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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
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鉱山の町Ⅱ

 PK……ペナルティーキックでないのなら、いったい何を意味する言葉なのだろう?


「PKってのは、『プレイヤーキラー』の略で、他のプレイヤーを殺す行為、またはそれをするプレイヤーのことをいうんだ」

「は?」


 ラルドの説明を聞いて、ノゾムは呆けた声を漏らす。他のプレイヤーを殺す……って、何だそれ?


「それって違反なんじゃないの?」


 ――プレイヤー、非プレイヤーを問わず、他人に危害を加える行為は禁止です。

 初めてこのゲームを始めた時、案内係の天使さんは確かにそう言っていた。


 ラルドは神妙な顔で頷く。


「『違反すれば牢に入れられる。拒否すれば、犯罪者として追われる。ただし相手が犯罪者であれば、危害を加えても違反にはならない』……だろ? 『アカウントを停止する』とは言ってなかった」


 アカウントを停止されるというのは、ゲームからの追放を意味するらしい。つまり、


「PKをしても、犯罪者になるだけ。犯罪者が相手なら、攻撃してもいい……ってことは、PKKは全然オッケー、PKをするような奴はむしろ倒しちまえってことじゃねぇかな」

「ぴーけーけー?」

「『プレイヤーキラー』を殺すプレイヤーのことだ」


 ノゾムは「ひぇ」と悲鳴を上げた。なんでプレイヤー同士で、殺すとか殺されるとかいう話になるんだ。このゲームって、そんなに殺伐としたゲームだったのか?


 ラルドは難しそうに眉間に縦じわを刻み、再び男たちを見た。


「PKがなんで鉱山なんかにいるんだ? ああいう奴らって、初心者が多い場所で暴れてるイメージがあるんだけど」


 初心者が多い場所というと、真っ先に思い浮かぶのは『はじまりの国ルージュ』だ。ゲームを始めたばかりのプレイヤーが最初に降り立つ国なので、自然と初心者が多くなる。


 PKという連中は、まだ右も左も分からない初心者をいたぶるのが好きらしい。


 運が悪ければ自分も殺されていたかもしれない……。ノゾムはそこに思い至って、ガクガクと震えた。


「ルージュじゃ、PKはやりにくいのよ」


 ラルドの疑問に答えたのはナナミだ。ラルドは「どういうことだ?」と首をかしげる。


「あの国には『悪魔の口』があるから、高レベルのプレイヤーも意外と多いのよね。運営も『初心者狩り』を警戒していて、よく見回りしてる。それから『悪魔の口』の攻略をメインにしているギルドの人たちも、治安の維持に協力しているとも聞いたわ」


