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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
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鉱山の町Ⅲ

 【忍者】のファーストスキル『隠密』は、己の姿を隠すスキルだ。


 自分自身にしか使えず、また、攻撃の動作をすると効果が消えてしまうデメリットがあるが、攻撃さえしなければ敵の正面に立っていようと気付かれないので、使い方さえ間違えなければかなり役に立つ。


 『狩人とは相性がいい』とジャックは言っていたが、まさにそのとおりで、弓を射つ行動は攻撃動作になってしまうので『隠密』の効果はなくなってしまうが、攻撃動作でない『罠作成』なら姿を隠したままやりたい放題だ。


 そしてこの『隠密』は、攻撃後には再び使用が可能となる。


 攻撃するときだけ姿を現し、そうでないときは消え、相手の隙を虎視眈々と狙う。アルベルトはこの攻撃パターンと『スモーク』による状態異常の付与によって、多くのプレイヤーを(キル)してきた。


 ちなみにこの『スモーク』というスキルにも弱点はある。

 草を消費しなければ使えないこと――草にはいろいろな種類があって、種類によって毒・麻痺・混乱・睡眠のいずれかの症状を引き起こす。めったに採れないが、複数の症状を同時に引き起こす草もあるらしい――と、その効果範囲が煙の届く範囲内であること。


 それからこれが『スモーク』にとって一番の弱点なのかもしれないが、【錬金術師】の『エンチャント』によって『状態異常無効』の付与を付けた装備品を身につけた者には、まったく効果がないということだ。


「私が『エンチャント』を持っていて良かったわね」


 グラシオに抱きついたまま得意げに笑うナナミ。彼女は【錬金術師】のスキルを持っている。


「ただし、すべての状態異常を無効にする付与はかけられないわ。付与をかけるのにもアイテムを消費するんだけど、『全状態異常の無効』の効果をかけられるアイテムを私は持っていないもの」


 かけられる付与は、ひとつの装備品につき、ひとつだけ。


「毒か、麻痺か、睡眠か……。この3つのどれかになるわね。混乱を防ぐアイテムも持ってないから」


 ずらりと並んだアイテム欄をスライドさせながら、ナナミは言う。ずいぶんたくさん持っているように見えるが、まだまだこのゲームにはたくさんのアイテムがあるはずなので、それらに比べると大した数ではないのだそうだ。


 ナナミが【錬金術師】のスキルを覚えているのは、アイテム収納数が無制限になる【錬金術師】のサードスキル『収納』を習得したいからだという。


「うーん。この中で一番回避したいのは、麻痺かな」


 ラルドは口元に手を当てて言った。ナナミは「そうね」と頷く。


「『毒』は放置するとヤバイけど、即死するわけじゃないし。『睡眠』は外部からの衝撃で簡単に解除できるし。動けなくなっちゃう『麻痺』が一番厄介かもね」

「みんな一斉に寝ちゃったら終わりだけどな〜」


 トントン拍子に対策を練っていくラルドとナナミ。ノゾムはそんな二人をポカンと見た。


 対策を練るスピードがちょっと速すぎではなかろうか。それとも、これがゲームをする者たちにとっては普通なのだろうか。ノゾムの頭が鈍いだけなのだろうか。


「じゃあ、麻痺を防ぐ『エンチャント』をかけるわね。あんたたち、何かアクセサリーは持ってる?」

「ああ、前に作ったやつがあるぜ」


 ラルドがそう言って取り出したのは、いつぞやの精霊水晶をたくさん使って作った、龍の形のブローチである。


「なにこの無駄なクオリティーの高さ……ていうか、もったいない! 精霊水晶をこんなにたくさん使っても、上昇するステータスはひとつだけなのよ!?」

「知ってるよ。見た目を重視した結果だ」


 ナナミは瞠目してわなわなと体を震わせる。「レアなのに……精霊水晶、すごくレアなのに……!」稀少な精霊水晶を、見た目のためだけに大量に使用したラルドのことが信じられないようだ。


