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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
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スタンド・バイ・ミー

「悪いな、オレがトドメを刺しちまって」

「いや、それはどうでもいいんだけど」

「あー、うん。お前ってそういうやつだよな」


 最後のいいところを取られたら、普通は悔しく思うものなんじゃないかとラルドは言う。

 普通はそうかもしれないが、今のノゾムにとって、大切なのはそこじゃない。


 倒れたアルベルトを見る。ちゃんと戦闘不能になっているようだ。このまま放っておけば、アルベルトの体は勝手に教会へ飛んでいくだろう。


 『テイムモンスターは倒されたら復活しない』なんてのは、【テイマー】でもないアルベルトが出した、ただの推測に過ぎない。


 そんなことが、あっていいはずがない。


「ラルド、オレ、ちょっとクルヴェットに行ってくる」

「は?」


 ラルドは目を点にした。


「クルヴェットって、ルージュの? 戻るの? なんで?」

「ロウを探しに行く」

「え、話が見えねぇんだけど」


 ロウとは鉱山ではぐれたんじゃねぇの? と首をかしげて問いかけてくるラルドには答えずに、ノゾムは左腕のリングをいじる。出てきたのはアイテムボックスの一覧だ。


 クルヴェットまではかなり遠いが、ノゾムたちはルージュに家を持っている。

 全然、まったく、アイテムの保管にしか使ってないような家だけど、玄関には『転送陣』というものを貼っていて、いつでもどこからでも帰宅できるようになっているのだ。


 移動する前に手持ちの『ミニ転送陣』をその辺に貼っておけば、再びここに戻って冒険を再開することも出来る。

 全然、まったく、ちっとも使っていないが、非常に役に立つアイテムなのである。


 ノゾムはアイテムボックスから『ミニ転送陣』を取り出そうとして……ふと、その手を止めた。


 一覧の中に、入れた覚えのないものが入っていたからだ。



「タマゴ……?」



 アイテム覧の一番最後に書かれた名前は『大きなタマゴ』。

 ノゾムは眉間にしわを刻んでラルドを見た。


「ラルド、勝手に俺のボックスにタマゴを入れたの?」

「そんなことしねぇよ。つーか、オレのタマゴは孵ったし!」

「そうなの?」

「その名も! カイザー・フェニッチャモスケ!」

「カイ……フェ……?」


 どうしてそんな長い名前をつけたのかは謎である。


 しかしラルドのタマゴじゃないとすると、このタマゴはどこから入り込んできたのだろう?


 ノゾムは不思議に思いつつ、試しにタマゴを取り出してみた。

 バスケットボールくらいのサイズのそれは、ラルドが抱えていたタマゴに、よく似ている。


 ラルドがタマゴをしげしげと見て言った。


「これもモンスターのタマゴじゃねぇか?」

「モンスターの……?」


 ノゾムはいっそう困惑した。

 タマゴはとても温かくて、微かな鼓動も感じる。なんだか今にも生まれてきそうだ。


 何故だろう。まったく見覚えのないタマゴなのに、じわじわと胸に温かなものが満ちていく。


 ――この子に会いたくて仕方がなかった。


 何故だかノゾムは、そう感じていた。


「……あっ!? アルベルトがいねぇ!!」


 ラルドの声にハッとする。

 慌ててアルベルトが倒れていた場所を見ると、確かにそこにアルベルトの姿はなかった。


 どうして? 戦闘不能になっていたんじゃないのか?


「そうか……あいつ、『身代わり人形』を持ってたんだよ!」


 戦闘不能を一度だけ肩代わりしてくれる『身代わり人形』。

 エカルラート山のふもとにある村で売られていた。

 ノゾムも以前は持っていたが、エカルラート山の怪鳥との戦いで使い切ってしまったので、今は持っていない。


 どうしよう。追うか?

 ノゾムとしては、やられた分はやり返した気がするし、何より今はこのタマゴのほうが気になる。ロウも探さなくちゃだし。


 だがあの厄介なプレイヤーキラーを放置しておくのも、いかがなものだろう。放っておけば、彼はまた理不尽な理由で他のプレイヤーを襲うに違いない。


 実際、アルベルトのせいで鉱山に入れず、困っているプレイヤーもいるわけだし……。


「あやつのことは、わしに任せよ」


 ふいにフォルトが話に割り込んできた。

 いつの間にかすぐ近くに立っていたフォルトは、にっこりと微笑んでノゾムが抱えているタマゴを見つめている。


「お主はそのタマゴを抱いておけ。確か生まれ直し(・・・・・)の場合は、孵化に時間はかからぬはずじゃ」


 ノゾムは眉を寄せた。


「生まれ……なおし……?」


 生まれ直しって、何だ。

 このタマゴは、いったい何なんだ。


 疑問で頭がいっぱいになる。

 けれども、ノゾムはより強く、タマゴを抱きしめた。


 遠くで爆発音が鳴る。たぶんアルベルトがノゾムの仕掛けた罠に引っかかったのだろう。

 フォルトは「ではまた後で」と言い残して、音が聞こえたほうへ駆けていった。


 タマゴが温かい。


「どうする、ノゾム?」


 ラルドが問いかけてくる。


「……。ナナミさんはどこにいるんだろ?」

「あっちで待ってるぜ。グラシオと、カイザー・フェニッチャモスケと一緒にな」

「チャモスケ」


 その名前の由来は何なんだろう。

 ノゾムは、あえて聞かないことにした。

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