うのに、もう目が見えているらしい。キラキラ輝く瞳でノゾムを見つめて、小さな尻尾をぶんぶん振っている。


「あん!」


 鳴き声は、やっぱり犬みたいだ。

 お前は狼だろ……だからアルベルトにも、犬に間違われるんだぞ。


 ノゾムはちょっとだけ呆れつつも、それ以上に、胸がいっぱいだった。


「ロウ……」


 ゆっくりと、手を伸ばす。

 ロウはその手にすり寄ってくる。

 尻尾を振って、ノゾムのことが大好きなのだと、全身で訴えかけてくる。


 この行動は、ただのプログラム?

 この子は、ただのデータの塊?


 そうかもしれない。でも、そんなことはもう、どうでもいい。


 エカルラート山でコーイチ少年が言っていたことの意味が、今ならよく解る。



『モンスターを、友達だと思うプレイヤーは確かにいるんだよ』



 ノゾムも、もうロウのことを、ただのモンスターだとは思えない。


「……ごめんね、ロウ。俺が『守って』なんて言ったから、あんな無茶をしたんだよね? ごめんね……助けてくれて、ありがとね」


 ロウはきょとんとした目でノゾムを見上げる。ノゾムはそんなロウの小さな体を、優しく抱き上げた。


「今度は、俺が守るから」

「……くぅん?」


 決意を込めて告げるノゾムに、ロウは首をかしげる。

 何のこと? と言わんばかりだ。


 ノゾムはお構いなしに、そんなロウを抱きしめた。

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