 始めたばかりでPKに狙われて嫌な思いをしてしまうと、そのままゲームをやめてしまうかもしれない。運営としてはそれは避けたい。


 だからそうならないように、運営と一部のプレイヤーたちが協力しあって、ルージュではPKをしにくくなっているのだという。


「ルージュじゃやりにくいから、鉱山の中でってか? 意味わかんねぇな」


 ラルドは首をひねった。『初心者狩り』を楽しむPKが、初心者が入ってくるとは限らない鉱山でわざわざPKをしているのが、不思議でならないらしい。


「山賊プレイを楽しんでる、とか?」


 そういうプレイヤーもいないわけではないだろう。だが……いくら頭をこねくり回しても、答えは出ない。


 とにかく、鉱山の中にいる『めちゃくちゃ強い奴』が、とても迷惑なPKであることは分かった。


「PKが相手じゃあ、対策がちょっと変わってくるよな……。なあ、兄さんたち。そいつがどんなスキルを持っていて、どんな戦い方をするのか、知ってるか?」

「え、ラルド、相手がモンスターじゃなくても戦う気なの?」


 ノゾムは思わず問いかける。ラルドは「当たり前だろ」と頷いた。


「迷惑なPKを放っておくわけにはいかねぇし、悪を成敗するPKKに酔うのも良さげだし、ぶっちゃけ他のプレイヤーと対戦してみたかったし」

「最後のが一番の理由っぽいね」


 対戦なら、ノワゼットにあるという『バトルアリーナ』で思う存分にやれるだろうに。


 ラルドは顔の半分を手で覆って、フッと笑った。


「オレは正義の剣士、ラルド・ネイ・ヴォルクテット」


 とりあえず、また何か変なスイッチが入ったらしいというのは理解した。


 何が正義だ。ラルドはただの戦闘マニアだろう。ルールを破ってPKに手を染めたりしないだけ、まだマシではあるけれど。


「お前さんたち、鉱山のアイツをやっつけてくれるのか? アイツ、ほんと、めちゃくちゃ強いんだけど」

「フッ、なおさら燃えるというものだ」


 カッコつけて言うラルドだが、ノゾムは遠い目をした。相手が強ければなおいいなんて、ノゾムにはさっぱり理解できない。


 ポカンとラルドを見ていた男たちは、互いに顔を見合わせて、やがて頷いた。


「アイツを倒してくれるなら、なんでもいいや。ただ、今まで何人も返り討ちにされている。くれぐれも気をつけてくれよ」

「おう、任せてくれ!」


 ラルドはキリッとした顔で親指を立てた。ノゾムは思わず空を仰いだ。ナナミはグラシオを撫でている。


「そのPKの名前は『アルベルト』。黒髪赤眼で、黒いコートを着た、いかにも陰気そうな奴だ」

「漆黒の髪に、まるで血を固めたような紅い瞳、闇夜に溶け込むロングコートに身を包んだまさに『闇』を体現したかのような男か……。なんでだろう。仲良くなれそうな気がする!」


 まだ『アルベルト』なる人物の色彩と印象しか伝えられていないのに、ラルドは目を輝かせている。


 どうして仲良くなれそうだと思ったのか、謎だ。


「……そいつがスキルを何個持っているのかは、さすがに分からねぇ。だが、今までに使っていたものの中で特に厄介だったのは2つ。『隠密』と『スモーク』だ」

「『隠密』は【忍者】のスキルだったな。『スモーク』ってのは?」


 スモーク。

 直訳すると『煙』だ。


「【薬師】のスキルだよ。フィールドで採取できる草があるだろ? 毒草か薬草かは『鑑定』で調べるか、実際に使ってみなけりゃ分からねぇアレだ」

「ああ、クソ不味いポーションの材料になるやつだな」

「そうだ。【薬師】は毒草・薬草問わず、何種類かの草を採取することで転職が可能になる。『スモーク』は草を煙にして散布するスキルだ。味方を複数人同時に回復させたり、状態異常をまき散らす。このゲームの『毒』はマジで『毒』だ。毒状態になったら早く解毒しないと、あっという間に戦闘不能になるぞ」


 アルベルトが鉱山に現れたのは、半日ほど前からだという。たった半日で、アルベルトは両手両足の指の数を足しても足りないほどの人数を、死に戻りさせてきた。


 『隠密』で足音なく近付き、『スモーク』で状態異常を引き起こし、隙を見せたところで()る。


 なんとも陰湿な戦い方をするプレイヤーのようだ。


「もちろん、万能のスキルなんてものはない。『隠密』は攻撃動作に移ると効果が消えちまうし、『スモーク』は持っている草の数が少なけりゃ乱発はできねぇ。使うたびに草は減るからな。煙が現れたら息を止めておくことだ。『スモーク』は吸わなきゃ効果がない」


 アルベルトの場合は『スモーク』を使う直前まで『隠密』で姿を消しているため、いきなり煙が現れるのだそうだけど。


 ラルドは「効率のいい戦い方だなー」と感心している。ノゾムには卑怯な戦い方としか思えないけれど、ラルドは違うらしい。


 「それならどう戦うべきか」と考える様子は、なんとも楽しそうだ。


 物騒で、迷惑で、厄介なPKを前にしても楽しめるその精神性は、いったいどこから来るものなのだろう。


 男たちも奇妙なものを見るような目でラルドを凝視している。ナナミはグラシオをモフモフしている。自分のことも構ってくれとばかりに体を寄せてくるロウの頭を、ノゾムはとりあえず撫でてみた。


「うん、まずはオレらも『隠密』の習得だな。役所に行って【忍者】に転職しようぜ」

「あ、うん」


 正直気は乗らないが、約束したのだから、やるしかない。戦闘マニアのラルドに付き合ってPK狩りと行こうじゃないか。


 ……逆に狩られてしまう可能性については、今は考えないことにする。


【薬師】

転職条件:(薬草・毒草問わず)10種類以上の草を集めること

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