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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
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森の王者Ⅸ

 はてさて。ナナミを抱えると言っても、どう抱えたら良いだろうか。


 小さな子供にするように、縦抱きにするか――これは正面から密着する形になるので、ノゾムとしては遠慮したい。


 それとも女子が憧れているらしい横抱き――いわゆる『お姫さま抱っこ』というものかにするか。だがあれはイケメンがやるから良いのであって、自分のような冴えない男がやっても喜ばれないだろう。


 ワイヤーによって、リングをつけた左手は引っ張られることになる。つまりナナミを抱えるのは、右腕一本だ。


 右手だけで横抱きは難しい。

 しかし縦抱きはちょっと……。


 ノゾムは悶々と考えて、ナナミを見た。


「ねえナナミさん。その、どういう風に抱えたらいいのかな?」

「え? そうねぇ……」


 ナナミは深緑の目を瞬く。口元に手を当てて、うーんと唸った。


「こう……荷物を持つみたいに抱えてくれたらいいわ」

「え、本当に?」


 荷物みたいって……それでいいのか? 女の子にそんな扱いをしたら、普通は怒られるのではないだろうか。


 しかし、まあ、縦抱きよりは断然いい。


「それじゃあ、失礼するね」


 ノゾムはナナミを抱えた。荷物を持つみたいに、という話だったので、米俵をかつぐみたいに抱える。やっぱり軽い。苦しくないかと尋ねてみれば、ナナミは大丈夫とばかりに片手を振り、くたりと体の力を抜いた。


「ナナミさん?」


 何をやってるんだ、この人。


 急に具合でも悪くなったのかと心配になったが、どうやらわざとぐったりしているようだった。


「よし。準備はできたみたいだな」


 大剣を片手にジリジリと下がっていたラルドが、こちらをちらりと見て言った。豹たちも、もう間近に迫って来ている。


「行くぞ!」


 ラルドは叫び、大剣を納めた。武器から手を離した瞬間、豹たちは一斉に飛びかかってくる。ラルドは豹たちに右手をかざした。


「『精神統一』からの、『サイクロン』!!」


 突風が豹たちを襲う。ローゼのものほど威力はないが、目くらましには充分な威力だ。


 ラルドは魔法を放ったあと、すぐさまノゾムに飛びついた。軽い衝撃。ナナミよりは重いが、背負えないほどではない。この体は現実のものより力持ちなのだろう。


 ノゾムは意を決してリングのボタンを押した。左腕が前へ前へと引っ張られる。足が浮く。


「え、ちょ、まっ……!」


 下手をすると地面に顔面がこんにちは、そのまま猛スピードで引きずられるだろう。ノゾムは頑張って足を動かした。


「腕がもげる!!」

「大丈夫だって! ほら、もっと力を抜け。スキップ、スキップ、ランランラン!」

「ふざけてるだろラルド!?」

「いやいや。それくらい軽やかに跳んだほうが、結果として上手くいくんじゃねぇかなと……」


 このまんまじゃ、地面にダイブしそうなんだもん。

 ラルドはタマゴを大事そうに抱きながらそう言った。


 想像以上にスピードは出ているし、腕はもげそうだ。だが、この程度じゃ豹の脚には敵わないのではないかと、ノゾムは不安に思った。


 背後の豹たちは『サイクロン』で足止めされたが、正面のユキヒョウは違う。ナナミのテイムが上手くいかなかった場合、その牙は再びこちらに向かうだろう。


「ナナミさん……ナナミさん!?」


 あっという間にユキヒョウの横を通り抜ける。だというのにナナミは体をくたりと畳んだまま、ぴくりとも動かない。


 ユキヒョウの淡黄色の瞳が向く。

 敵意に満ちた、恐ろしい目だ。


「ナナミさん……っ!!」


 ナナミはその時(・・・)を待っていた。


 だらりと力を抜いたまま、視界の端に映る雪をかぶったような色をしたモコモコの足が、地面を蹴る、その時を。


 このゲームのモンスターはやたらとリアルに作られている。武器を持つ人間がいれば警戒し、攻撃されれば回避し、まるで本物の生き物のように行動する。


 だから、たぶん。

 追いかけたのが駄目だったのだ。


「ナナミさん!!」


 ノゾムの悲鳴が聞こえる。モコモコの足が、地面を蹴る。距離が詰まるのは一瞬だ。視線を上げるとそこには、獰猛な牙が見えた。



「――『破邪』」



 光り輝くユキヒョウの身体。


 そこから紫色の(もや)が抜けていくのを見て、ナナミはにんまりと笑みを浮かべた。

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