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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第1章 はじまりの国ルージュ
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ダンジョンへ行こう!

 釣り糸がぐんっと引っ張られる。その瞬間、ぼんやりと水面を見ていたラルドは鋭く目を尖らせ、竿を引いた。


 力に任せるだけではダメだ。これは1対1の真剣勝負。慎重に糸を引き寄せ、十分に寄ったところで一気に釣り上げる!


「見事じゃ。これでお主も立派な釣り人じゃな」



《【釣り人】に転職できるようになりました》



 いつからいたのか、背後にいた白髪の爺さんの言葉のあとに、そんな文章が眼前に浮かぶ。


 魚を50匹以上釣り上げた時に、どこからともなく現れるその爺さんは一部のプレイヤーから『釣り仙人』と呼ばれていた。


 今のところ彼の役目は【釣り人】に転職可能になったことを伝えるのみだが、他にも何かしらのイベントで出てくるのでは、ともっぱらの噂である。



 転職は各村や街にある『役所』でおこなう。


 ゲーム開始時に選ぶことができる4つの職業にはいつでも転職が可能で、その他の職業は特定の条件を満たすことで転職可能になる。


 神殿や教会で『神の教え』を受けることで【僧侶】に。

 料理レシピを10種類以上見つけることで【料理人】に。

 訓練所のマスターから『正拳突き』を教えてもらうことで【空手家】に。


 職業が全部でいくつ用意されているのかは公表されておらず、転職条件を探すこともプレイヤーの楽しみのひとつになっている。


 そして転職することで得られるメリットが……。


「えっとー。【釣り人】のファーストスキルはー……『精神統一』、魔法攻撃力を一時的に上げるスキルか。【戦士】の『ブースト』の魔法版ってとこかね」


 釣りと関係ないじゃん、と思うが、どうやらこのスキルには魚をヒットさせやすくする効果もあるらしい。


 そう、この『スキルの習得』こそが転職の最大のメリット。


 スキルは各職業につき3つある。本当は3つ以上あるのかもしれないが、今のところ確認されているのはサードスキルまで。ファーストスキルは『その職業に1度でも転職すれば』習得可能だ。


「これを使えば、魔法も少しは役に立つかな」


 ラルドは初期職業の他の3つにもすでに一度転職している。しかし最初に【戦士】を選んだラルドはMPも少ないし、魔法攻撃力もめちゃくちゃ低い。熟練度が低いので【盗賊】の『盗みの心得』もまったく成功せず、まあまあ役に立ってるなと思うのは【狩人】の『視力補正』くらいなのである。


「いいよなー、魔法。ザ・ファンタジーって感じで。でも剣もカッコイイんだよな〜」


 剣と魔法、両方を使いこなす方法はないものか。


 ラルドは自分がそう(・・)なっている姿を思い浮かべて、にへへと頬を緩めた。


「ほら、早く来いよ!」

「ちょっと待ってよー!」


 ふと視界の端に、楽しそうに駆けていく一行が映る。まだ始めたばかりなのだろうか、珍しそうに村を見回す少年を、周りの人たちが引っ張っている。


「…………」


 ラルドはしばらく彼らを見つめ、やがて片手で顔半分を覆った。


「フッ、オレは孤高の戦士」


 呟いた内容には大した意味はない。


 当然、返ってくる言葉はなく、ラルドはそっと手を下ろした。


「……そういやノゾムのやつ、まだ訓練してるのかな。どうせまた飯も食わずにやってるんだろ。仕方のないやつだ」


 また焼き魚を持っていってやるかと、ラルドはここ最近毎日通っている道を歩いていく。


「オレは孤高の戦士……だが、面倒見は、悪くない」




 ***




 訓練所で弓の練習を始めて1週間。ノゾムはようやく矢を使った練習に移行していた。この1週間真面目に練習しただけあって、明後日の方角には飛ばなくなったけど、的に命中させられるかどうかは、話が別。


 的から2メートルくらいの距離ならばなんとか当たるけど、こんなに近いとせっかくの弓の持ち味である『長い射程距離』が活かされない。


 ここから徐々に距離を伸ばしていって、とりあえずは30メートルの距離……この練習場の端から端までの距離で命中させられるようになるのが、ノゾムの当面の目標である。


 それがいつになるかは分からないけれど……。


(あれ? そういえば……)


 ふと、頭の片隅に小さな疑問が湧く。その小さな疑問は気がつくとあっという間に膨れ上がり、ノゾムの脳内を不安で埋め尽くした。


 弓を下ろして、左腕のリングを操作する。フレンドの項目を選び、プレイヤー検索欄に名前を入れて……ややあって表示された画面を見て、ノゾムは膝から崩れ落ちた。



「おおーい、ノゾムー! 飯を持ってきたぞ……って、どうした!? 腹でも痛いのか!?」



 いつものようにひょっこりと現れたラルドは、うずくまるノゾムを見て目を丸めた。


 ノゾムは顔を上げる気力もない。


「ふ、ふふふ……」

「ワライダケでも食ったか!?」


 そんなわけがない。むしろノゾムは今、泣きたい気分だ。


 『コウイチ』で検索をかけた結果。

 表示されたのは……。


「増えてる……っ」


 1週間前には7人だった『コウイチ』は、現在15人になっていた。


 このゲーム、『アルカンシエル』のプレイ人口は日に日に増えている。分母が増えれば同名のプレイヤーだってそれなりに増えるという、ただそれだけの話である。


「何が!?」と素っ頓狂な声を上げるラルドに答えることもできずに、ノゾムはさめざめと泣いた。




 ***




「……えっと、つまり? ノゾムは父ちゃんに誘われてこのゲームを始めたけど、ゲーム内で父ちゃんに会えなくて、それで行方を捜してる……。でも、肝心の父ちゃんのプレイヤー名も、アバターの姿も、何も知らない……と」