 ナナミはがっくりと肩を落とした。


「……まあ、いいわ。ノゾムは? 何かアクセサリーは持ってる?」

「あ、え、その、持っていると言えば、持っているんだけど……」


 ノゾムは上着の裏につけたブローチを握ろうとして、はたと気付いた。ノゾムの上着は、ラルドのタマゴを包むのに使っているのだ。


「おう、これだろ!」

「!!!」


 ラルドはノゾムのブローチを取り出した。素早さが上昇する緑色の精霊水晶がついた、不格好な形のブローチだ。


「わ、わ、」


 ラルドのブローチを見たあとでは、その不格好さは際立って見える。ナナミは受け取ったブローチをしげしげと見た。


「ノゾムって、本当に不器用なのね……」

「あ〜〜〜〜っ!!」

「でも精霊水晶を無駄使いしていないだけ、ラルドよりはマシ」

「なんだよ。これカッコイイだろ!?」


 ラルドは頬をふくらませてプンスカ怒る。ノゾムは恥ずかしさのあまり悶絶した。穴があったら入りたい。


「じゃあこれに『麻痺無効』のエンチャントをかけるわね。……ああ、大丈夫。エンチャントをかけても、素材そのものについていた効果は消えないから」


 ナナミはそう言って、龍のブローチと、不格好な形をしたブローチに、それぞれエンチャントをかけた。


 エンチャントをかけられたブローチは、淡く光る。


 ラルドは受け取ったそれを胸に飾り、ノゾムは出来るだけ人目に触れないようにズボンのベルト通しに引っ掛けた。


「アクセサリーって、ひとつしか身につけられないんだっけ?」

「身につけることは出来るけど、2つ目以降のアクセサリーは効果が現れないのよ」

「そっかぁ。いろんな効果がついたアクセサリーをつけまくれば最強になれるかなって思ったんだけどな〜」


 ラルドは残念そうに肩をすくめる。

 ナナミは呆れた顔をした。


「それだとゲームバランスが崩れるでしょ」


 ……ゲームバランスって何だろう。ノゾムは首をかしげたが、ラルドには意味が通じたらしい。「確かにな」と頷いている。


「んじゃまあ、麻痺対策もできたところで、具体的な作戦会議といきますか」


 ラルドはそう言って、先ほどの男たちから受け取った鉱山内の地図を広げた。


 内部は迷路のように入り組んでいて、なかなか複雑である。ところどころに休憩所と思しき広い場所があって、そこに罠を張って待ち伏せするのがいいんじゃないかという結論になった。


 ただ、アルベルトが現在、鉱山内のどこにいるかは分からない。彼も当然、移動するからだ。そもそも中で何をやっているのかも分からないし……普通に考えるなら、鉱山で採れる金やら銀やらを独り占めしているのだろうけど。


「そうだな、この出口に一番近い場所にしよう。ノゾムはここに罠を張りまくれ。オレとナナミは、ここにアルベルトを誘い込む」

「グラシオ、私を守ってね!」

「あ、一応『隠密』で姿を消しておいたほうがいいかもしれないぜ。罠を張ってる途中で見つかったら、邪魔されるかもしれないし」

「わ、分かった」


 うまくいくだろうか。

 うまくいくといいなぁ。


 『隠密』で姿を消せるのは、使う本人だけ。同行するロウの姿は隠せないので、ロウには悪いけど、少し離れたところから着いてきてもらうことになった。




 ***




 鉱山の中はあちこちにランプが置いてあって、意外と明るい。


 少なくとも、エカルラート山の洞窟のように一切の光が差さない暗闇ではない。歩きやすいよう、道も簡単にだが舗装されている。


 入ってすぐに道が三方向に分かれる。例の休憩所があるのは、ここを右に進んですぐのところだ。ラルドはこのまま真っ直ぐに進み、ナナミはここを左に曲がって、それぞれアルベルトを探す。


「じゃあ、またあとでな!」

「グラシオ、絶対に私を守ってね!」

「……」


 ナナミにぎゅうっと抱きつかれたグラシオは、ナナミを背に乗せたまま左の通路へ向かっていく。クールだ。自分に課せられた仕事を淡々とこなす、クールな仕事人だ。


 ナナミたちを見送ったあと、ラルドも手を振って去っていった。残されたのはノゾムとロウだけ。ロウは忠犬よろしく、びしりと背中を伸ばして座っている。


 ノゾムはロウの頭を撫でた。


「……俺を守ってね?」

「ウォン!」


 さてさて。それではさっそく『隠密』で姿を消して、休憩所へと向かおう。姿を消したとき、ロウは一瞬、きょとんと目を丸めた。しかしすぐにフンフンと鼻を鳴らして、歩き出したノゾムの後ろをついてくる。


 休憩所にはすぐ到着した。入口から一番近い場所を選んだのだから、当然ではあるのだけど。

 休憩所とはいっても、椅子代わりの丸太が置いてあるだけの簡素なものだ。広さも思ったほどではない。ここで戦うとなると、ちょっと大変かも。


「ロウはここで待っててね」


 ノゾムは小声でそう告げて、休憩所の中へ入った。ロウはおとなしく入口付近に身を隠す。


 さてまずはワイヤーを張るか……と考えながら歩いていた、その時だった。


「……うわぁっ!!?」


 ノゾムは何かに(つまづ)いた。

 わりと大きな『何か』だ。


 丸太にでも躓いてしまったのだろうかと振り向くが、そこには何も見当たらない。おかしい。足に当たったのは、間違いなく大きなものだったのに。


「……ったいな……」


 声が聞こえた。知らない男の声だ。

 だがそこに、人の姿など見当たらない。


 幽霊――? いや、そんなはずはない。間違いなくそれは、実体を持った何か。姿が見えないだけの、何か。


(まさか……)


 ノゾムはそろりそろりと、後ろに下がる。


 衣擦れの音がした。『何か』が動いたらしい。ノゾムはうまく呼吸が出来ない中で、ごくりと唾を飲み込んだ。


 ノゾムには運がない。


 でも、だからって――。



「ああ、聞こえるな……。うるさい呼吸音が」



 うんざりした様子で吐き出された、低い声。再び衣擦れの音が聞こえたかと思えば、そこに現れたのは黒いコートを身につけた、長髪の男。両手にはそれぞれ短刀が握られている。


 攻撃動作に移ったことで『隠密』の効果が消えたんだな――と、考察する余裕もなく。ノゾムの眼前に刃が迫る。


 間一髪。刃はノゾムには届かずに、空を切った。男は舌打ちする。攻撃が当たらなかったことは感触で分かったらしい。


 長い前髪の間から赤い目が覗く。ラルドが言っていたように、血の色のように濃い赤だ。


 男は叫んだ。



「俺の安眠を妨げる奴は等しく死ね!」



 ノゾムも思わず叫んだ。



「寝る場所は考えたほうがいいと思う!!」

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