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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
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森の王者Ⅵ

 崖を上ってきたノゾムたちを見て、ラルドは目を丸めた。てっきりノゾムだけが上がってくると思っていたのに、その背中にナナミがしがみついていたからだ。


 ノゾムのうっかり(・・・・)で見つけ出せるんじゃ、と確かにラルドは言ったけど、まさか本当に見つけ出してくるなんて。ノゾムって、実はものすごく運が良いのではなかろうか。


 そんなことを思いながら2人を見ていたラルドは、「ん?」と違和感に気付く。なんか様子がおかしい。


 ノゾムは剣呑な顔をして何事かをブツブツ呟いているし、ナナミにいたっては完全なる無表情。能面を貼り付けたかのようだ。


 いったい何があった?


「心頭滅却、心頭滅却……」

「なにブツブツ言ってんだよ、ノゾム。ナナミもその顔こわい。無駄に美少女なんだから余計にこわい」

「無駄で悪かったわね!」


 ぎろりと睨まれる。能面が少し壊れて、ラルドはちょっと安心した。睨まれて安心するというのも、おかしなことだけど。


「ナナミも崖に落ちてたんだなー。実はドジっ子か?」

「……うるさい」

「で、豹は? その様子じゃ、捕まえられなかったみたいだけど」


 ナナミの近くに豹はいない。ノゾムの背中から降りたナナミは、残念そうに崖の向こう側を見た。


「向こうへ跳んでいっちゃったわ」


 なるほど。それを深追いして、崖から転落したのか。


 崖の向こう側までは結構な距離がある。充分な助走をつけてジャンプしても、おそらく届かない。また崖下へ転落するのがオチだ。


 ナナミは口元に手を当てた。


「どうにかして渡らないと……」

「って、ナナミさん、まだ諦めないの!?」

「当たり前でしょ?」

「いや、戻ろうよ! セドラーシュさんたちを待たせてるんだよ!?」


 真面目なノゾムらしい言葉だ。

 ナナミは唇を尖らせた。


「だったらあんたたちだけで戻りなさいよ。私はひとりでも行くから」

「はあ!?」


 ワガママ全開である。レアアイテムを前にした時もこんな風だったが、おそらくナナミにとってはあの豹も、とてもレアな『お宝』なのだろう。


 宝を前に引き返すことは出来ない、という気持ちは、ラルドにも分かる。


 画面の隅に見える宝箱は気になるものだ。どうしたら手に入れられるのかと考えるし、『諦める』という選択肢は(はな)から浮かばない。


 だが、待たせているセドラーシュたちに悪いという、ノゾムの意見も分かる。というかたぶん、正しいのはこっちだ。ついて来ようとしていたネルケも、心配そうだったし。


 ラルドは自分の左腕のリングを見た。チョコレートを食べたおかげで、MPは回復している。


 これ(・・)を使うと、また尽きてしまうが……チョコレートはもう1個持っているので、『帰り』の分は大丈夫だろう。


 味方識別(マーキング)をノゾムとナナミ、ついでにロウに付いていることを確認して、ラルドは口論をする2人を見た。


「『レビテーション』」


 3人と1匹の体がふわりと浮く。突然のことに、ノゾムとナナミの声が止まった。そのまま崖の向こうまで移動して、ゆっくりと地面に降りる。


 【魔道士】のセカンドスキル『中級魔法』のひとつ、レビテーション。自分と仲間を浮遊させる魔法だ。


 浮かせる人数と時間によって消費するMPの量が変わる魔法で、ラルドの今のMPでは、この人数とこの距離が限界だった。すっからかんになってしまったMPを回復するために、ラルドは最後のチョコレートをもぐもぐと頬張る。


「ラルド……?」


 ノゾムが困惑した顔を向けてくる。

 ラルドはもぐもぐと口を動かして、言った。


「さっさと豹を仲間にして戻ろうぜ」

「え!? いや、でも!」

「口論してる時間がもったいない」


 おそらくナナミは引かないだろうし、ノゾムも意見を変えないだろう。長々と決着のつかない口論をするのと、3人で協力してさっさと豹を仲間にして戻るのと、果たしてどちらが早いだろうか。


 どちらにせよ、セドラーシュたちを待たせることになるのは変わらない。ならば、収穫のあるほうを選ぶべきじゃないかと、ラルドは思う。


 ナナミはにんまりと笑みを浮かべた。


「さすがはラルド。石頭のノゾムとは違うわね」

「石頭!? ナナミさん、俺のことそんな風に思ってたの!?」

「ごめんねぇ。私、子供(・・)だから」


 嫌味ったらしく告げるナナミに、何故だかノゾムは「うぐっ」と声を詰まらせる。


 ナナミは何を怒っているんだろう。ノゾムは心当たりがあるのか、「聞こえてたんだ……」と呟いている。ラルドにはさっぱりだ。


 ラルドは首をかしげてナナミを見て、「確かに子供体型だな」と頷いた。顔は美少女であるが、体は小さくてメリハリはない。ロリコンが好みそうな体型である。ナナミの拳が飛んできた。


「あの、さっきのは、そういう意味で言ったんじゃなくて……」


 ノゾムは何やら、しどろもどろに言い訳している。

 ナナミは聞いちゃいない。


 まあ、そんなことよりも。


「早く行こうぜ。セドラーシュたちを待たせちゃ悪いんだろ? ちなみに俺はチョコレートが尽きちまったから、中級魔法はあと1回しか使えない」

「MPが少ないのに、使いまくるからだろ?」

「だって魔法って、かっけーじゃん」


 ローゼが放つサイクロンを思い出す。『魔法攻撃力』を上げると、あんなに派手で強力な魔法になるのだ。あれを見てテンションが上がらない奴なんて、いるわけない。


 ただ困ったことに、『魔法攻撃力』を上げると『物理攻撃力』が上がらない。ラルドは大剣での無双も楽しみたいのだ。


 剣と魔法、どちらを強化するべきか……非常に悩みどころである。


 ノゾムは額に手をついてため息を吐いた。何を言っても無駄だと察したらしい。賢明だ。

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