 落ち着いたノゾムに話を聞いたラルドは、話をそうまとめた。ノゾムはこくりと頷く。ラルドは首の後ろに手を当てて、困惑したように眉を下げた。


「それって、リアルで父ちゃんに聞けばいいだけなんじゃねぇの?」

「それができたら苦労はないんだよ!」


 ラルドは首をかしげる。

 ノゾムは眉間にぎゅうっと力を込めた。


「親父とはもうずっと会ってないし、連絡も取ってない。母さんとは時々連絡を取ってたみたいだけど、母さんが言うには、最近はそれもないって……」


 だからせめて、ゲーム内でだけでも父親の近況を聞いてきてほしいと、母親から頼まれたがために、ノゾムはこうして嫌いなゲームをしているのだ。


「『一緒に遊ぼうぜ』って手紙だけ寄越して、本当にあのクソ親父……っ!」

「んと……。なんかよく分かんねぇけど、深い事情があるんだな」


 ラルドは納得したように頷く。


「生き別れの父親を、ゲームの中で捜す……か」

「いや生き別れとか、そんなたいそうなものじゃ」

「まるで主人公じゃねぇか……うらやましい……まあオレの人生の主人公はオレなんだけども」

「あの?」

「相棒ポジもいいよなぁ。最近じゃあ、主役を食う相棒ってのも結構いるしなぁ」

「さっきから何を言っているのか全然分からないよ?」


 いったい何が言いたいんだ、この男。


 怪訝な顔をするノゾムに、ラルドはニカッと笑ってみせた。


「オレも手伝ってやるよ!」

「え?」

「オレは孤高の戦士……だが、面倒見は、悪くない」

「孤高……?」


 よく分からないが、協力してくれるというのは助かる。

 ノゾムには、もはやどうやって父親を捜せばいいのか、まったく分からない。


「それで、えっと? 父ちゃんの名前で検索かけた結果が、前回より増えてるんだっけ?」

「うん、そう」


 1週間前に検索した時には7人だったが、今回出てきたのは15人。


「首都にいた『コウイチ』と、この村にいた『コウイチ』には1週間前に確認を取ったんだけど、その人たちも新たに増えた『コウイチ』に混ざっちゃって……誰に会って誰に会ってないのか、それすらも分からなくなっちゃって……」

「むーん。確認が取れた相手に印でも付けられたらなぁ……あ、このマーク」

「え、どれ?」


 ラルドが指差しているのは、ノゾムが出した検索結果の、名前の横にうっすらと書かれた4つのマーク。トランプに使われる、ハート、スペード、ダイヤ、クローバーのマークだ。


 ラルドはなんとなくハートマークに手を伸ばし、押した。ハートがピンクになった。

 もう一度、押す。

 ピンクがブルーに変わった。


「おおーっ! これでマークをつけとけば、誰に会ったか分かるんじゃね!?」

「え、てか、なんで分かったの」

「ボックスに同じモンスターがいっぱい入っている時は、こうしてマークをつけとくと便利なんだぜ!」

「ボックス……?」


 アイテムボックスのことだろうか。でも、モンスター?


 ちなみにラルドが言っているのは『別のゲーム』の話であり、このゲームとは何の関係もない。


「厳選には必要だよなぁ」

「???」


 まったくもって、関係ない。


「他には……そうだなぁ。このローマ字表記の『Ko-ichi』は前回もいたか?」

「あ、うん」


 前回1人だけいたローマ字表記の『Ko-ichi』は、今回も1人しかいない。

 この人は恐らく同一人物だろう。


「でも、現在地が違う。前はガランスってところにいたんだけど」

「移動したんだろ」

「なるほど……」


 彼らはプレイヤーだ。彼らだって思い思いに冒険するのだということを、ノゾムはうっかり失念してしまっていた。


 『Ko-ichi』の現在地は『悪魔の口』となっている。


 ……なに、その不穏な地名。


「たしか、ルージュの西にある地下ダンジョンの名前だな。すっげぇ深くて、最深部に到達した奴はまだいないって言われてる。階層の浅い場所はモンスターのレベルも低いから、レベル上げを兼ねて挑戦している奴が結構いるんだよな」

「へぇ……」

「コイツには会ったのか?」

「いや、会ってない」


 ノゾムが首を振ると、ラルドは「決まりだな」と口角を上げた。


「まずはコイツに会いに行こう!」

「今から?」

「あたりまえだろ! 善は急げってな! ぐずぐずしてると、また増えるぞ?」


 それは困る。


「でも、弓の練習……」

「移動しながらやればいいじゃん。実戦にも慣れとかなきゃだろ?」

「まあ……」


 それもそうか、と思う。


 ノゾムはルドベキアに別れを告げ、訓練所を後にした。

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