クルヴェットの訓練所
【不遇な狩人で頑張ってみるスレ#2】
[001]ユズル/狩人/Lv.22
前スレがいっぱいになったんで新しいスレ立ててみた。狩人仲間求む!
[002]ハンス/盗賊/Lv.15
>1 おつ
[003]ジェイド/空手家/Lv.27
>1 狩人ってまだ生きてんの?
[004]ユズル/狩人/Lv.22
>3 生きてるわ!!!
[005]K.K./釣り人/Lv.19
知り合いの狩人が木こりになってた件
[006]ジェイド/空手家/Lv.27
木こり……だと……
[007]ユズル/狩人/Lv.22
えええ……
[008]ハンス/盗賊/Lv.15
>5 転職条件教えて
[009]K.K./釣り人/Lv.19
>8 クルヴェットにいる木こりのおっちゃんに木の切り方とか教わる。50本くらい(もっと多いかも)切る。
おっちゃんの名前は忘れた。
[010]ハンス/盗賊/Lv.15
スキルは?
[011]K.K./釣り人/Lv.19
>10 回転切り、だったか。
回転しながら木を切る。戦闘にも使える。おかげで戦闘が楽しくなったと言っていた。
やり過ぎると目が回るらしい。
[012]ジェイド/空手家/Lv.27
相変わらず妙な部分がリアルだ。
[013]ユズル/狩人/Lv.22
狩人仲間、マジで求む!!!
***
『アルカンシエル』の中の世界は、昨日とはすっかり様変わりしていた。
辺りは暗く静まり返り、村近くにある湖は幾千もの宝石を沈めたかのように煌めいている。空には球状の光り輝く物体――月が浮かんでいて、まあ、つまり、夜になっていた。
昨日は太陽がさんさんと輝く昼だったのに、今日は朝から夜である。
朝から夜という表現はおかしな気がするが、現実世界では現在、朝だ。
「おうノゾム! 今日も来たな!」
ふいに声をかけられ振り返る。そこにいたのは昨日森で知り合った、黄色い箒頭の男だった。
「えっと……ラルド・ネイ・なんとかさん」
「なんとかってなんだよ! ラルド・ネイ・ヴォルクテットだ!」
ラルドでいいぞ、と男はニカッと笑う。ずいぶんとフレンドリーな人だ。人見知りとかしないんだろうか。
「ラルドさん」
「ラ、ル、ド」
「……ラルド、どうして今日は夜になってるの? 1日ごとに昼夜が変わるとか?」
昨日は学校が終わって午後からプレイを開始した。最初に3時間、次に2時間。合計5時間をプレイしたけれど、その間、太陽が沈むことはなかった。
「1日ごとっていうか、18時間ごとだな」
「何その半端な数字」
「理由は知らねぇよ。夜になったのは3時間くらい前だから、次に昼になるのは……えっと……」
「15時間後?」
「だな」
ノゾムはうんざりした。今は朝の10時頃なので、次に昼夜が切り替わるのは夜中の1時頃。つまり今日は1日『夜』が続くと見ていいだろう。
「困ったなぁ……」
「なにが?」
「だって、こんなに暗くちゃ、弓の練習ができないじゃないか」
的も見えやしないだろう。
がっくりと肩を落とすノゾムに、ラルドはなおも首をかしげる。
「なんで?」
「なんでって……」
「訓練所に行けばよくね?」
「訓練所? そんなのまであるの?」
問いかけるノゾムにラルドは「おう」と頷いた。
「このゲームの戦闘はプレイヤーのセンスによるって言っただろ? 残念ながらセンスはないけど、戦闘を諦められないって奴に戦い方を教えてくれる施設があるんだよ」
「へぇ……」
「まあオレはセンスの塊だから、今まで世話になったことはないがな!」
フフンと得意げに鼻を鳴らすラルドにノゾムは「ふうん」と返した。
考えてみれば、一般人が武器の扱いに慣れているわけがない。練習ができる施設があるのは、当たり前のことかもしれない。
「訓練所ってどこにあるの?」
「え、スルー? だからオレ、今まで世話になったことないんだって」
「ラルドも知らないのか〜。看板か何か立ってるといいんだけどなぁ」
さっさと弓をマスターして、さっさと親父を見つけて、さっさとゲームとはサヨナラしよう。
ノゾムはそう決意して、かがり火に照らされた村の中を歩きだした。
「調子に乗ってすみませんでしたぁぁぁ!! ノゾムくん、無視しないでぇぇぇ!!」
***
訓練所はすぐに見つかった。
村の中でも、ひときわ大きな建物だ。
クルヴェットは木造の建物が多いけど、訓練所だけはセメントのようなものが塗りたくられた建物で、暗がりの中でもとても目立つ。
両開きの大きな扉の前には厳つい口髭を生やした男が立っていた。
「よく来たな」
男は重々しく言った。
腕や胸にやたらと筋肉がついている、いかにも強そうな男だ。
「ここは身体の基本的な動かし方や各種武器の扱い方を学ぶ場所。新米の冒険者はもちろん、腕に覚えのある冒険者が新たな高みを目指すため、基礎を学び直す場所でもある」
かがり火が男の顔を怪しく照らしていて、正直かなり怖い。ノゾムは冷や汗を掻いて、わずかに足を下げた。ゲームの中の訓練所だから、もっとゆるい感じのところだろうと思っていたのに……なんだか厳しそうで、いやだ。
思わず逃げ腰になるノゾムの横で、ラルドが「なるほど」と顎に手を添えた。
「高みを目指すためには、基礎が大切というわけか。さもありなん」
「…………」
ノゾムはぽかんとラルドを見た。
「何言ってるんだこいつ」と言わんばかりの顔である。
口髭の男はラルドをジッと見つめて、静かに頷いた。ラルドは頷き返した。この無言のやり取りにどういう意味があるのか、ノゾムには分からなかった。
「では入りたまえ。高みを目指す冒険者たちよ」
男は背後の扉を押し開ける。中の明かりが漏れてきた。ラルドは意気揚々と入っていく。どうしてラルドの方がやる気なんだろうと不思議に思いつつ、ノゾムはラルドの後ろに続いた。
訓練所の中はとても広かった。敷地が広いだけでなく、高さもある。二階建ての建物がすっぽり収まってしまいそうなほどの大きさだ。
まず目についたのは天井付近まで造られた巨大なアスレチック。
ロッククライミング用の壁をよじ登っている人がいたり、網の橋の上をよろよろと渡っている人がいたり、滑り台を滑り下りている人がいたり……どう見ても訓練所というよりは遊び場である。
アスレチックの横にはいくつかの個室があり、どうやら武器の扱い方はそこで学べるらしい。しかしどう見ても、メインはアスレチックである。
「なるほど。全身を使うアスレチックか。これは良い訓練になりそうだ」
ラルドは腕を組んでソワソワしている。偉そうなことを言っているが、遊びたがっていることは明白だ。
ラルドのアバターは大人の男なのだけど、中の人は子供なのかもしれない。今にも「ひゃっほーい」と叫びながら駆け出していきそうだ。
「どうする、ノゾム。まずは身体の動かし方から学ぶか?」
「俺はさっさと弓をマスターしたいよ」
「そうか……」
ラルドは明らかにしょんぼりとする。
「ラルドはここで……えーと、基礎を学び直したらいいんじゃないかな?」
「それもそうだな!」
ラルドは笑顔で頷くと、「ひゃっほーい」と叫びながらアスレチックへ突撃した。
やっぱり遊びたかったんじゃないか。