表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
74/291

その頃のバジルたち

 寄ってきた大きな蛾のようなモンスターを、バジルは戦斧で叩き潰す。倒しても倒しても、次から次に湧いて出てくるモンスターに思わず舌を打った。戦闘はわりと好きであるバジルだが、それでも飽きというものはやって来る。


 ローゼは「MPがもったいないから」と言って傍観を決め込んでいるし、セドラーシュはネルケを押さえ込むので忙しい。そしてネルケは、あろうことか、無謀なことに――セドラーシュの手から逃げ出そうとしている。


 少し前までのネルケなら有り得なかったことだ。わざわざ押さえつけられずとも、以前のネルケならセドラーシュの正論(・・)に口を噤み、大人しくしおれていただろうに。


 セドラーシュに反発できるほど強くなったことを喜ぶべきか、現状たった1人で戦うはめになっていることを、嘆くべきか。


「別にいいけどな! レベルも上がるしな! レッドリンクス(クソ猫ども)と差をつけるチャンスだクソが!!」

「うるさいわよ、バジルー」

「心配しなくても差ならとっくについているじゃないか。上下関係は理想と逆だけど」

「クソ! クソ! クソ!!」


 余計なことを言うローゼとセドラーシュに、バジルの機嫌はいっそう悪くなる。口が達者なセドラーシュと違い、バジルのボキャブラリーのなんと貧しいことか。


 それでも周囲を圧倒することは出来るらしく、怒鳴りながらモンスターを屠り続けるバジルを見て、ネルケは震えていた。


 ローゼとセドラーシュは平然としているが……それは彼らがただバジルの癇癪に慣れているだけであって、ネルケの反応が過剰というわけではない。



「「「わああああああああああああああああああああっ!!!」」」



 そこへ、待ちわびた者たちの声がようやく聞こえてきた。


「ノゾム、止まって! 止まりなさい! 止めてええええええっ!!」

「いや、止めるんじゃねぇ! 減速(・・)だ! 減速しろノゾムーーーーッ!!」

「どっちなんだよおおおおおおっ!!」


 ノゾム、ラルド、ナナミの3人は、ひとかたまりになって突っ込んでくる。ノゾムは左腕をワイヤーに引っ張られているようだ。セドラーシュに教えられた使い方をさっそく実践しているようだが……何故ひとかたまりになって、しかも、全速力で?


 このままではノゾムがワイヤーをくっつけた場所――頑丈な岩――に激突してしまう。


 両隣から「止まって」「減速しろ」と訴えられたノゾムは、迷いに迷って――もちろん、そんなに悩んでいる時間はない――最終的に『止まる』を選択した。


 その結果、どうなったかというと。


「うぎゃっ」

「ぶへっ」

「へぶしっ」


 ワイヤーは止まったものの、3人の体は慣性の法則に従って、危惧したとおりに仲良く岩に激突した。


「だ、大丈夫!?」


 ネルケが悲鳴のような声を上げる。ノゾムたちは地面に倒れたままピクリともしない。慌てて駆け寄ろうとするネルケをセドラーシュは素直に解放した。3人が戻ってきた以上、押さえ込む必要はなくなったと判断したのだろう。


 セドラーシュもまたネルケに続いて3人のもとへ向かい、倒れた彼らに向かって爽やかに微笑んだ。


「やあ、楽しそうだね」

「どこを見て言ってるんですか!!」


 ノゾムががばりと身を起こす。


「いやノゾム、これは嫌味だ! くそう、この爽やか毒舌マンめ!」


 同じく身を起こしたラルドが的確な指摘をした。『爽やか毒舌マン』という言葉に、バジルは思わず噴き出してしまった。


 いやいや、目の前にモンスターがいるのだ。気を緩めるわけにはいかない。こちらがモンスターの急所を攻撃することで即死させられるように、モンスターもこちらの急所を攻撃して、即死させることが可能なのだから。


「おいセドラーシュ、そろそろ加勢しろ! そこの箒頭、テメェもだ!」

「ほうきって……、オレのことかよ!?」


 黄色い箒頭のラルドは素っ頓狂な声を上げた。何度も『オッサン』呼ばわりしてきやがったことへの仕返しだ。


 ラルドはむぅ、と顔をしかめて大剣を構える。左腕にはまだタマゴ。今の激突でも割れないとは、なんて硬いタマゴだろう。


 セドラーシュもやれやれと肩をすくめて槍を構える。孤軍奮闘していたのが、3人になった。これでようやく楽になる。


「気ぃつけろよ。この蛾みてぇなやつは毒を持ってるからな!」

「おおう……それは、厄介そうだな」

「なんでちょっとワクワクしてんだテメェ」


 厄介そう、と言いつつ口元をニヤけさせるラルドに、バジルは引いた。


 普段とは戦い方を変えねばならない相手を前にして、ラルドは『面倒くさい』より『楽しそう』が勝ってしまうタイプなのらしい。


「毒は鱗粉か? 近づかないほうがいいのかな。あ、でもオレ、もう魔法使えねぇや。吸い込まないようにすれば大丈夫かな」


 ブツブツと考察するさまも、なんとも楽しそうである。バジルはフンッと鼻を鳴らして、戦斧を振り下ろした。


「オレ様は風を起こして防いでいる」

「おお、そんな手が。かっけぇ…………いや、このオッサンがカッコイイってのは無いな。うん、無い。目を覚ますんだ、オレ」

「ぶっとばすぞテメェ!!」


 やはりコイツは気に入らない。


 次から次へ湧いて出てくる蛾を協力して倒していく。途中からはノゾムも加わった。離れたところから攻撃できる弓は、毒の鱗粉を撒き散らす蛾に近付く必要がないので、戦いやすいようだ。


 少しは腕を上げたのか、矢が明後日の方向へ飛んでいくこともないし、うっかり刺さりそうになることもない。


 背後からの援護は正直助かる……が、弓を引くノゾムを見ていると弓バカのユズルや、以前プレイしていたゲームで揉めた弓使いを思い出すので、バジルは素直に感謝したくなかった。


 がさりと葉がこすれる音と共に、モンスターたちの背後から2匹の獣が現れる。1匹は赤い毛並みの狼、ロウ。そしてもう1匹は、白い体に黒い斑点模様を持つ、豹に似た生き物だ。


 額に蒼い角を生やした白い獣は、蛾のモンスターを見据えると、大きく息を吸い、吐いた。


「!? さむっ……!」


 白い獣が吐いた息は、とてつもなく冷たかった。離れているバジルたちのところまで、冷気が届く。冷気の直撃を受けた蛾のモンスターたちの動きが、鈍くなった。


「今だ!」


 何度目になるか分からない青白い光を見送って、蛾がこれ以上湧いてこないのを確認し、バジルはようやくひと息つくことが出来たのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